第12話

「あらら? 何か入り口のようなトビラを見つけましたワ」


「本当でアリマスね」


「映像を解析したところ、この扉の奥に高エネルギーを持った『ナニカ』がいますわ。反応を検知できます」


「そいつが、グロウジュエリーを回収して保持してる、ということぴょんか?」


「どうでしょう。グロウジュエリーとは時として、不思議な場所に出現するものです。古代遺跡に残存しているエネルギーを吸い取り、遺跡内で成長したという可能性も考えられますワ」


「とにかく、あのトビラの中が、怪しいぴょん。中に入ってみたいぴょん」


「では、まずはこちらから探索してみるということでアリマスね」


「2つ目と3つ目のグロウジュエリーをゲットして、島に小僧と小娘を残した状態で、おさらばするんだぴょん。これぞナイスアイデアだぴょん」


 私たちは偵察用のミニロボたちからの情報を取得しつつ、島に向かった。そして、ようやく島の地平線の先に、島を目視できた。


「これまでのデータを分析したところ、どうやら前方に見える島は、僅かながらも動いているみたいですワ」


「やっぱり、ひょっこりひょうたん島だったぴょんね!」


「だから、違いますって! どうでもいいですけど、もうすぐ上陸しますワ」


「ど……どうでもいいと言われたぴょん……がーん」


 数分後、私たちは島に上陸した。浜辺にはテントがある。その傍で、魚の干物が作られていた。


「ここで小僧と小娘が生活しているのでアリマスね。大量の魚の骨が転がっているのでアリマス」


「頭の骨だけありませんワ。きっと頭はガップリと食べる派なのですワ。豪快な食べ方ですワ」


 テントの近くには荷物もあったので漁ってみる。そんな中、キャロットが突然、モニターを見つめながら目を剥いた。


「お、おおお、お姉さま方……グロウジュエリーの反応が出ておりますワ。しかも、2つ目と3つ目の反応がこれらの石から! 早くも目的だったグロウジュエリーを発見しましたワ」


 キャロットが指したのは、尖った石と長方形の石だった。えっ? これがグロウジュエリー?

 ………………。


「キャロット……そんな、普通の石ころがグロウジュエリーなわけがないぴょん。どうせ、島から発せられている電磁波でレーダーが狂っているだけだぴょん」


「たしかに、その可能性は否定できませんが……」


「グロウジュエリーの外見は宝石なんだぴょん。売れば一生を遊んで暮らせるほどに、見た目だけでも相当な価値のある鉱物なんだぴょん。こんな『ただの石ころ』のはずがないぴょん。とりあえず、先程のトビラのあった場所に向かうぴょん。そこが怪しいぴょん」


「……ですワ!」


「それじゃあ、発進するでアリマース」


「しかし妙に気になりますワ。さっきの石っ!」


 私たちはロボを、グニョリグニョリどしんどしんと島の中の森林帯の奥に向かって進ませる。


 その数分後、目的地であるトビラの前に到着した。そして、小僧と小娘と、ばったりと遭遇した。彼らはロボを見て、驚いていた。


 姉がニヤニヤしながら話しかける。


「おやおや、おまえたちは! いつぞやの小僧と小娘じゃないかぴょん」


 私もニヤニヤしながら言った。


「うさぴょんお姉さま、これは天命かもしれないのでアリマス。怪盗ウサギ団に、レッツ復讐しろという、天命なのかもしれないのでアリマス」


「おほほほ。ここで会ったが2か月ぶり。しぶとい奴らですワ。ばにーお姉さま。うさぴょんお姉さま。我々のしぶとさも、群を抜いてますが、こいつらのしぶとさもなかなかのものですワ。敵としてあっぱれですワ」


 小娘は幽霊でも見るかのように、目を大きく開いて、こちらを見つめている。小僧は我々に向かって叫んできた。


『オメーたち、こないだ、海の中で爆発して死んだんじゃなかったのかー』


 どうやら私たちは死んだと思われていたようだ。


 しかし、生きているっ!


