第6話
現在、私たちは門前町のアジトにいる。桃源郷付近で、小僧と小娘の足取りを捜索したものの、手がかりは皆無だった。なので、泣く泣く諦めて日本に戻った。3週間ほどの無駄骨を負ってしまった。
私たちはやけ食いでストレス発散をしようと、各々が贔屓にしている餅屋で餅を買い漁り、食べていた。
「くそー。グロウジュエリーの獲得に失敗したぴょん。もぐもぐ。やっぱりキナコが至高だぴょん。もぐもぐ」
「確かに失敗しましたが、1個だけでは宝の持ち腐れですワ。6個は集めませんとグロウジュエリーの真価が発揮しませんワ。もぐもぐ。醤油と海苔がやはり至高の組み合わせで、それ以外は邪道。もぐもぐ」
「うさぴょん姉さまとキャロット。会話の中に2つの話題が一度に出ているアリマスよ。グロウジュエリーと餅っ! ちなみに私も言及しますと、アンコロ餅こそが『餅』です。その他の商品は『ただの潰れたもち米』。異議は認めないでアリマス」
「餅の部分はどれも一緒だぴょーーん。トッピングが違うだけだぴょーん。そもそも餅って、もち米が潰れたものそれ自体だぴょん。異議を認めろぴょーーーん」
「認めませんでアリマース」
「おほほほ。今日もお二人は仲良しですワ。おや……おやおやぁぁぁぁ! た、大変です!」
キャロットがレーダーを見ながら驚いている。
「ま、まさかっ!」
「見つかったでアリマスか?」
「そうですワ! 2つ目のグロウジュエリーの反応が見つかりました。1つ目とは違う反応なので、生成したばかりの2つ目でしょう。ユーラシア大陸の西側……かつてはヨーロッパと呼ばれていた地域で反応が現われておりますワ」
「おお~。僥倖でアリマス! 1つ目が見つかってから、まだ3週間ほどしか経ってないでアリマスよ」
グロウジュエリーとは6個集まれば、その能力を行使できる。ただし、同時期に6個までしか生成されないというものではない。かつて、同時期に100個近くが生成されていたこともあったのだ。
「僥倖、僥倖! すぐに回収に行くぴょん!」
「ただし問題があるのですワ」
「なんだぴょん? グロウジュエリーを獲得する以上に大事なことでもあるぴょんか?」
キャロットは悔しそうな顔をして、ぼそりと言った。
「……明日、スーパーの特売日なのです。切り餅、餡子、きなこが特売なので、大量購入するチャンスなのです。こういうチャンスは一年に一度あるかないかといった状況でして……」
「キャロット、あんたは馬鹿でアリマスかーーー。たしかに私たちは餅が大好きでアリマス!」
「そうだぴょん。しかしグロウジュエリーとはその価値が、比べものにならないぴょん」
「た、たしかに……特売日とグロウジュエリーを比べれば……ありえないことでしたワ……失礼しましたワ」
「キャロット、あんたは特売日の為に、これまで生きてきたのでアリマスか? グロウジュエリーを集めて、星に戻るためではなかったのでアリマスか?」
「そうだぴょん! 特売で購入しても、通常時に購入しても、数百円お徳になるだけだぴょん」
「わかりました。では、すぐに出発の準備を整えますワ」
「早く出発しなくちゃ、同じレーダーを持っている、あの小娘に先を越されちゃうのでアリマス」
「そうだぴょん。今回、いくつグロウジュエリーが生成されるのかは知らないけれど、これはリソースを巡っての競争でもあるんだぴょん……。しかし……い、いたたたたた……」
「わ、私も、いてててててーでアリマース」
「ど、どうしたのですか? お姉さま方? 突然お腹をおさえて、うずくまってっ!?」
「お腹が痛くなってきたのでアリマス。これはおそらく、明日の特売日で餅を買えという、御神託かもしれないのでアリマース」
「いててててーだぴょーん。きっと、明日の特売で餅を買えば、その瞬間に腹痛が治るだぴょん。ウサギ神様の御神託だぴょーん」
「え? え? え? 私には、仮病のようにしか見えませんが。まさか、ついさっきまで、あんなに偉そうに言っておきながら、グロウジュエリーよりも……特売を優先したとかっ?」
「ち、違うぴょーん」
「断じて、勘違いしないでほしいでアリマース。いてててて」
「そ、そうですワ。私も……いててててて。腹痛が襲ってきましたワ。これは明日の特売に行けというウサギ神様からのお告げなのかもしれませんワ。いてててて」
こうして私たちは各々が下手な芝居をしながら、翌日まで過ごし、大量の切り餅などをスーパーで獲得したのだった。腹痛が治った……というか、芝居をやめた私たちは遂に出発することになる。
私たちはロボの中に入り、気合を入れ直す。
「今から急いで回収しにいくでアリマース。さあさあ、出発おしるこ~でアリマス!」
「そうですワ。グロウジュエリーをゲットしますワ」
「よし、出発~~~っ! ……の前に、トイレだぴょーん」
入り口がガチャンと開いて、姉はお尻を抑えながらぴょんぴょんと飛び跳ねていった。
「ひ、引き締まりませんワー」
