第15話

「朗報です! どうやらこの遺跡で稼働しているガーディアンはあれ一体のようですワ」


「とはいえ、まずいでアリマース。相手は8本腕、しかし、こちらは3本失って、5本腕っ!」


「まずいぴょーん」


 敵は猛攻を仕掛けてきた。一方、私たちは冷や汗を流しながら回避作業に没頭する。相手は攻撃。こちらは防御。完全に勝負がついたようだ。あとは時間の問題のように思えた。敵は1000トンぱんちを連発してくる。一発でも本体にくらえば、おしまいだ。


「まずいまずいまずいぴょーーーん、また腕を1本もっていかれたぴょーん」


「これで4本腕になったのでアリマス」


「またまた持ってかれたぴょーん」


「3本腕っ! 防戦一方でアリマース。3本腕では十分な移動が困難でアリマス。もはや退却しかないでアリマス!」


「あの化け物から、全力で逃げるぴょん」


「いいえ! その必要はありませんワ」


 私と姉が退却を決めたところ、妹は反論してきた。なぜ?


「なぜでアリマスかー」


「この勝負、私たちの勝ちだからですワ」


「どうみても、私たちの方が劣勢でアリマース」


「またもっていかれぴょーん。残りの腕は2本だぴょーん」


 キャロットは勝てると言っている。しかし、とても勝てるとは思えない。


「お姉さまがた、それでも勝てるのです。私を信じてください! 私自身信じていない、この私をっ!」


「自分でも信じてないぴょーん」


 だめじゃーーん!


