第9話

 爆風の中から、再び怪獣のレーザー砲が放たれる。私たちはそれを軽々と避けた。


「おほほほ。残念ですが、同じ攻撃は二度とは受けませんワ」


「なぜなら、口からレーザーを発射する時のモーション分析を既に済ませているからだぴょん。発射前に、エネルギーが口の周りに蓄積されるから、丸わかりなんだぴょん」


「対艦ミサイルを連発するでアリマース。くらえ、対艦ミサイルの感謝感激、アメあられー」


 ロボは古代種の周囲を旋廻しながら、ミサイルを連射していく。ミサイルはウサギの豆で作られた時空の歪みの中――いわゆる異次元空間内に格納しており、24時間ぶっ通しで打ち放てるほどのストックがある。このままミサイルだけで倒せるかと思えた。しかし、キャロットが顔を青ざめさせて、私たちに報告する。


「ま、まずいですワ。あの亀、防御力が想定以上にありまして、体力と弾道ミサイル一発当たりのダメージ量、そして残りの弾数でシュミレーションしたところギリギリ、ノックアウトできるといった感じですワ」


「う~む。人間の兵器は量産しやすいが、決定力にかけるところが難点だぴょんね」


「そもそも、このオメガラン2号は攻撃特化の仕様じゃないのでアリマス。決定力に欠けていて当然でアリマース。例えるなら、軍艦ではなく巡視船的な装備でやってきた状態でアリマス」


「まさか古代種とやりあうことになるだなんて、想定していなかったぴょん。見余っていたぴょん」


「とはいえ、ギリギリでも勝てるなら、この勝負は我々の勝ちでアリマス」


「おほほほ。……ですワ。カメはウサギには敵わないのですワ。ウサギとカメのお話がそれを物語ってますワ」


「いやいや、あれ、最後はウサギが負けてるぴょーん。縁起でもないこと言うなぴょん」


「そ、そうでしたワ。ウサギは負けていたのでしたワ。カメと追いかけっこで勝負して!」


 私たちはミサイルを放ちながらも、爆炎に包まれている怪獣に向かって、スピーカーで話しかけた。


「おーい、爬虫類やろー! 降参するなら許してやってもいいでアリマスよーだ」


「そうだぴょん! 負けを認めてグロウジュエリーを渡すのなら、命まではとらないでやるぴょーん」


「私たちは優しいのですワ。なので……あっ、エネルギー反応拡大」


「また、口からレーザーを放ってくる気だぴょんね? 今度はこっちが驚かせてやるぴょん。ウサギの豆を使うぴょん。リフレクト必殺技だぴょん」


「あれを、やるでアリマスか? OKでアリマス」


「了解ですワ」


 私たちはウサギの豆を摘んだ。ロボの中で、小さくも優雅に踊る。


 爆炎が晴れ、怪獣の全身が見えた。


 今にも口からレーザーを放とうとしているところだった。タメ時間がこれまでより長く、見たことがないほどに膨大なエネルギーが集まっていた。とても威圧感がある。


 怪獣は顔を真っ赤にしている。激怒しているのだろう。


 しかし……。


 一方、ロボは眩い光を周囲に連続的に放った。


 そして、怪獣がレーザーを放った瞬間、周囲に拡散させた無数の光の欠片たちを、元に戻す。


 光がロボを全体を包み込んだ。

【防御力×∞(全体)】

【エネルギー吸引効果・付与】

【エネルギー放出効果・付与】

 ――必殺技、発動・準備完了。


 うさぎの豆の消費数……『3粒』。


【【【くらえ、リフレクト必殺。自業自得ぅぅぅぅううううぅぅぅぅうぅううううぅぅう】】】


 レーザーがロボに直撃した。


 その勢いとエネルギー量は圧倒的で、ロボを後退させた。


 まもなく、怪獣が全てのレーザーを撃ち放ち、終える。


 次の瞬間、これまでロボが吸引していたエネルギーをロボの前に放出。エネルギーは高密度の球となる。それはレーザー光線のように怪獣に向かって反射された。


 怪獣に直撃する。


 そして、これまでにないほどに大きな破壊音を轟かせ、爆炎が怪獣を包み込んだ。


 怪獣の甲羅に、ヒビが入ったことを確認する。


「やりましたでアリマース」


「今の攻撃が決定打となりましたワ。亀をノックアウトするまで24時間かかったところ、見込み約10分間に短縮できましたワ」


「これぞ自業自得でアリマス」


「もはや時間の問題だぴょーん」


「おやおや、またもやエネルギー反応拡大ですワ……」


 怪獣はミサイルの雨を、まだ10分間も耐えられる状態ではあるが、機械が示す生体反応の残量的には瀕死の状態だ。殺生与奪権は完全にこちらが握っていると思われた。なのに、まだ戦意を喪失してはいないようである。再度、レーザーを撃ち放とうと、エネルギーを集めだした。


