第17話

 今回、私たちがやってきたのはカラッカラン砂漠と呼ばれている中東地域に位置する砂漠である。4つ目のグロウジュエリーの反応は、この場所から出ていた。


 それにしてもである……。


「さすがに砂漠は暑いのでアリマス」


「冷房が効きませんワ」


 灼熱の太陽の下、ロボの中で私たちは大汗をかきながらヘバっていた。いや、ヘバっているのは私と妹だけで、姉は何故か元気一杯である。


「何を言ってるおまえたち。砂漠は暑いからいいんだぴょん。暑くなかったら砂漠ではないぴょん」


「うわー。ここにマゾがいる! マゾがいるでアリマス!」


「ぬるい砂漠でもいいではないですか。むしろ、ぬるい砂漠の方がいいですワ」


「そんなの断固許さないぴょん! いつか砂漠に旅行に訪れたいと思っていたけど、グロウジュエリー探しで訪れることができてラッキーだったぴょん。これぞ一石二鳥だぴょん」


「マゾでアリマース。マゾがここにいるでアリマース。おまわりさーん、マゾがいるでアリマース」


「こんなところに、警察なんていないぴょーん。……いいぴょんいいぴょん。砂漠の素晴らしさを、おまえたちに理解してもらえなくてもいいぴょん。ところでキャロット、グロウジュエリーの反応はまだ絞り込めないぴょんか?」


「はい……前回の島のような古代遺跡からも検知された電磁波と、よく似た波動が出ているようで、レーダーの捜索精度が低下しているのですワ」


「弱ったぴょーん。早く『とったどー』をしたいぴょん。電磁波が邪魔だぴょーん」


「とはいえ今回のグロウジュエリーも3つ目同様、この砂漠のどこかにあると思われる古代遺跡の残存エネルギーを糧に、発芽して育ったという可能性も高いのでアリマスけどね……」


「うぴょーん。どっちにしても電磁波が邪魔だぴょーん」


「たしかに厄介ですワ」


「そうした中でも見つけ出して、『げっとだぜーい』をしたいのでアリマス」


「いいや。『とったどー』をしたいぴょん」


「いえいえ。『げっとだぜーい』をしたいのアリマスよ」


「とったどー、だぴょん」


「げっとだぜーい、でアリマス」


「うぐぐぐぐ」


「むむむむ」


 私と姉はにらみ合った。視線の間でバチバチと火花が飛んだ。


「どうでもいいことでケンカしないで頂きたいですワ。ただでさえ暑いのに、ロボの中が、もっと暑くなりますワ。ところで私、2つ目と3つ目についてですが、今でもあの浜辺にあった長方形と尖った石が怪しいと思っておりますワ」


 前回、小僧と小娘が暮らしていたテントの近くで見つけた『石』のことである。キャロットはあれをグロウジュエリーだと思っているようだ。しかし、グロウジュエリーの見た目として、『ただの石』という前例はない。少なくとも私たちは、見たことがない。


「あんなのグロウジュエリーじゃないぴょん」


「そうでアリマス。グロウジュエリーとは成長する鉱物でアリマス。見た目は定まってはいないものの、宝石のようにキレイであることが共通した特徴なのでアリマス」


「……ですが、私の勘は当たるのですワ。10%の確率でっ!」


「それはもう、ほとんど当たらないと言ってるのと同じだぴょーん。90%は外れてるわけだぴょーん」


「おほほほ。言われてみれば、全くその通りですワ」


「さーて、調査を続けるでアリマスよ」


 私たちは、さらに砂漠を進んで、グロウジュエリーが生成されていると思われる場所までやってきた。『あると思われる』と表現したのは、漠然としていて、詳細な位置が不明だからだ。


「うーん。ここら辺にあるのですけどねー」


「どの辺でアリマスか?」


「あの辺ですよ。その辺ですよ。そこら辺ですよ」


「辺り一面、砂しかないでアリマス」


「でしょうね。なぜなら、グロウジュエリーは私たちを起点として30キロにあることが推定されているだけですから」


「うーん。かなり大雑把だ、ぴょーん」


「これでも、特定した方ですワ。レーダーで表示させたマップのあちこちに反応が出ておりますので、それらの反応が現われた地点の分布を記録し、さらに平均値までを求めたのです。すると中心点が算出され、現在その中心点に私たちがいるわけですワ」


「だったらこの場所にあるってことじゃないぴょんか?」


「データ不足のため、完全な中心点ではなく、暫定的な中心点ですワ。正確な中心点の場所は、徐々に分かってきておりますが、まだまだデータが不足しているのですワ」


「どれくらいで正確な中心点が、わかるぴょん?」


「ざっと4か月もあれば特定できると思いますワ」


 4か月も……。


 私は頭を抱えた。


「うわあああ。それは長過ぎるのでアリマス! 4か月だったら、私が電磁波の影響を受けずに、グロウジュエリーを探せるよう、新たなロジックを構築して、レーダーを作り直した方が早いのでアリマス!」


「ちなみに、ばにーの方はどれくらいで、それが出来るぴょん?」


「3か月半くらいでアリマス」


 私であれば3か月半もあれば、それが出来るだろう!

