第8話

「だはははは。いい気分だぴょん」


「しかしながら、本当に前方の乗り物を沈没させる気でアリマスか?」


「グロウジュエリーの受け渡しを拒否したら沈没させるぴょん。でも、グロウジュエリーをおとなしく渡してくれたら、何もしないぴょん。進路だけ変えてもらうぴょん。今回、私たちにやっつけられるのはあの2人だけぴょん」


「小娘は……魂の観点でいえば、我々を現在進行形で苦しめている張本人でアリマス。小僧は巻き添えとなる形ですが、仕方がないでアリマスね」


「運が無かったと諦めてもらうぴょん」


「……それにしても、思い出すだけで腹が立ってきますワ」


「これで呪いも解けるといいぴょんね」


「そうでアリマース」


「おほほほ。私たちは遂に、母星に帰還できるかもしれないのですワ」


 小僧には罪悪感を感じるが、私たちの『呪い』を解くことを優先させてもらう。現在、小娘の一族には『祝福』が、私達には『呪い』がかかっている状態だ。それは表裏一体の関係なのだ。


 数千年と続いている負の連鎖を断ち切るには、私たちが『呪い』に打ち勝つか、小娘一族の血筋を絶やして『祝福』を終わらせるか、このどちらでしか実現させられない。


「これであいつらも死を免れませんワ。私たちにかけられた『呪い』と小娘の一族にかけられた祝福』は表裏一体の関係……これで全てが解決すれば万々歳なのですけどね」


「しかしながら、どうして、あいつらはあんな場所でプカプカ浮いていたのでアリマスかね?」


 ふと疑問に思った。


 彼らはなぜ、海に浮いていたのか?


「どーでもいいぴょん。今は2つ目のグロウジュエリーの回収の方に集中するぴょんよ」


「……分かったでアリマス」


 私たちはグングンとグロウジュエリーとの距離を縮めた。そして地平線の先に、ある物体を視認する。


「前方に巨大反応あり」


「うぴょーーん。あれがグロウジュエリーを運んでいるぴょんね」


「もっと近くまでいくでアリマス」


「了解ですワ」


 ロボを加速させる。そして、目の前を進んでいる『物体』の正体を確認した。


 それは――。


 巨大な亀の怪獣だ!

 私たちはスピーカーの音量を上げて、怪獣に語りかけた。


「おい、そこの亀! 待つぴょん」


「停まりなさーい」


 ………………。


 怪獣は何も反応しない。


「亀だけに、言葉が通じないのでアリマス」


「ですワ」


「しかし、この巨大亀の内部からグロウジュエリーの反応が感知されているぴょん。そして、この亀は古代種だぴょん。古代種には知能があるはずぴょん。会話は可能なはずだぴょん」


 古代種とは特殊生物のことである。


 数百年前から『古代遺跡』と呼ばれる施設が、地球上でいくつも発掘されるようになった。古代遺跡からは人類が保持しているものよりも高度なテクノロジーが発見された。この発見は人類の歴史に革命を起こした。


 しかし施設の発掘と同時に『古代種』という生物も出現した。古代種たちは遺跡を護っているガーディアンたちとみられている。これらの目覚めた『古代種』たちは、『古代遺跡』を護り続ける場合が大半である。しかし、古代遺跡から離れていく個体もいた。


 こうした古代種は動く天災と恐れられている。


 人間たちは基本的に、古代種が現われたら、刺激せずに逃げるという選択をとっている。


 古代種の中には核爆弾で攻撃しても、傷すらつけれない個体もいる。現在、そうした生物が地球にウヨウヨと存在している。


 未だ人類が滅亡していないのは、古代種は基本的にはめったに動かないからである。しかし時々、思いついたかのように活動する時があるのも、古代種の特徴である。


 どうしたものかと考えながら怪獣と併走していると、怪獣が唸りをあげた。


「ばにー! 何か言ってるぴょん。翻訳だぴょーん」


「了解でアリマス。相互・翻訳モード、オンでアリマスっ!」


 私は相互・翻訳モードシステムを発動させる。すると、翻訳された言葉がスピーカーから流れてきた。


『虫けらが俺に何の用だ?』


 虫けら……。


 ぴくり、と姉と妹の頬がひきつった。


「虫けらではなく、私達は哺乳類でアリマス」


「おまえ、グロウジュエリーを持ってるぴょんね。大人しく私たちに渡すぴょん」


「私たちは怪盗ウサギ団! 狙ったターゲットは必ずゲットするプロフェッショナル怪盗団ですワ。これをもって、犯罪予告とさせていただきますワ。グロウジュエリーは我らウサギ族のもの! 奪い返させてもらいますワ」