「今こそ、再度、10000万トンぱんちですワ」


「なむさんだぴょーん」


「2本しか腕がないけど、仕方がないのでアリマース。足りない分は、ウサギの豆で補完するのでアリマス」


 大量のロケットランチャーを発射した。これは敵にダメージを与えるためではなく、発射の勢いと爆風で後退し、敵との距離を確保するために放ったロケットランチャーだ。


 後方に移動しながらも、残された2本の腕をぐるぐると巻きつけて、1本の腕にした。エネルギーをチャージしながら、相手の攻撃に備える。


 ――パワーアップ。


 ――パワーアップ。


 ――パワーアップ。


「大丈夫なのでアリマスか?」


「私の計算に間違いはありませんワ! ……たぶん」


「たぶんが、ネックだぴょーーーん」

【攻撃力・防御力×30×4×8×15×10(こぶし)】

 ――必殺技、発動・準備完了。


 うさぎの豆の消費数……『2粒』。


 まさに居合斬りの極地である。移動用の腕はないため、この場から動けない。敵はこちらと同じように『10000トンぱんち』のモーションで近づいてきた。


 双方から発せられたオーラが混ざり合って、空間が歪む。


 特殊な磁場が発生しているのか、崩れた岩の破片が浮遊した。


 互いの攻撃範囲は同じだ。


 その範囲が重なった瞬間、膨大量の光によって輝くコブシとコブシがふり上げられた。


【【【もう一度、くらえ必殺、10000トンぱーんち】】】


 膨大量の光を伴ないながら、コブシとコブシがぶつかり合った。インパクトの瞬間、打ちつけ合ったコブシを中心に、前回と同様に無数の波動が発生した。


 そして、ロボと敵が吹っ飛んだ。


 両サイドの壁に激突。


「う、うぐぐぐぐ」


 破損の度合が大きく、衝撃吸収システムがうまく機能せず、コックピット内にも、衝撃が伝わった。


「痛いですワ……でも、勝ちましたワ」


「いやいや、互いに同じ攻撃で相殺し合っただけでアリマスよ……ってアレレ?」


「敵が起き上がらないぴょん。向こう側の壁にぶつかった状態で、プスンプスンと煙を出しながら停止しているぴょん。なんでだ、ぴょん?」


 どういうことだ? 本当に勝てたのだろうか? キャロットは勝ち誇った顔をしている。


「所詮、あれは相手の真似をするだけのロボットだったのですワ。どのようなテクノロジーを使っているのかは存じませんが、なかなか珍しい兵器でしたワ」


「そ、それでも恐ろしい兵器だったぴょん。珍しいだけでは決してなかったぴょん」


「それにしても、どうして勝てたのでアリマスか?」


 疑問が残る。なぜなら相手は全くダメージを受けている様子はなかった。そもそもこちらは防戦一方だった。攻撃は、全くしていなかった。


「あれは能力をほぼ真似ることができましたワ。しかし、ただ、それだけだったのです。エネルギー量まで真似することはできませんでした。つまり、ごく単純に殴り合いをしていただけでも、勝手にエネルギーを消耗して、ツブレてくれていたのですワ」


「なるほどー。あいつ、エネルギー切れで、ノックアウトしたのでアリマスね」


「本来、この古代遺跡からエネルギーの供給を受けて、無尽蔵な活動を続けれたようですが、私がチビロボを介して古代遺跡を操作しました。そして、エネルギーの供給が出来ない状況にすることに成功したのですワ」


「だから、動かなくなったんだぴょんね!」


「キャロット、でかしたでアリマス! 私たちの勝利でアリマース」


「オニ族のテクノロジー。怖れるに足りずですワ。おほほほ」


「とはいえ、2本腕になるという致命傷を負ったぴょん。相手の方がエネルギー量が多ければ、危ないところでもあったぴょーん。素直に喜べないぴょん……」


「いいではありませんか。勝利の余韻を堪能しましょうよ!」


 ………………。


「そうでアリマスね。勝ちは勝ちでアリマス。いやったぁぁぁーでアリマーース」


「そ……それもそうだぴょんね。がははは。オニ族、おそるるに足りずだぴょーん。うぴょーん、うぴょーーーん」


 私たちは純粋に勝利を喜んだ。


 一方の敵は、水色のゲル状の物体に戻り、その場で蒸発して消えていった。


 その後、私たちはのっそのっそとロボを動かして、周囲の壁をコンコンを叩いていく。そして、反響する音の違いにより、隠し通路を発見した。警報が鳴ったことで、奥へと続く通路が隠されていたのだ。


 パンチで壁を破壊したところ、通路が出現した。


「さあ、行きましょう。この遺跡はあの一体のみが唯一の侵入者撃退用ガーディアンだったみたいですワ」


「ワクワクるんるんだぴょーん。冒険者心がくすぐられるぴょん。別に冒険者じゃないぴょんけど~」


「奥に、グロウジュエリーがあればいいでアリマスね。アンコロ餅があれば尚よしでアリマス」


「きっと、キナコ餅があるぴょん」


「いいえ。海苔で巻いた醤油餅ですワ」


 ガシャン……ガシャン……と2本の腕でほふく前進して進む。そして、金銀財宝がアチコチにある部屋に出た。宝物がキラキラと輝いていて、眩しい。


「おおおおおー。まさに、グロウジュエリーがありそうな予感のする場所だぴょーん」


「この古代遺跡の宝物庫でアリマスね。これら全てを次元の歪みの中に入れ、アジトに持ち帰るでアリマス。遺跡内は電波が邪魔をしていて、グロウジュエリーの正確な判別が行えないのでアリマス」


「しかもこれで、来月分のアジトの家賃が払えますワ。いえいえいえ、来月分と言わず、買い取れますワ」


「やったぴょーん。返却しなくてもいい宝石なんて久しぶりだぴょーん」


「いつもは美術館などで盗んでも、郵便で返却していたのでアリマスもんね~」


 我々怪盗ウサギ団は、盗んだ宝石がグロウジュエリーでないことが分かれば、返却している。私たちは母星に帰還するために、グロウジュエリーを集めているだけである。宝石が無くなって困る人がいるのなら、グロウジュエリーでないと分かれば、返却するのは当然だ。私たちは、そこまでワルの集団ではないのだから。