 だが……。


「……それ、キャロットの方法と見つけるまでの期間が、あまり変わらないぴょーん。もう地味だけど、目視で探した方が早く見つけられるかもしれないぴょんね」


「とりあえず、探しましょうか」


「グロウジュエリーは特殊な見た目ですので、ひょっこり転がっていても目立つのでアリマス。案外、この方法で、簡単に見つかるかもしれないのでアリマス」


「だぴょん!」


「それではレッツ、捜索!」


 私たちはクネクネガシャンガシャンとロボを動かしながら目視でグロウジュエリーを探した。しかし、グロウジュエリーらしきものは見当たらない。東西南北、地平線のかなたまで砂、砂、砂である。


「今、気付いたぴょん。砂に埋まっていた場合、目視で探すのって結構、きついぴょんね?」


「そうでアリマスね」


「それでも、目視で探さなくてはならないのですワ」


「ローラー作戦はどうでアリマスか? ウサギの豆を使い、あの必殺技を使用しちゃうのでアリマスよ」


「あれ……だぴょんね? いいぴょんよ。もう……仕方がないぴょん」


「分裂ですワね。了解ですワ」


 私たちはロボを停止させると、ウサギの豆を掴んだ。


 使用するウサギの豆は3粒。


 私たちはダンスを踊るようにして陣を描いた。ロボがオーラに包まれ始める。


 これまで必殺技は攻撃として使用する場合が多かったが、攻撃の用途以外の必殺技も多々開発している。例えば今回がそうだろう。


 ポージングを決めた瞬間、ウサギの豆がピカピカと輝いた。


 ――必殺技、発動・準備完了。


 ウサギの豆の消費数……『3粒』。


【【【ハゲにならない逆フュージョンぽこぽこ煩悩っ】】】


 私たちがそう叫ぶと、ロボが光り輝き、ポコポコと外装から、まさにアメーバが分裂するかのように無数の球体が放出された。それらの、球体はすぐに腕が8本生えて、ロボの同じ外見になる。


 パンパカパーン。


 ちびロボたちが誕生!

 ちびロボたちは、ギョロギョロと一つ目を動かして周囲を見渡していた。ちびロボたちには、それぞれ私たち3姉妹が分裂した存在も搭乗していて、知能も高い。


 誕生したちびロボの数は、煩悩の数と同じく108体だ。かつて西遊記のお猿さんは同じような分身の技を、自身の髪の毛をむしることで実現させていた。ゆえにお猿さんの方は、分身を出し過ぎるとハゲになるというリスクがあったが、私たちにはそのようなリスクはない。


 目的を終えたら、分裂したちびロボたちを、再び本体に合流させることで、元に戻れるのだ。なので、お猿さんの技の上位互換の技といえるだろう。


 しかし……。


「この必殺技はあまり使いたくなかったですワ。なぜならオメガランだけでなく、私たちまで分裂するので、身長と体重が半分となります……。しかも、なぜか2頭身となってしまうのですから!」


「とはいえ、これぞ奇跡を起こすウサギの豆の神髄だぴょん! 我々は西遊記のお猿さんのように髪の毛をワザワザ抜く必要はないんだぴょん!」


「そうでアリマス。目的が済めば、逆フュージョンした分身たちを本体に合流させて、元に戻ればいいだけでアリマス。さあ、ローラー作戦の始まりでアリマスよー。108体のチビオメガランを操縦している108に分裂した私たちよっ! 何をすればいいか分かっていると思いますが、一応指令を出すでアリマス。アンコロ餅を探してくるでアリマース」


「違いますワ! こんな砂漠にアンコロ餅なんて落ちていませんワ!」


「そうだぴょん! 探すのはずばり、キナコ餅だぴょーーーん。分裂した私たちよ! キナコ餅を探してくるんだぴょーーん」


「だから、砂漠に餅はないのです! 分裂したため、知力まで半分になってしまったのでしょうか?」


「うっしっし。冗談でアリマスよ。ジョークでアリマス」


「ぷっぷっぷ。半分になってもジョークのキレは健在だぴょん」


「いえいえいえいえ。かなり酷いデキでしたワ。まあ、いいでしょう。では、うさぴょんお姉さま、今度は真面目に指令を出してくださいね」


「ではみなのもの、グロウジュエリーとキナコ餅を探してくるぴょん! 数を増やしての大規模ローラー作戦を開始だぴょん」


「し、しつこいですワ。キナコ餅ってなんですかっ……!」


「傑作なジョークだぴょーん。何度言っても笑えるぴょん。ぷっぷっぷ」


「自分で言って、自分だけでウケていますワっ!」


「とにかく頑張ってくるでアリマスよー、分裂した私たちよっ! オハギを探してくるのでアリマーース」


「ここにもしつこいウサギがおりましたワ! もう、いい加減にしてくださいっ!」


「ぷっぷっぷ」


「うっしっし」


 私と姉は顔を合わせて笑った。キャロットは目を細め、そんな私たちを抗議するように見つめてきた。


「もはやオヤジギャグよりひどいですワ。……さあ、私たちも探しに行きましょう! 醤油をつけてノリで巻かれたお餅をっ。おほほほ」


 私たちは餅……ではなく、グロウジュエリー探しを再開する。現在、レーダーは広範囲モードから、10メートル以内限定モードへと変えていた。今回、新たに実装したシステムである。このモードにすると、グロウジュエリー信号が消える。しかし、10メートル以内になった時点で、電磁波で邪魔されていようとも、再び信号が出る。そうなれば、索敵範囲を10メートル以内と、大幅に縮めることができる。ちびロボたちも同様の範囲に切り替えて捜索している。


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