「ばーかばーか。うさぎが海を泳げないなんて、誰が決めたんだぴょん。ぷっぷっぷ。常識を覆す先駆者、それが我ら怪盗ウサギ団だぴょん」


「うっしっし。何度もサメに襲われて、喰われそうになったでアリマスが、我らのど根性を甘くみるなでアリマスよ。ピンチこそ勝機でアリマス」


「勝機といっても、ただ泳いでいただけですので、勝ち負けなんてありませんでした。しかし、そうした死線を乗り越える度に、我ら怪盗ウサギ団の戦闘力は上っていくのですワ。おほほほ」


「レッツ復讐でアリマス。普段は穏健な我ら。長らく泥棒事業に必要な戦力しか搭載してなかったのでアリマス。それこそが、これまでの敗因!」


「しかし、誇るべき科学力をちょーっとでも戦力方面に傾ければ、一気に戦力インフレするんだぴょん! もやは以前とは別マシーンだと思うぴょんよー」


 ロボ3号機は前回の2号機とは根本的に異なっている。対艦ミサイルなどの人間の兵器を主力としていたのが1、2号機。一方、この3号機は人間のものではなく、ウサギ族の純粋なテクノロジーを用いた兵器を主力においている。


「これでオマエラともお別れですワ! ばにーお姉さま、うさぴょんお姉さま、ご指示をお願いしますワ」


「1000トンぱーんち、だぴょん」


 攻撃手段が決まる。しかし、私は念には念を入れるタイプだ。追加の提案をした。


「……っと、言いつつもシリーズで今回はいくのでアリマス。うさぴょんお姉さま、宜しいでアリマスか?」


「もっちだぴょん」


 これにて、戦略が決定した。


 私たちはロボを操作して、技の構えをとった。それと同時に、小僧は口の中に何かを入れた。なんだろう?

『もぐもぐ、ごっくん……一体、オメーら何を企んでるんだ。今度は、やられる前にぶっとばしてやる。いつも先手を取れると思うなよ』


 小僧は地を蹴って、こちらに突進してきた、が……。私たちはロボの腕の1本を前にあげて、そこから白旗をポンと出す。


「ス、ススススッス、ストープ! 小僧、ストップでありますワ。つまり私は、焦るなと言いたいのですワ」


「そうでアリマス。我ら怪盗ウサギ団は、『会話』を所望しているのでアリマス」


 小僧は勢いを止め、訝しげな目でこちらを見つめてくる。


『えっ? 会話? 今から戦うんじゃねーの?』


「我らは馬鹿ではないんだぴょん。私はな、小僧、お前の力を過小評価していないんだぴょんよ? 普通に評価しているぴょん。我らのマシーンをパワーアップさせたとはいえ、現在の装備では、小僧とまともに戦っても勝ち目がない、そう考えているんだぴょん」


 ロボ三号機はウサギ族のテクノロジーを用いた兵器の主力においている。しかし、製作期間は数週間と、突貫工事でもあったわけだ。なので、小僧との正面からのぶつかり合いに、少々の不安が残っていた。


「おほほほ。お喜びなさい、小僧と小娘。だからこそ、少しばかり世間話に付き合ってやる、という事ですワ。何か、我ら怪盗ウサギ団に質問などがあれば、受付を受理しますワ。といいますか、是非とも質問してもらいたいのですワ」