「我々には勝てないことに気付かないでアリマスか。またもやレーザーを放ってくるなんて、アホでアリマスね」


「いくらでも放ってきても、回避するだけだぴょん」


 しかし今回は一点にエネルギーを集めず、怪獣の体全体を覆うように集め出していた。


「ち、違いますわお姉さま方。今度は口ではなく、体全体からエネルギー反応が感知されました」


「新しい攻撃方法でアリマスね。なーに、冷静に対処すればよいだけの話でアリマス。最後の悪あがきでアリマス」


「どんな攻撃でも、避ければいいだけだぴょん」


 私達は、まだ晴れぬ爆炎の中にいる怪獣の動向を探るも、レーザーのようなものは飛んでこなかった。代わりに、海流が変わった。


「な、なんだぴょん……」


「ロボが海流に流されている……でアリマスか?」


「爆炎が……消えましたワ。ターゲット、目視できず。代わりに渦を目視! ターゲットは……渦の中心にいますワ」


 爆炎が晴れると、そこには亀の姿がなかった。代わりに海が渦巻いていた。その渦の中心は、先程まで怪獣がいた場所だ。怪獣が海中に沈み、高速回転して、渦を発生させているものと思われた。ロボは渦につかまった。


「な、なにをする気だぴょんっ!」


「ろ、ロボが、流されているでアリマス!」


「全力で、この渦から脱出するぴょーん」


「了解しましたワ」


 ロボを渦から脱出させようと急発進する。しかし渦の範囲が拡大しており、ロボはまさにアリ地獄に落ちたアリのごとく、ジタバタあがくも脱出できない状態となる。徐々に渦の中心に引き寄せられて、グルグルと回転しながら、渦の中心に落ちていった。


 この時点で再び、怪獣を目視できた。渦の中心にいる怪獣は、グルグルとコマのように回転していた。


「あれ~~~。落ちるでアリマース」


「うぴょーーーーん」


「まずいですワ。このタイプの攻撃は想定外でしたワ」


 ぐるぐるぐるぐる。


 ロボは渦にのみ込まれながら、渦の中心にいる、亀に向かっていった。


 まもなく、ロボは猛スピードで回転している怪獣の甲羅の上に落ちた。


 驚異的なスピードで転がされる。


 それだけで、ロボの外装は多大なダメージを受けた。次第にロボの腕が千切れ始めた。


「ま、まずーーーい。まずいでアリマス! ターゲットと接触しているので、ミサイルが放てないでアリマス」


「さらに、脱出も不能ですワ。ロボにダメージが蓄積していますワ」


「ま、参ったーーーー。私たちの負けだぴょーーーん。だから、止めて~~~。目が回るぴょーーん」


「し、しかしながら、プロレス技であるジャイアントスイングは、かけるほうもかけられる方もダメージを受けるのでアリマス。きっと亀もダメージを受けているはずでアリマス。なのに……どうして止まらないのでアリマスか?」


「きっと、それだけ激オコぷんぷん丸の介になっているのですワー」


「うぴょーーーーん」


「うわぁぁぁあああぁぁぁぁ。誰か止めてくれ~でアリマーース。目が回るでアリマース」


「降参ですワ」


「降参でアリマスよー」


「だから、止まってくれだぴょーーん」


 私たちはマイクを使い、亀に降参の意志があることを伝えた。しかし、応答がない。そもそも、聞こえているのかすら怪しい。


「駄目ですワ。この亀、キレすぎていて聞こえていないようですワ。現在のオメガラン2号の耐久限界97%。このままではまもなく木端微塵になりますワ」


「まずいだぴょん、って……あれは!」


「あっ!」


「まさか……ですワ」


「ゲゲゲゲ! 小僧だぴょん!」


 私たちがパニックを起こしていたところ、渦の上の方に、先程の小僧と小娘が乗っていたクルザーが見えた。彼らも渦に巻き込まれたようである。しかし、私たちは彼らを見ながら、目を剥いた。なぜなら、小僧が渦に飛び込み、そのまま水面を走り出したのだから。


「なっ……! あの小僧……渦の上を、走っているでアリマス!」


「そんなアホなですワ! でも、足が沈む前に次の足を前に出して……本当に渦の上を走ってますワ。アンタはエリマキトカゲかーーーーーーーい」


「うわー。さらに小僧、ジャンプしたのでアリマス。何をする気でアリマスか!」


 小僧は千切れたロボの手足を踏み台にして飛んだ。そして、猛スピードで回転している怪獣の中心部に落ちてきた。


『ちょっとおおおおおおおおおお、痛てえええかもしれねええけどおおおおおおおおおおおお、辛抱しろよおおおおおおおおおおおお』


 着地の瞬間、小僧は両手を重ねて、怪獣の甲羅の中心部をぶっ叩いた。


 ゴーン、という音が響く。


 次第にグルングルンと怪獣の回転速度が緩慢になっていく。そして、回転の角度が平行から若干傾いた瞬間、周囲の海水の流れが変わり、乱水流が発生。ロボはボコボコと無軌道に海の底へと沈んでいった。


 耐久限界100%に到達。


 ………………。


 ドカーンとロボが大爆発した。私たちはその勢いで、ロボの外へと、放り出された。


 ブグブグブグ……ぐ、ぐるじいいいいいー。


 しばらくして、ロボの残骸と共に、私は海面に浮上した。近くには姉も妹も浮いてきた。生きているようだ。しかし、誰もがポカーンとしていた。大の字になって浮きつつ、空を眺めていた。波が私たちをその場で上下させる。


 私はポツリと言った。


「さーてと、そろそろ帰るでアリマスか……」


「……どうやって帰るぴょん?」


「そりゃあ、帰る方法は一つしかありませんワ」


「……そう、泳いで……でアリマス……」


「……うぴょーん」


「私たちが泳げるウサギで良かったですワ。こっそりと遠泳の新記録を打ち立てましょう」


「……うぴょーん」


 私たちはプカプカ浮いているロボの残骸をビート板代りにして、バシャバシャと泳ぎ始めた。

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