第10話
私はボソリと呟いた。
「ひ、酷い目にあったでアリマス……」
現在、私たちはどこだか分からない浜辺に流れ着いていた。ここに来るまで、サメの大群に襲われたりと、大変だった。しかし五体満足でいる。怪盗ウサギ団は不死身かつ、どんな困難も英知によって乗り越えるグループなのだ!
「無事ぴょん?」
「うさぴょんお姉さま、私は無事でアリマス!」
「違うぴょん! レーダーだぴょん」
「ひ、ひどいですアリマース。私よりもレーダーのことを心配するだなんて、クズでアリマス。クズうさぎの鏡でアリマス!」
「……うぅぅ。ついでに、ばにーは大丈夫だぴょん?」
「ついで扱いをしないでほしいでアリマース。痛い痛い。全身が痛いでアリマース」
私はその場でじたばたした。
「駄々をこねるんじゃないぴょん。そもそも、見た目が元気そうだったから、あえて聞かなかっただけだぴょん。そんな元気があるのなら、全然大丈夫ぴょんね。ところで、キャロットはどこだぴょん」
「さっきまで、そこに私と一緒に……って、ああああ! 何か食べようとしているでアリマスっ!」
キャロットは石の上で、魚をさばいていた。そして醤油を垂らす。私たちはキャロットの元まで向った。
「な、なにをしているでアリマスか?」
「そうだぴょん」
「なにって、お造りを作って食べようとしているのですワ」
「なぜこんなところでっ! そして、なぜ醤油を持っているでアリマスか」
「私はマイ醤油を常に持ち歩いているのですワ。なんですか。お姉さま方だって、漂流している時、その場その場で『とったどー』をしながら魚を食べていたではありませんか」
「確かにそうだけど、その魚はフグでアリマス! 資格のない者が捌いたりしたら、危険な魚なのでアリマス」
「いいえ! 食べるのですワ。グフフフフ。そして、これも食べるのです……ワ」
「こ、こここ、これはヒョウモンダコ!」
「美味しそうですワー」
「だめだぴょん。これはダメなやつだぴょん。毒があると一目で分かる、禍々しい体色をしているぴょーん」
「この貝だって食べるのですワ!」
「ア、アンボイナガイっ! しかも生きているのでアリマース」
「踊り食いをするのですワ」
「やめるでアリマス。こいつは毒もちのイモガイで、その毒は人間でも軽く殺せるのでアリマス。沖縄では毒蛇のハブの名前をつけられ、ハブガイと呼ばれているでアリマス。しかも血清がないでアリマース」
「あ、危ない生物だったのですね……これらは全て毒があったのですか。食べたらきっと死んじゃうところだったでしょう。無知な私に教えてくださり、ありがとうございます。お姉さまがた」
「いやいや。妹の命を護るのは、姉のつとめだぴょん」
「そうでアリマスよ」
「しかし、食べるのですワ」
私と姉は、危険な海の生物を食べようとしている妹を押え込んだ。
「目、目がイッチャってるぴょん。キャロットは元気そうに見えて、別の意味でヤバい状態になっているぴょん」
「ごはんが、ごはんが私を待っているのですワー」
「こんなのご飯じゃないぴょーん。しっかりしろぴょーん」
「食べるのですワーーーー」
「大人しくしろだぴょーーーん」
姉がゴーンと妹の頭に何かをぶつけた。妹は気を失った。
「ふぅ、今のうちにこれらの毒物を撤去するのでアリマス……って、うさぴょん姉さま、今、何でキャロットを殴ったのでアリマスか?」
「うん? 近くにあったものを適当に……って、レーダーだぴょーん」
「あっ……」
妹の石頭にぶつけられたレーダーはボロボロと、その場で崩壊した。ネジなどの中身が辺り一面に散らばる。
「こらあああああーーー! 何をやってるでアリマスかーーーー」
「こ、これは不可抗力だぴょーん」
「満ち潮になってきているでアリマスー」
私たちは波が押し寄せてくるまでに、急いでレーダーの備品を集めた。そして、近くの空港から飛行機を利用して、日本のアジトに帰還した。偽造パスポートはこういう時の為にたくさん持っている。
なお、レーダーの修理には日数がかかる見通しとなった。海水が浸水していて、内部の部品がボロボロになっており、3分の2ほどを地球の備品と取り換えることにした。さらに今後のために、レーダーの予備を2つほど作ろうという話にもなった。
実物があれば複製品を作るのは容易い。これは私の専門分野だ。地球の備品を使うからといっても、劣化させるわけではなく、むしろ機能を向上させる予定だ! いちいち設定を直さなくても、グロウジュエリー以外のものも捜索できるようにする。新しい土地に訪れた時、近隣にある餅の美味しい店、口コミ上位の店なども簡単に検索できちゃうようにするわけだ。これぞ、ばにークオリティーっ! ウサギ族ばんざーーーい!
