第7話

 バクバクと料理をおかわりしながらも楽しんでいた最中、グロウジュエリーの位置情報が変化した。


 ………………っ!?

 反応は西に向かって動き始めている。


「ま、まさか! 小娘ぴょんか?」


「のんびり、ご飯を食べている場合じゃなかったのでアリマース」


「とはいえ、奪えばいいだけの話ですワ。我らは怪盗。グロウジュエリーの獲得に特化した怪盗なのですワ」


「そもそもグロウジュエリーは、私たちウサギ族の所有物なんだぴょん。奪うのではなく、奪い返すんだぴょん」


 私たちは飲食店を飛び出すと、ロボに搭乗し、猛スピードで外海に出た。そして、移動しているグロウジュエリーを追った。すると、見覚えのある2人組を横切った。


 ………………。


 小僧と小娘だ。彼らが2つ目のグロウジュエリーを獲得したのかと思ったが、そうではなかったらしい。


 今現在も、グロウジュエリーは西に向かって移動を続けていた。


 ロボを旋廻させて、小僧と小娘の元に戻る。2人は海面に浮いており、近くにはクルーザーが停泊している。これは、どういう状況だ?

 姉は、2人に話しかけた。


「おーおー。お前達だなぴょん」


「ウサぴょんお姉さま。ばにーお姉さま。1つ目のグロウジュエリーの反応が、こいつらから出ておりませんワ」


「ふん。ここであったが数日振り! 前回の復讐をさせていただくでアリマス。1つ目のグロウジュエリーを、どこに隠したのかは知らないでアリマスが、必ず回収するのでアリマス」


 私たちがそう宣言すると、小僧が睨んでくる。


『オメーら、また現われたのか。というか、生きてたのかっ。そっちこそ、よくも僕の家をぶっ壊してくれたな』


 小僧は桃源郷で、家を破壊されたことを怒っている様子だ。仕掛けたのはこちら側とはいえ、私たちもオメガラン1号を破壊されたので怒っている。私はロボの中で変顔をキメながら言った。


「うっしっし。我らの生存本能を甘く見るなでアリマス。そして、壊すのは、家だけではないのでアリマスよー。キャロット、ぴぴん砲の用意でアリマス。いいでありますよね、うさぴょんお姉さま?」


「もっちだぴょん」


「おほほほ。さすがは、ばにーお姉さま。聡明ですワ! そして、ワルです! ちょーワルですワ。私、こんなワルい事、思いつきもしませんでしたワ。お待ちをば! あと50秒で準備完了ですワ」


 妹は『ピピン砲』の用意を開始する。前回は苦しませずにやっつけようと思ったが、考えが変わった。私たちは小娘の先祖に地獄に落とされた。『魂』に着目していえば、小娘本人といってもいい。なぜならヤツは『そう願った』のだ。普段は温厚な私たちだが、見逃すほどには聖人ではない。


『ちょっと、アンタたち何をするつもりよ。モモくん、早く船に乗りましょ』

『お、おう! わかった』


 2人は停泊していたクルーザーまで泳ぎ、甲板にあがった。


 ピピン砲の準備はその間にも進んでいる。


「ぴょんぴょん! 地獄を見てこいだぴょん!」


「あと、15秒ですワ」


「お尻ぺんぺーんでアリマース。私たちは前回の過ちを繰り返さないのでアリマスよ。つまり、往復して、二度も同じ道に落ちてるウンコを踏むようなおバカではないのでアリマス。ですよね、うさぴょんお姉さま!」


「そうだぴょん。小僧、オマエとの肉弾戦は危険だと判断したのだぴょん。戦とは戦略こそが肝!」


「お姉さま方、あと、6秒ですワ。4、3……」


 カウントが進む毎に、ロボのエネルギー保有量が、どんどん減少していく。『ピピン砲』は『100トンパンチ』と同様に、ウサギの豆を直接使用しない。代わりに、ロボのエネルギーを大量に消費する。


 ロボの大きな一つ目に光が集まり始めた。


 その光は一旦、周囲に拡散する。


 そして、拡散した光は無数の粒子となり、再び目に収束した。


 ――パワーアップ。

【攻撃力・防御力×3(眼球)】

 膨大量のオーラが目を覆った。


 小僧はロボを見つめながら、異常に気付いたようだ。


『リンス、何かがくるぞ。僕の後ろに隠れろ』

『モモくん、こわーーーい! なんだかこわーい』


「無駄ぴょん。無駄ぴょん。不可避だぴょん」


 キャロットの告げていたカウントが0になった。


 ――必殺技、発動・準備完了。


【【【くらえ必殺、ぴぴん砲っ!】】】


 ロボの目から、大量の光が放たれた。


 光はクルーザーごと彼らを眩く照らした。


 発光が止まると小僧と小娘は、目を押えながら蹲っていた。


 これでしばらくは、目がバカになって、周囲を見ることができないだろう。


『ぶ、無事か、リンス!』

『私は無事よ』

『オメーら、一体何をした!』

『ぷっぷっぷ、そんなのもうすぐ分かるだぴょん』


 光による目くらまし……これがピピン砲の本領ではない。


 ピピン砲は二段構えの必殺技である。


 最初の目くらましは、本命の攻撃へ繋げる一手に過ぎない。


 まもなく上空から、ロボから放たれたミサイルの落下音が聞こえた。


 ミサイルはクルーザー落ちて、ドカーン、と爆発音を響かせる。


 『ぴぴん砲』、大成功っ!


