第16話
これから……『封印』が解かれようとしている。
ゴゴゴゴゴゴ。
私たちはアジトの風呂場から、アヒルの玩具を取ってきた。手のひらに乗せられる程度の大きさのこの玩具は、お風呂に入った時に浴槽に浮かべて遊ぶものであるが、それは仮の姿。『シンデレラ』で魔法使いのおばちゃんが、カボチャを馬車に変えたのと同じように、私たちもロボをアヒルの玩具に変えていたのである。
「まさか、オメガランがアヒルの玩具になっているだなんて、誰も思わないでしょう」
「泥棒が入ったとしても、まさか、浴室に置かれているアヒルの玩具が、我らウサギ族の英知の詰まった結晶とは思いもされないわけで、盗まれる可能性もほぼゼロっ!」
「では元に戻すぴょん。こうやって、ウサギの豆を一粒、口の中に入れるだけで、あーら不思議、元に戻るぴょーん」
ポム、と音がしてアヒルの玩具は巨大なオメガランになった。私たちはアジトに帰還してから、屍のように寝て、療養していた。そんな時、レーダーに4つ目のグロウジュエリーの反応が現われたので、再び回収しに向かうことになったのだ。
「オメガラン4号と名付けるぴょん。本当は何千年も前に作ったものだぴょんけどね~」
「了解ですワ」
「それじゃあ、4号機と呼ぶでアリマス」
このロボは何千年も昔、日本が江戸と呼ばれていた時代に製作したものだ。3号機は空中にて大破し、備品の回収が不能となった。レーダーも紛失したため、複製を作っていなければゲームオーバーだった。予備・保険というものの重要性を痛感した。
「しかしながら……まさか4号機を出す日が訪れるなんて、思いもしていなかったでアリマス」
「何かあった時の為に『念のため』に作っておいた4号機を使用する日が来るとは……だぴょん」
「あ、あ……あの時のことが今でも思い出されますワ」
「うぴょーん」
私たちは、天井を仰ぎながら、江戸時代の出来事を回想する。
「当時、この4号機を作るために、ものすごい節約をしていたでアリマス。日々の飢えをしのぐために、ダイコンやらスイカやらを畑泥棒していたでアリマスね。今思えば、あれが怪盗の走りだったのでアリマス」
「わざわざ農家に『あんたんところで育てている野菜を3本盗む』とか何とか予告していたのに、警察はやってきませんでしたワ」
「あの時は、郵便ポストがなかったので直接、農家のおっちゃんやおばちゃんに犯行を予告していたのでアリマス。いま思えば同情されていたのかもしれなかったでアリマスが……」
「ふん……同情、上等! 私たちは怪盗だぴょん! 同情されていようがされていなかろうが、欲しいものがあれば盗む。それこそが正道だぴょん! 迷惑にならない範囲でっ!」
「さすがです。さすがは怪盗団のカシラですワ!」
姉は妹に讃えられ、『えっへん』と胸を張った。
「これから私はルパン5世を自称するぴょん!」
「では私は金田一の孫ならぬ、ゴエモンの孫を自称しますワ。おばあちゃんは、ふ~じこちゃ~ん、でっ!」
「それじゃあ、私はジゲンの孫を自称するでアリマス。私もおばあちゃんは、ふ~じこちゃ~ん、でっ!」
「ふ~じこちゃーん、どれだけ子供を生んでるぴょーん! 2人とも、あの女を警戒していたから、夫にも愛人にもなる可能性は低いぴょん。別の人にしろだぴょん! 例えば、しずかちゃ~ん、とか!」
「作者からして違いますワっ!」
「そうでアリマースー」
「うっしっし」「ぷっぷっぷ」「おほほほ」
私たちは笑い合った。何にせよ、極貧生活をしてまでロボの予備を準備していてよかった。備えあれば憂いなしである。
「しかし、4号機に乗ってそのまま向っても、また大破する可能性があるぴょん」
「私たちの敵は『運命』それ自体でアリマス。見かけの障害は小僧と小娘だったのでアリマスが、所詮は見せかけ。『運命』こそが古来からの、真の対立者でアリマス」
「私、嫌な予感がしているぴょん。まだ、あの2人が生き残っている気がするぴょん……」
「それは……そうでアリマスね」
………………。
私たちは『呪い』の影響を受けている。一方、小娘は『祝福』の影響を受けている。
生き残っている可能性は、なきにしもあらず……というか、生き残っているだろう。なぜなら、レーダーでグロウジュエリーを検索したところ、2つ目と3つ目の反応が共に消えていたからだ。つまり、あの小僧と小娘が生き延びて、グロウジュエリーを回収して持ち帰り、レーダーで感知できないように何らかの細工を施した、と考えるのが妥当なのだ。
「実際、これまで全てのグロウジュエリーの獲得に失敗しているばかりではなく、連続でオメガランも大破させておりますワ。これは明らかに異常ですワ! まさに、グロウジュエリーによってかけられた呪いの影響なのだと私は思っておりますワ」
「二度あることは三度ある。三度あることは何度でもあるのでアリマース!」
