第13話

 まず、ロボの表面をオーラが覆い始めた。

【攻撃力・防御力×30】

「これからする攻撃は桃源郷の時の十倍の重さですワ。私たちとの会話をして頂いたお礼に、この技の弱点をお教えしましょう。もし仮に、この攻撃を受け止める自信がないのなら、技のモーション前に先手を打つのが宜しいのですワ。そしたら小僧の勝ちが確定ですワ」


 ロボの持つ8本の腕のうち4本が、グルグルと巻きついて1本の腕となる。


 ――パワーアップ。

【攻撃力・防御力×30×4(腕部)】

「攻撃力に比例してタメ時間が長くなるんだぴょん。『100トンぱんち』に比べて、これから繰り出す『1000トンぱんち』はタメ時間が、倍以上も必要になるんだぴょんよー」


 これから放つ技は、本来もっと重量をアップさせられる技術があるのに関わらず、あえて『1000トン』というぴったりな数字にこだわった芸術的な技である。なお今回、必殺技『1000トンパンチ』を放つ目的は相手の破壊ではない。


 全身を覆っていたオーラが全て、その腕に集結する。


 ――パワーアップ。

【攻撃力・防御力×30×4×8(腕部)】

 姉は小僧を挑発した。


「しかし、我々は小僧、オマエの本質を、こう解釈したのでアリマス。戦闘狂であると」


「だから、受けて立つだろうと推測したぴょん。さあ、桃源郷での、リベンジを申し込むだぴょん。いざ、尋常に勝負だぴょん」


 小娘が小僧に向かって叫んだ。


『モモくん! やっつけちゃって! 自分から弱点を告げてるわー。超ラッキーよ』

『わりー、リンス。僕、それはできねえー』

『は? 何を言ってるのよっ!』

『僕、どんな攻撃なのか、見てみてえんだ』

『ば、ばばばばばば、ばかやろーー。せっかく、弱点だって、自分で言っちゃってるのにっ』


 莫大なオーラが一瞬だけ拡散し、すぐに収束した。高密度の光が、こぶし全体を包んだ。


 ――パワーアップ。

【攻撃力・防御力×30×4×8×15(こぶし)】

「小僧っ! よくぞ言ったぴょん。それでこそ、男の子だぴょん」


「いま、準備が整いましたワ」


 ――必殺技、発動・準備完了。


 攻撃のモーションを発動。


 膨大量の光に包まれたロボのこぶしから、キィィィィーーーーン、と音が鳴り響く。


 私たちは声を重ねて叫んだ。


【【【くらえ必殺、1000トンぱーんち】】】


 光に包まれたこぶしは、小娘に向かって放たれた。


 小娘は叫んだ。


『きゃああああ。こわあああああああい』


 こぶしの最高速度は音速に到達した。


 ソニックブームが発生する。


 しかし、こぶしは小娘に到達しなかった。


 前回同様、小娘の前に立ち塞がった小僧が受け止めたからだ。


 小僧は顔を真っ赤にしている。


『う、うぎぎぎいっぎぎぎぎぎぎぎぎっぎぎぎぎぎ』


 小僧は拳を押し返そうとするも、踏ん張りが効かず、逆に後ろへと、ズザザザと押されていく。小娘のすぐ前にやってきた時、小僧は空に向かって叫んだ。


『うっがああああああああああがああああああああああああああ』


 こぶしは……止まった。


 受け止めきった。


 しかし、これは想定内のことである。


 私たちは再び、声を重ねて叫んだ。


【【【くらえ追撃、といいつつもシリーズ! ミミズのミミ吉!】】】


 2人の立っている周囲の地中から大きなパイプが出現する。


 それは一瞬で2人の肩の辺りまでを包み込んで、地面に引きずり込んだ。


『きゃああああ。なに、なにこれー』

『うわああ。なんだこりゃっ』


 パイプに包まれた2人は、首から上だけを地面から出している、といった状態となる。


 ウネウネドシンドシンと、私たちは彼らに近づいた。


 ロボの大きな一つ目は、2人を見下ろした。


『くっそ。オ、オメーら、これはなんだ。うぐぐぐっぐ。で、出られねえ』


「ぷっぷっぷ。お馬鹿さんたちだぴょん」


「うっしっし。今回こそ、私たちの勝ちでアリマスね」


「やーいやーい。時間があればオシッコをかけて嫌がらせしてやるところですが、運がいいですワ。おほほほほ」


 小僧は自身を拘束しているパイプから抜けだそうと力んでいる。しかしパイプはびくともしない。


 よかった、よかった。


「小僧の馬鹿力は、何度も見ているんだぴょん。超合金でさえ、生身のこぶしで、ぶっ壊したくらいだぴょんなー。でも、今回の素材は、そんなオマエの馬鹿力でも壊せないような、超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超合金なんだぴょんよ」