そして今、修理と量産に必要となる素材を揃えるため、私たちは秋葉原にやってきた。
「かつてジャンク品ばかりが売られていたのに、秋葉原も随分と様変わりしましたワ」
「我々はずっと昔、そりゃあ、江戸時代に下級武士たちの居住区だった頃の秋葉原も知っているのでアリマスからねー」
「歴史の生き証人なんだぴょん。じゃあ……さっそく」
「備品を買いに行くのでアリマスよ。ここで全部揃えばいいのでアリマスけどねー。無ければネット注文で……」
「何を言っているぴょん。メイドカフェに行くんだぴょん!」
「え、えええ?」
「そうですワ。秋葉原は電気オタクの聖地と言われてましたが、色々とあって、現在は地下アイドルの聖地にもなっているのですワ」
「秋葉原というのは、よいものを良いと、そう認める人が多いんだぴょん」
「よく知っているでアリマスね……」
「じゃあ、私のイチオシのカフェにいくぴょん」
「あれれ~。備品を買うのが先じゃないのでアリマスか?」
「ばにーお姉さま、行きますワよ」
………………。
こうして私たちは、姉のイチオシとかいうカフェに入店した。カフェは可愛らしい内装だった。そして、ウェイトレスも可愛らしい女の子たちばかりだった。みんな、メイドのコスプレをしている。
さっそく、私たちはフライドポテトを注文した。しばらくして、女の子たちが商品を持ってきて、目の前でポテトが入った袋をジャカジャカさせた。
「美味しくナーレ。美味しくナーレ」
袋の中からポテトを皿に出してくれた。ジャカジャカさせて、味付けをしてくれていたのだろう。
ぱくり。
………………っ!?
「おお、本当に美味しくなったぴょん」
「元の味は知りませんけど、美味しくなりましたワ。ぱくぱく」
「お餅ばかり食べていますが、たまにはこういうポテトなど、他の食べ物もいいでアリマスね」
続けて、定番らしいオムライスも注文した。
「美味しくナーレ。美味しくナーレ」
再び、店員のメイドさんは『呪文』を唱えながら、ケチャップで卵の上に絵を描いた。オムライスは米やノリで作ったと思われる『女の子』に成型してあった。その『女の子』に、卵で作った布団をおおっている。
ウェイトレスが席から離れた後、私は卵をめくり、卵布団の下の『オムライス』をチラリと見た。
「ボ、ボインでアリマース」
「見えないところに、手間暇をかけるだなんて、日本人はウサギ族に通じるところがありますワ」
ぐさり……。
スプーンを卵の布団に突き刺し、妹はオムライスを食べた。
「美味しいですワ」
「な、なんだかシュールなオムライスでアリマスねー」
「でも、味はうまいぴょん」
ぐさり……。
私は顔の部位にスプーンを突き刺して、食べた。
「確かに美味しいでアリマス」
ぱくぱく、と私たちはオムライスを平らげた。
「さーて、ではいよいよ、秋葉原にやってきた目的を果たしに行くのでアリマス。レーダーの備品を購入するでアリマスよ」
「なにを言っているぴょん? ばにー」
「そうですワ。ばにーお姉さま」
姉と妹が、不思議そうな顔で私を見つめてきた。
「え?」
「これから地下で彼女達のミニコンサートがあるんだぴょん」
「ここまで来たのなら、行かなくちゃいけませんワ」
「えええ~。詳しいっ! どうしてそんなに詳しいのでアリマス?」
「そりゃあ、私たちはここの常連だからだぴょん」
「そうですワ」
………………っ!?
「し、知らなかったでアリマス」
「お互いがお互いのことを、知らず知らずに通いつめて、共に常連となっていたのですワ。ここは、アイドルの卵が歌って踊り、さらに接客技能を磨くために、飲食エリアで給仕の仕事もしているのですワ」
「そ、そうなのでアリマスね……」
私たちは建物の地下にあるというライブ会場に向かった。そこでは先程まで、『美味しくナーレ』と呪文を唱えていたウェイトレスの子たちがステージ上で、歌って踊っていた。それはそれでいいのだが、奇妙な光景もあった。それは客たちだ。『疾風怒濤』『天龍斬』『瞬目風神』などと、意味不明な単語を叫んでいる。しかも、隣にいる姉と妹も叫び出した。
「な、なにを叫んでいるでアリマスか?」
「これは特に意味はないのですワ」
「意味がないのに、意味のない単語を叫ぶ。そこにこそ意味があるんだぴょん!」
「わ、私にはとても理解しがたいことなのですが、みなさん楽しそうでアリマスね」
「こういう地下アイドルでは、応援するアイドルがメジャーへと成長していくのを、間近で見ることが何よりもの楽しみであり、醍醐味となるのですワ。私たちは全力応援してるのですワ」
「なるほど……」
秋葉原……摩訶不思議な空間になったものである。それしても、いつの間にやら姉と妹が常連になっていたことに対しても驚かされた。
メイドカフェを出た後、さっそくロボとレーダーの修理・複製作業に必要な備品を買い集めた。結果的には、ほぼ全てを買い揃えることが出来た。足りない備品はネットで注文する。これで、本日の秋葉原での目的は達成したといえる。
門前町のアジトに帰ると、さっそくロボ3号機の製作とレーダーの修復・複製作業に取り組んだ。
トンテンカントンテンカン。
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