『グロウジュエリーなど、俺は知らん。俺は今、機嫌が悪い。消え失せろ。虫けら』


 ………………。


 私たちの顔色が怒気色に満たされていく。


「あ……あの亀野郎、しらばくれているでアリマス!」


「しかも、またもや虫けらと呼んできましたワ。辛抱たまりませんっ」


「やいやい、爬虫類っ! 寝言をこれ以上言うようなら、武力行使をするぴょんよ。痛い目にあいたくなければ、グロウジュエリーを渡せぴょーん」


『ほう、おもしろい。俺とやり合うつもりか。ならばお前らの命を代償として、勝負を受けてやろう』


「い、命までは賭けないぴょんよ?」


「私たちは基本的には無駄な殺生はしないでアリマ……うっ。亀からオーラが立ち上がってきたのでアリマスッ!」


 怪獣は動きを止めた。そして体の向きを変えて、ロボと向かい合う。その大きさは月とスッポンほどに違っており、正面から見上げる怪獣の姿は大迫力だ。


『もう俺は、お前らを殺すことを決めた。虫けら』


「ほ、哺乳類と言っているのに、またもや虫けら呼ばわりしてきましたワ」


「こいつ、舐めているでアリマス」


「古代種の亀よ。人間との戦闘では無敗だからといって、ちょーしに乗るなだぴょん! 我らウサギ族に殺し合いでの決闘を挑むだなんて、無知もいいところだぴょん」


「命は大切にするものですワ」


「そうでアリマス! 発言を訂正して謝罪するのなら、今ならまだ、広い心で許してやるのでアリマス。私たちの目的は、グロウジュエリーのみでアリマス」


『訂正も謝罪もせぬ。お前らは、死ねっ』


 ザバーンと海が波打った。


 こちらに接近してくる。


 古代種は口を大きく開き、ロボを砕こうと、噛みついてきた。


「キャロット! 防御だぴょん」


「了解ですワ」


 ロボの8本の腕が上に4本、下に4本伸びて、猛スピードで迫りくる怪獣の上下の歯を支えた。しかし……。


「す、すごいパワーですワ。このままではパワー負けしてしまいますワ」


 上顎と下顎にプレスされ、ロボの腕が徐々に縮んでいく。


 そして、牙の先端がロボの本体に突き刺さる。


 やばい!


「うぴょーーーん。まずいぴょん。まずいぴょーーん。ばにー、脱出だぴょん」


「了解でアリマース。喰らえ、ワサビボム! カラシガス! ハバネロシャワー」


 ロボの装甲に穴が開き、そこから怪獣の口内へ、特殊攻撃弾を放った。まもなく、怪獣の口内が緑色、黄色、赤色と着色された。


 怪獣は口を大きく開いて、ロボを放り出す。


 大きな弧を描きながら、ロボは海上に着水。


 怪獣はひっくり返るように海底に向って沈んでいった。しかし勝負は終わりではない。怪獣の生体反応は依然、感知されている。


 ……いや、怒りの影響でオーラの総量が増大した。そして、再び海面へ浮上を始めた。


 くるっ!

 海中からグググッグと顔を出して、こちらを睨んできた。


「こ、こいつ怒っているのでアリマス」


「別にこ、こここ、怖くなんかないぴょーん」


「な、なにかしてきますワ。口の辺りにエネルギー密度の高まりを感知しました」


「面舵一杯だぴょーん」


 次の瞬間、古代種の口から光が放たれた。レーザーだ。レーザーはロボの腕を巻き込んで、海を切り開くように直進した。ロボの腕3本が消滅した。


 あわわわわ。


 なんて破壊力だ!


「4、5、6番の腕、消滅ですワ」


「くそっ! 本気で私たちウサギ族と、命のやり取りをする気でアリマスか」


「だったらこっちも本気でいくぴょん。飛び跳ねてくる水飛沫は、拭わなければいけないぴょん!」


 私たちは怪獣と距離をとり、装甲のミサイル発射口を解放した。


 そして、可能な限りミサイルを連射した。ドギュゥゥゥーーン、ドギュゥゥゥーーン、ドギュゥゥゥーーンと、真上に発射されたミサイルが進路を変えて、怪獣に向かっていく。


「対艦ミサイルの連射でアリマスっ!」


「ターゲットを完全に捉えておりますワ」


 ドンドン、と古代種にミサイルが当たり、大爆発を起こした。

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