第4話

 現在、グロウジュエリーの反応は1つだけで、反応はここ、桃源郷から発せられていた。


「本当に、グロウジュエリーは育っているのでしょうか。私はとても心配ですワ。そして、ドキドキしますワ」


「グロウジュエリーのことを忘れるわけないと思うけど……一応、グロウジュエリーについて、おさらいしておくぴょんか?」


 姉は運転しながら、私たちに聞いてきた。


 怪盗稼業を続けるも、グロウジュエリーはここ数百年程お目にかかっていない。私たちの記憶を確認する意味でも、おさらいは必要だろう。


「では、お願いするでアリマス」


「まず、グロウジュエリーとは、この世界で呼ばれている通称であり、本当は便利機能付きの瞬間移動装置だぴょん」


「そうですワ。そして、グロウジュエリーとは、その土地その土地のエネルギーを吸い取って成長する『鉱物』でもあるのですワ」


「我々の星では、簡単にエネルギーを補充させられるでアリマス。しかし、地球上ではそうもいかないのでアリマス。また、特定の場所から何個もグロウジュエリーが生成した場合、その土地のエネルギーを吸い尽くし、枯渇させる場合があるのでアリマス。環境を破壊をするだけではなく、不完全で危険なグロウジュエリーになるのでアリマス」


「だぴょん。なのでグロウジュエリーは、基本的には同じ場所からは二度と生成しないぴょん。この地球上のあらゆる場所から成長する鉱物……それがグロウジュエリーなんだぴょん」


「グロウジュエリーの特徴としましては、その外見の美しさも際立っておりますワ」


「だから、宝石としての価値が見出されて、美術館に展示されていることが多かったのでアリマス」


「多かった……過去形、だぴょんね」


「怪盗団を立ち上げた当時は、美術館を襲うことで、グロウジュエリーを安定的に集めることが出来たのでアリマス。順調だった時は4~5個は、常に保持していたのでアリマス」


 私たちが怪盗稼業をしているのは宝石が欲しいからではない。グロウジュエリーを集めるためである。かつては、美術館に展示されている、グロウジュエリーらしき宝石を奪う、といったこの方法で多くのグロウジュエリーを入手できていた。


「しかし……今は……うぐぐぐぐ」


「空振りばかりですワ。前回、盗んだ宝石も別物でしたワ。しかも、グロウジュエリーが力を発揮できるのは生成されてから1年間以内ですワ。昔はまだ地球が元気だったからか、色んな場所からピョコピョコとたくさん発生していたのです。しかし最近では発生しているのかどうかすら怪しい状況ですワ」


「綺麗でかつ希少だと言われた宝石を盗み続け、アジトでグロウジュエリーかどうかを確認する日々……もう無意味に思えていたのでアリマス」


「グロウジュエリーは最低6個集めないと、月へ瞬間移動が出来ないぴょん。一時期、5個まで集めることができたのに、最後の1個を集め損ねて、ずっと悔いていたぴょん」


「いえいえ、うさぴょんお姉さま。正確にはあの時、6個目も集めていたのでアリマス。しかし、一番古いグロウジュエリーがちょうど1年という期日を迎えた日でもあったのでアリマス。あの時は超絶オシイと、床を転げまわったでアリマス。グロウジュエリーが移動装置としての力を発揮できるのは、誕生してから1年間という制限があるのでアリマス。あゝ、怪盗団。あゝ、怪盗団……」


「あの時代はまだよかったぴょん。ここ数年は空振りばかりだぴょん。一つも集めれていないぴょん。しかし、それも今日までだぴょんっ!」


「そうですワ。レーダーを入手したのですワ」


「これまでは場当たり的に探していたでアリマスが、今後はレーダーでピンポイントで探しに行けるのでアリマース」


「私たちの明日は輝いているぴょん」


「まるで餡子もキナコもかかっていないお餅がツルリン、ピカリンと光を反射するごとくに、ですワ」


「むむむ。キナコだって光を反射して、輝けるぴょん」


「餡子も同じでアリマス」


 ドコンガコン、ドコンガコンとロボは桃源郷内を突き進む。


 いつしか日が暮れていた。


 丘に登り、レーダーを近距離モードに変換したところ、ようやくグロウジュエリーの正確な位置が判明する。谷を越えた先に民家があった。集落ではなく一軒家がポツーンと建っているだけだ。距離は600メートル程で、見下ろす位置にある。一軒家の窓からは光が漏れていた。つまり、誰かが暮らしているものと思われた。グロウジュエリーの反応は、その一軒家から出ていた。