「それにしても……あの台座の上にある宝箱……めちゃくっちゃ気になるぴょん」


「あれだけ、特別仕様でアリマスね……なにが入っているのでアリマスかね……」


 部屋の中央には台座があり、そこには華麗な装飾のされた宝箱があった。


「すみませんが、お姉さま方……私、あの宝箱から嫌な予感がしますワ」


「キャロットの勘でアリマスか?」


「そうですワ。私の勘はいつも1割の確率で当たるのですワっ!」


「そんなの当たらないのと一緒だぴょん! あの、宝石がちりばめられている豪華な宝箱の中身を調べてみるぴょんっ!」


「うぅぅ……本当に嫌な予感しかしないのに……」


 がしゃんがしゃん、と宝箱の近づいて宝箱を開いた。


 中には……。


「空っぽ……でアリマスね」


「なんでしょうか? 底に髑髏マークが描かれてありますワ。しかも、ツノが生えた髑髏マークですワ?」


「期待させるだけ期待させて、がっかりだぴょん。じゃあ、周囲の宝石類の回収作業を……」


 姉がそこまで言ったところで地鳴りがした。ゴゴゴゴゴと床が揺れ始める。さらに、サイレンの音が大音量で鳴り響き出した。


『緊急自爆モード発動。これより浮上します。緊急自爆モード発動。これより浮上します。緊急自爆モード……』


 アナウンスと同時に、あちこちからドゴーン、ドゴーンと爆発音が聞こえ始めた。


 な、なんだ~?


「まさか……あの宝箱を開くことが、自爆のスイッチだったでアリマスか? 侵入者対策の?」


「だから私の勘は当たるのですワー」


「10%当たるというのは、90%は外れるということだぴょーーーん」


「そして1分以内に、この部屋は大爆発しますワ。なお、これも私の勘ですワ」


 ちなみに、キャロットではないが私も、そんな予感がした。


 まもなく、大爆発に巻き込まれる、と。


 というか、『自爆モード発動』ってアナウンスされている!


「……防御フィールドを展開だぴょーん。ありったけのエネルギーを使用するんだぴょん。さらにウサギの豆を使用して、地上へ、ぶちかましを仕掛けるぴょーん」


「全エネルギー、防御用にまわしたでアリマス」


「私の勘は当たるのですワぁぁぁぁぁーーーーーー」


「うわあああああ」


「ぴょおおーーーーーーん」


 私たちはそれぞれウサギの豆を摘まんで、高速で陣を描いた。必殺技発動のポージングを決めたのと、部屋が光で飽和したのは同時だった。必殺技名を叫ぶ暇もなく、私たちは遺跡の外へとぶっとんだ。


「あれええええええええええええだぴょーーん」


「うわあああああああああああああああああああああああああああー。なむさんでアリマーーーース」


「ちっくっしょおおおおおおおおおおおおおおおおおですワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 ロボは上空で耐久限界を突破する。大爆発を起こして、備品が散り散りになり……大分解した。ロボから放り出された私たちは、海面へと落下する。


 そして……。


 ドボオオオオオオオオオオオオオ~~~ン。


 深く海中に沈んだ後、プカプカと水面に浮いた。


 大の字になって空を眺める。姉も妹も生きているようだ。


 波がやってくると大きく上下した。先程まで私たちがいた古代遺跡が、空高く浮上していく様子が見えた。自爆の際は、出来る限り地上に被害が出ないよう、空高く飛ぶように設定されていたのだろう。飛行のテクノロジーが古代遺跡全体に使われていると思われる。


「……ばにーとキャロット、無事ぴょんか?」


「大丈夫でアリマス」


「体だけは丈夫なのですワ」


「……じゃあ、アジトに帰るぴょん」


「なんだか……2か月前のデジャブを感じますワ」


「キャロット……。フグは『とったどー』をしても食べちゃダメだぴょんよ?」


「……分かっておりますワ」


「ヒョウモンダコもアンボイナガイも危ないから捕まえちゃダメぴょんよ?」


「そこはお約束できませんっ! 残念ながらっ!」


「変なところで意地をはるなでアリマーーース」


 私たちはロボの残骸をビート板代りにして、泳ぎ始めた。


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