「ぴょんぴょん。ぴぴん砲とは、眩い発光で目くらましをした上での、不意打による不可避のミサイルを当てる、という、ちょーアクドイ技だぴょん」


「おほほほほ。ミサイルは我らウサギ族の英知により、寸分も狂いもなく、独自に太陽と地球の自転計算を行い、更には現時点の位置情報も加えて、天文学的な量の演算を行った上で放たれるのですワ」


「それゆえに、マシーンと太陽からのWな光に隠れたミサイルは絶対不可避なのでアリマス。デメリットは、真っ昼間の野外でかつ、晴れていなくては使えない技である点。さらには技の内容をすでに知っている相手にとっては攻撃が来る方向が丸わかりである点って……あわわわわ。う、うさぴょんお姉さま、キャロット、と……私もですが、敵にわざわざ、技の解説をしなくても、いいでアリマスよ?」


 バトル漫画に登場する敵キャラたちのように、ノリで私たちも技についての解説をしてしまった。


 うぬぬぬ。


『び、びっくりしたわー。でも、私たちにそのミサイルは、命中しなかったわねって………………あああああああああっ! なんてこと!』


 小娘のバカになっていた目が、元に戻ったようだ。そして、ピピン砲がターゲットとしていたものが何であったのかに気付き、目を剥いた。確かにピピン砲のミサイルは彼らに直撃しない。しかし、それで良い。


『どうした、リンス!』


 小僧は小娘の動揺を見て、不安がる。


「ばーか。ばーか。お前達を狙ったわけじゃないんだぴょん。『エンジン』を狙ったんだぴょん。『船を沈没させない程度の火力』で、だぴょん」


「我らの苦しみの一端でも味わえでアリマス。ただただ助けを求めて待ち続ける苦しみを。悔しさを。そして、その虚しさを……でアリマスっ! これが本当のレッツ復讐!」


「漂流ですワ。簡単には死なせませんワ。あなた達自身に直接的な恨みはなくとも、小娘! お前の先祖には大ありなのです。目には目薬を、歯には歯磨き粉」


『そのことわざ、ちょっと違うわああああ』


 小娘が大声で、ツッコんできた。


「ぷっぷっぷ。あーばよ、だぴょん! 干乾びてミイラになった頃に、改めて遺体を拝みに……ってぴょんぴょん! こいつらの船が、なぜか動き出したぴょん」


 あれれ?

 エンジンを破壊したのに、なぜかクルーザーが動き始めた。どういうことだろう。


「そ、そんな馬鹿なでアリマス! エンジンは壊したはずではっ?」


 疑問に思っていると、クルーザーが動き出した原因を、小娘自身が教えてくれた。


 小娘はクルーザーのエンジン部位を見ながら頭を抱えた。


『まずいわ、エンジンが暴走しているわっ』


 なるほど。エンジンを覆っていた蓋が予想以上に強固で、完全にエンジンを破壊しきれなかった……ということか。


 丸裸となったエンジンからは、バチバチと火花が放たれていた。不規則にブロブロロンと音を出している。私たちはロボを、制御を失ったクルーザーに併走させた。


 小娘は真っ青な顔をしながら言った。


『駄目よ。これ、すぐには修理できないわ。エンジン、暴走しているわ』


 大成功だった思われたピピン砲は、完全にエンジンを破壊し損ねていた。


 つまり、こちらが見誤ったということである。


 私は妹を叱咤した。


「こらっ! キャロット、エンジンをどうして完全に破壊しなかったのでアリマスか!」


「おろろろろ。おろろろろ。申し訳ないですワ。火力がちょっと弱すぎたようですワ。船を沈めないようにと、手加減をし過ぎてしまいましたワ」


「……ウムム。いいぴょん。いいぴょん。放っておくピョン……たぶん、漂流……するだろうぴょん」


「うさぴょんお姉さま、ばにーお姉さま。まずい報告がありますワ。あいつらの暴走した船が向かっている先に、二つ目のグロウジュエリーの反応が検出されておりますワ。さらには、その反応も、移動中ですワ」


「ということは乗り物でアリマスか? くっ……永久の漂流の仕返しが、人間の乗り物に救助でもされたら、面倒な事になるでアリマスね」


「ぷっぷっぷ。構わないぴょん」


 姉はマイクに口を近づけると、小僧と小娘に言った。


「おーい、おまえら。今の我らの会話を聞いていたぴょんか? 一瞬、希望を抱いたかもしれないぴょんが、そんな希望はすぐに砕け散らせてやるんだぴょーん。やーいやーい」


 なるほど。希望を散らせるか。


 私は姉の意図を理解した。


「私たちは殺生は好みませんワ。しかし、怒り狂う膨大な時間が私たちを変えた。先回りして、おまえらを救助するかもしれない乗り物を、沈没させてやるのですワ。これにて漂流確定っ」


「そして、そこにある2つ目のグロウジュエリーも、怪盗ウサギ団がゲットするのでアリマス」


「あーばよ! だぴょん」


 私たちはそう言い残し、乗り物で移動しているグロウジュエリーを回収するため、ロボの移動速度をあげた。まもなく、2人が乗っている船が、小さな点に見える程に距離が離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る