「よーし、大ジャンプして、谷を一気に飛び越えるぴょーん」


「大ジャンプだけで届かないようなら、空中三段跳びもするのでアリマスよ」


「では、行きますワーーーー。とうっ!」


 ロボは丘からジャンプした。そして一軒家のすぐ傍に着陸する。衝撃で、ドゴーンと地響きが起きる。そのまま、一軒家に向かった。


 ロボの集音機能を作動する。すると、家の中の声を聞き取ることができた。


『いや、何かが、近づいてくるぞ』

『どこにどこに? まさか、この家に?』


 私はロボの腕を操作して、一軒家の壁に向かい、ストレートパンチを放った。ドーンと大きな音が響かせて、破壊する。そして空けた壁穴から家の中へと侵入した。


 中には10歳頃と思われる少年と、10代後半と思われる少女がいた。いや、分析システムによると、少女の性別は女ではない。いわゆる『男の娘』と呼ばれる存在だ。


「ばにーお姉さま! うさぴょんお姉さま、人がおりますワ。人を発見しましたワ」


「そりゃあ、家の窓から灯りが漏れていたんだから、人もいるぴょん。桃源郷は廃れた場所だと聞いていたけど、まだ人が住んでいたんだぴょんなー」


「おい。小僧と小娘。命が惜しくば、私達『怪盗ウサギ団』に『グロウジュエリー』を渡すのでアリマス!」


 私は簡潔に目的を伝えた。対して(男の)小娘が返答する。小娘の声が適度な音量に変換されて、操縦席のスピーカーから流れた。


『い、今……『怪盗ウサギ団』と言ったわね! あの悪名高い、怪盗ウサギ団なの?』


 姉が、ニコリと微笑みながら、マイクに答えた。


「おお。小娘、我らの事を知っているぴょんな。有名になったんだぴょんなー。だったら、話は早いぴょん! 『グロウジュエリー』を渡すぴょん!」


「そうでアリマス。渡さないというのなら、実力行使でアリマスよー」


 小娘は眉間にしわを寄せながら、ロボを見つめている。一方、小僧はポカーンと呆けながら、小娘に話しかけた。


『おい、リンス、こいつらのこと、知ってるんか?』

『知ってるもなにも、有名な3人組の泥棒集団よ! 博物館などに予告状を送って、厳重な警戒の中、目的の宝石を盗んでは、後日、警察署にその宝石を郵送して返すという、一体何をしたいのか、さっぱり分からないという泥棒集団! しかし、盗みの度に、ロボットで建物を破壊するから、もはや宝石の額より、建物の修理代の方が高ついて、建物の警護の方により力が入れられている、って噂よ』


 ほうほう。そのように世間では言われているのか。我ら怪盗ウサギ団も有名になったものである。


 小僧はロボを睨みながら、大声で言った。


『僕の家もぶっこわして。オメーら、一体どうしてくれるんだ!』


「おほほほほ。人間ふぜいが何か、ほざいておりますワ。もっともっと悔しがるのですワ」


 妹が満面の笑みで、ロボの腕をバキンボキングニョンと伸び縮みさせて、家を破壊していった。私と姉もロボを操縦し、家を破壊していく。私たちは人間が大嫌いだ。人間のせいで月に還れなくなったからだ。深い恨みを抱いているので、知人関係ではない人間に対しては、何をしてもいいと思っている。さすがに命まではとらないけど。


 八つ当たりよろしく、この家の8割を破壊した。天井がなくなり、月が綺麗に見えるようになった。

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