「なので今回、4号機をパワーアップさせるぴょん! しかし、おかしいぴょん……パワーアップさせる機能を備えた記憶はあるぴょんが、そもそもパワーアップさせる必要性なんてこれまでなかったから、使ったことがないぴょん。誰か覚えてないぴょんか?」
私たちと同等の戦力を持つ敵が現れなかったので、パワーアップをさせる機能は一度も使ったことがない。なので、どうやってロボをパワーアップさせるのかが分からない。
………………。
「す、すみませんでアリマス。私もそこらへんは記憶が曖昧なのでアリマス」
「私も見当もつきませんワ。パワーアップさせるまでもなく、私たち怪盗ウサギ団は最強・無敵・無敗でしたから」
「たしか、何らかの手段で、エネルギーを注入するようにしていたような記憶が……ちょっぴりだけ蘇えってきたぴょん」
「どうやってでアリマス?」
「それを忘れたぴょん! とにかく色々と試してみるぴょんよー」
とりあえず私たちは、ロボをパワーアップさせるための『儀式』を行うことにした。『儀式』によってパワーアップするかもしれないし、しないかもしれない。
巫女装束に着替え、早速開始する。ウサギの豆を皿にのせてお供えし、姉は笹の葉を振りながら、お清めをした。
「アダブラカダブラ~。神さま、仏さま、ウサギ神さま~、エネルギーをオメガランに注入してくれたまえ~」
「「してくれたまえ~」」
パンパン、と手を叩く。
笹の葉を再び、バサバサと振る。そして姉は、木魚を叩きながら『お経』を読み始めた。
私と妹は姉の後ろで正座している。足がしびれてきた。私は隣の妹にボソボソと話しかけた。
「キャ、キャロット……こんなやり方だったでアリマスか?」
「知りませんワ。しかし、うさぴょんお姉さまは、一度やると言い出したら、頑固になって聞きませんので、やらせるだけやらせてあげればいいのですワ」
「……でアリマスね」
ポコポコと木魚を叩きながら、姉は『お経』を読み続ける。
………………。
「おっと……そういえば、今日は燃えるゴミの日だったのでアリマス。すっかりゴミを出し忘れていたのでアリマスよ」
「それはいけませんワ。次の燃えるごみの日は特定日なので、収集がお休みなのですワ」
「げげげ。まずいでアリマス。生ごみもあるので、コバエが発生するでアリマス」
温度と湿度次第で、ゴミからコバエが大量発生する場合がある。今、生ごみを放置するのは、とても危険な時期である。
「仕方がありませんワ。でしたら、私が裏技を使って処分しますワ」
「裏技、でアリマスか?」
「はい」
キャロットは立ち上がると、出し忘れていたゴミ袋を手にして戻ってきた。そして、姉がお経を読み上げている中、オメガランの側部をカポーンと開けて、その中にゴミ袋ごと、どっすんどっすんと入れた。私は呆気にとられた。姉も呆気にとられて、お経を読むのを止めた。
「な、なななな、なにをしているぴょーーーーん」
「え? 何って、燃えるゴミの処理ですワ。ここに燃えるゴミを入れると、勝手にオメガランが処理してくれるのです。昔、よく使ってましたワ」
「「こ、これだぁぁぁああああああぁぁぁ」」
私と姉の声がハモった。
思い出した。私たちは巫女装束から、いつもの服装に着替えて、ロボの前で集合した。ちなみに、私たちの普段着は『浴衣』である。
「そういえば、そうだったぴょん。思い出したぴょん。ここにウサギの豆を入れてパワーアップさせるんだぴょん」
「有機物を分解してエネルギーに変える装置を備え付けたことを、すっかり忘れていたのでアリマス! そもそも、これを作ったのは私だったのでアリマスよ。私が理論を構築して、一から作製したものでアリマス。この装置がまたお金がかかって大変だったのでアリマスよー」
「自分で作ったものを忘れちゃダメだぴょーん」
「てへへへ……でアリマス」
「まさか……それを私がかつて、便利なゴミ捨て場所だと思って利用していたとはっ!」
なんにせよ、これでロボのパワーアップの目途がついた。姉は皿に盛ったウサギの豆を、ジャララララとロボの中に入れた。オメガランは一瞬、輝いた後に元に戻る。外見の変化こそないが、性能は段違いに変わっている。
「おおおっ! ウサギの豆は一粒作るのに1年ぐらいかかりますのに、大判ふるまいですワー」
「星に帰れるかどうかの瀬戸際なんだぴょん! グロウジュエリーの奇跡に対抗できるのはウサギの豆による奇跡のみ。それではパワーアップも済ませたことだし、出発するぴょん」
「「おーーーーうっ!」」
出発!
私たちが搭乗したオメガランは水路から発進し、お台場を横切りって日本海に出た。そして、ユーラシア大陸に上陸する。
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