「どーか、なにとぞ、よろしくお願いしますでアリマース。ウィーワナ質問でアリマスっ」


 私たちがそう言ったところ、小娘が一歩前に出た。


『じゃあ、聞かせてもらうけど。あ、あんたら一体、何者なのよ』


 私たちはその質問に答える。


「私たちは、怪盗ウサギ団。ウサギ族の3姉妹でアリマス。次女の私の名は、ばにー」


「末っ子の私は、キャロット」


「長女の私は、うさぴょん、だぴょん。三体揃って、怪盗ウサギ団っ!」


 がちゃーんと、ロボにポージングを決めさせる。


 そんな中、小娘も名乗ろうとした。


『私の名は……』


「聞かずとも分かるぴょん。髪洗家の末裔だぴょんね?」


『うちの事、知ってるの? どうして?』


 小娘は不思議そうに聞いてきた。


「忘れるわけがないのでアリマス。私たちは、言わば、卑劣な髪洗一族の被害者なのでアリマス」


「いやいや、我らだけではなく、世界中の『ウサギ目』が、お前ら髪洗一族の被害者なのですワ」


「忘れるなでアリマス。絶滅したプロラグスを、でアリマス!」


 小僧も質問してきた。


『意味がわからねーぞ、オメーら! ウサギ目って、あのぴょんぴょん飛び跳ねる、あの小動物のウサギの事か?』


「そうだぴょん。分類で言うなら動物界・脊椎動物門・哺乳綱・ウサギ目・ウサギ科の、あのウサギだぴょん。全身が柔らかい体毛で覆われている、あのウサギだぴょん」


「他の動物と比べまして、耳介が大きいのが特徴でアリマス。耳会には毛細血管が通っていて、この耳会に風を当てることで、体温調節に役立ててるのでアリマス」


「この耳会は、音のする方へ正面を向くよう、自分で動かす事も出来るのですワ。その動きがとってもチャーミングなのですワ」


『質問を続けさせてもらうわ。どうしてそのウサギが、私の家の被害者になるわけ? なんであんた達は、私を怨んでいるの?』


 ………………っ!?

 小娘は悪気があって聞いたわけではない。しかし、その質問は私たちの何百年間も続く、苦労の日々を一瞬にして思い起こさせるものだった。小娘の外見が、私たちを地獄に突き落とした人間と、瓜二つだったこともあっただろう。ふと、キャロットを見ると、顔を真っ赤にしながら体を震わせていた。姉も下唇を噛み締めている。


「ぐっぐっぐ。ばにーお姉さま……うさぴょんお姉さま、何故だか分かりませんが、私、堪忍袋の緒が切れかかりましたワ……」


「まあ、そう言うなだぴょん。気持ちは分かるが、この小娘は、本当に何も知らないだろうぴょん」


「しかしながら……だからといって、許す、等という事はできないのでアリマス」


『はあ? 意味がわかっかんないんですけどー』


 小娘は首を傾げた。続いて、小僧が口を開く。


『僕からも質問してもいいかー?』


 いくら質問してもらっても構わない。


 しかし……。


「うさぴょんお姉さま、準備が整いましたワ」


「そうぴょんか。了解だぴょん。そうそう、小僧。会話はもうおしまいだが、一応、その質問を聞くだけは聞いてやるぴょん」


『グロウジュエリーを集めて、一体、どんな願いをするつもりなんだ?』


 解答は惑星『オツキサマ』に帰星すること。しかし、時間稼ぎは、もう終わった。姉は意地悪な笑みを浮かべながら言った。


「ぷっぷっぷ。質問タイムが終わった今、もう教えてやる義理はないだぴょん。でも、適当に答えるくらいはしてやるぴょんよー。余興で世界征服でもしてやろーかなー、ぴょん」


『お、おまえらっ! やっぱりか。世界を自分の所有物にしたいのかっ』


「うさぴょんお姉さま、ベリーベリーナイスアイデア! 人間たち全員にレッツ復讐でアリマスね。それも面白いのでアリマス。うっしっし」


「我らの崇高な目的など、貴様ら人間には分からないのですワ。さあ、バトルを開始ですワ」


「小僧、我々はこないだの力比べの再戦を所望するのでアリマス。攻撃の狙いは同じく小娘。受け止めれるなら、受け止めてみろでアリマス」


 私たちがそう宣言すると、小僧は顔を険しくした。


 戦闘――開始。







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