「ウサギ族の英知の結晶でアリマス。今回の必殺技のミソはですね、わざと会話に持ち込み、穴を掘る時間を稼ぐところにあったのでアリマス。会話に興味がない相手には、無力な技でもあったのでアリマス」


「ぷっぷっぷ。思い知ったか。追撃必殺技『といいつつもシリーズ』は、超絶に卑怯な奇襲技なんだぴょん。『1000トンぱんち』はただのフェイントに過ぎなかったんだぴょん」


「技の発動を決めた時点から、オマエたちの死角より、穴を掘り始めていたのですワ。どうでしたか? この静寂性。全く気が付かなかったのではありませんか?」


 小僧たちは全く気付いていない様子だった。ロボがポージングを決めた時より、背後からパイプを出して、地中を掘り進ませていたのだ。


「ただ穴を掘るだけならアホでもできるぴょん。しかーし、静かに穴を掘れるのは、我ら怪盗ウサギ団のみっ!」


「穴は、小娘の立っていた位置から半径2メートルに発生させる計画だったのでアリマス。小僧をその位置まで、移動させる事が最大難度の命題ではアリマシたが、無事成功でアリマース。今回の勝因は我々の演算力と心理戦の結果でアリマス……って、キャロット、うさぴょんお姉さま、それと私っ! 敵にわざわざ技の解説をしてやる必要はないでアリマスよっ!」


「いいぴょん。いいぴょん! 大盤振る舞いだぴょん。どーせ、もう会う事はないんだぴょん」


 姉も妹も満面の笑みである。私も同様だ。綺麗に戦略が決まってくれて良かった。


 とにかく、めでたい!

 私たちの勝利が確定したのだから。


「お2人とも。ここでせいぜい、助けを待ち望んで、余生をお過ごしになさるのが宜しいですワ。きっと、誰も助けには来ないと思いますがね」


「ミイラになったら遺体を拝みにきてやるでアリマス。これが本当のレッツ復讐でアリマス」


 小娘はロボを睨みつけて、吼えた。


『ちょっと、あんたたち、出しなさいよっ! 私たちをここから出しなさい』


「出すわけないでアリマス。もしも出したら、今度こそ、私達は小僧にコテンパンにやられてしまうのでアリマス」


「さっき、我々を倒せる弱点を教えてやったのは、何故か? それは挑発する為であると同時に、後悔させる為でもあったんだぴょん。ぶっちゃけ穴を掘っていた間はずっと攻撃のチャンスだったんだぴょんよー」


「ちなみに、小娘が2メートル以上動いても、我々の追撃は失敗していましたワ。我々の完全なる敗北でした」


「あの時こうしていればよかった。ああしていればよかった。そういう悔しい思いは、頭の中で雪だるまの如く大きくなるのだぴょん。無意識に、何度も何度も脳内シュミレーションをしちゃうんだぴょん」


 これは私たちの経験則からの言葉でもあった。


 私たちは随分、タラレバを言いながら苦しんだ。あの時、騙されなけレバ……始末していタラ……一族の者とはいえ、直接の当事者ではなかったので、罪はないと許したことがあった。信用までした。私たちが『呪い』にかかっていることを、甘く考えていた。


 同じ二度と犯さない。ゆえにこの場で『小娘を始末すること』。これは私たちにとっての重要事項である。


「わ、私……涙が出てきたでアリマス。思い出したでアリマス。ずっとずっと、後悔してきたのでアリマス。うぅぅぅ。全ては、マヌケな私のせいだったのでアリマス……。うぅぅぅ」


 仇の一族を許そうと、クッション役を買って出た時もあった。それは私が招いた過去の大きな過ちだった。その結果、3姉妹揃って再び、地獄に突き落とされた。


 思い出すだけで、涙が出てくる。


「ばにーお姉さま、うさぴょんお姉さま、きっと、あのドアの先ですワ。おそらく、あの先にグロウジュエリーがあるのですワ。明らかに怪しい場所ですワ。怪し過ぎて、ぷんぷんと臭いますワ」


『おそらくって、あなたたち、レーダー探知機を持っているんじゃないの?』


 小娘のその質問には、私が答える。


「うぅぅぅ。この島全体から、得体の知れない波動が出ていて、レーダー探知機の精度が乱れているのでアリマスよ。だから宝石の近くにいかないと分からないのでアリマス。うぅぅぅ」


「ばにー、泣くなだぴょん。さーて、今回もおまえらから、宝石の反応は出てないから、宝石は他の場所にあるようだぴょんねー。あとでゆっくりと探して、回収してやるだぴょん」


「おほほほ。あーばよ、ですワ」


「行くぴょん」


 私たちは、うねうねどしんどしんと、扉の中へと入っていく。扉は閉まり、小僧と小娘の姿が見えなくなった。


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