「あれは、餅の食い過ぎでアリマスね。犯人はこの中にいるっ! 犯人は……キナコ、おまえだーーー」
私は先程まで姉が無駄口で食べていたキナコの袋を指して叫んだ。
「ついに人ではなくキナコが真犯人となる時代がくるとは……」
姉が戻ってくると、すぐに河川の底からロボを発進させた。
お台場を横切り、日本海に出る。今回はユーラシア大陸に上陸せずに南下して、インド洋を迂回する。
道中、キャロットがこの世の終わりとでも言いたげな顔で叫んだ。
「ま、待って下さいっ! 忘れてましたワ」
「何を忘れたぴょん?」
「パジャマと枕ですワ」
私はズコーっとひっくり返る。
「そんなのどーでもいいのでアリマース! やる気があるのでアリマスかっ!」
「しかし、ばにー。たしかに、枕が変わると寝つきが悪くなるぴょん」
「あれ? あれれれれ? うさぴょんお姉さまは、やけにキャロットに賛同的な意見をするのでアリマスね。まさか、枕とパジャマを取りにアジトに引き返すつもりでアリマスか?」
「引き返さないぴょんっ! なぜならパジャマと枕はそこにあるからっ!」
姉は自分のバッグを指した。
「おお、用意がいいでアリマース」
「私が忘れたことを見越して、代わりに持ってきてくれたのですワね」
「そうだぴょん。さっきトイレに向かっていた時、キャロットの部屋にパジャマと枕が置き忘れてあるのを見逃さなかったぴょん。姉の威厳を高めるためにギリギリまで持ってきたことを言わなかったんだぴょん」
「おおっ! 出発時に一言、伝えてくだされば宜しかったのに。あえて黙って、出すべきところで出してポイントを稼ぐだなんて、まさにエリートっ!」
「そうだぴょん。この薄汚い社会でのさばっていくには、こうした演出をサラリとできないといけないんだぴょん」
「さすがはうさぴょんお姉さまっ! 後光が見えるでアリマース」
「しかし、どういうことでしょう……うさぴょんお姉さまのバッグの中に、入ってないのですが……」
妹は姉のバッグを漁りながら、首を傾げた。
「え? そんなはずは……あっ! ああああっ!」
「どうしましたか?」
「パジャマと枕がキャロットの部屋に置かれてあるのを見て、こっそりと持っていってやろうと思いつつも、そのまま置いてきちゃったぴょん。すなわち、忘れていたぴょーん」
「う、うさぴょんお姉さまの……姉の威光が一気に消え去ったでアリマスっ!」
「そんなぁだぴょ~ん」
「シクシク……結局は、パジャマと枕は現地で確保するしかないのですワね」
「申し訳ないぴょん。ここは我慢するんだぴょーん」
「全てはグロウジュエリーのために、でアリマス!」
「そうですワっ! 今回こそは確実に獲得しなくてはいけないのですワ」
私たちはそのまま西ヨーロッパの沿岸部まで、ロボを走らせた。随分と長旅となることが予想された。しかし、私たちはやり遂げなくてはいけない。全てはグロウジュエリーを獲得して、惑星『オツキサマ』に戻るために!
何度かの朝と晩が繰り返された後、ようやく西ヨーロッパの西岸部に到着した。
「や、やっと到着したでアリマス」
「長かったでですワ。我々は不老ですが……長旅をすると妙に疲労感を感じて、老いた気になるのですワ。船酔いで気分が悪いのですワ」
うさぎ族でも船酔いはする。
「それではさっそくグロウジュエリ―を回収しに向かうでアリマス」
「ばにー姉さま、ま、待って欲しいですワ」
「はぁぁぁ?」
「ばにー! グロウジュエリーを回収しに向かう前に、私たちはやるべきことがあるんだぴょんっ!」
「やるべきこと……でアリマスか? それは何でアリマスか?」
「すなわち、腹ごしらえをするんだぴょん」
「なるほど。パジャマと枕はどうでもよかったとして、食料のストックも忘れたのは致命的でアリマシた。途中から何も飲まず食わずで、ここまでやってきたのでアリマスもんねー。しかし食事は、グロウジュエリーを回収してからでもいいのでは?」
「レーダーによると、グロウジュエリーの位置はここ数日、ずっと動いておりませんワ。それに、このようなコトワザもあります。腹が減ってはいくさを食べるっ! と」
「いくさは食べれないのでアリマース」
「では、腹が減っては井草も食べるっ」
「『いくさ』が『井草』になってるでアリマス! 草を食べたら腹をくだすのでアリマスよ」
「溺れるものは井草も掴むぴょんっ!」
「今度は別のコトワザになっているでアリマスね。とにかく食べ物がほしくて、正常な思考ができなくなっていることはわかったでアリマス」
「その通りだぴょん」
「なのですワ」
「ということで、『きなこ餅』でも食べに行くぴょーん」
上陸した私たちは餅屋を探したが、どこにもないようで、パエリアなどのご当地料理を堪能した。私たちは餅米を主食としているが、雑食性なので、他の料理だって食べられる。
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