第3話

 ガチコンガチコン。ジジジジジ。


 アジトに戻った私たちが着手したのはレーダーの修理だ。私たちの特技は製造・修理である。レーダーにはウサギ族でなくては知らないテクノロジーも組み込まれているので、私たちにしか修理できない代物であったともいえる。よくもまあ捨てられずに骨董品店に置かれていたものだ。おそらく、価値のあるものとして信頼のある筋から仕入れたものの、使い方も用途も分からず売れ残り、倉庫に仕舞っていたものを、現店主が見つけて店頭に並べたのかもしれない。しかし、売れなかった。とはいえ、捨てるのも勿体無いので紙切れ同然の値段で売ろうとしていた、といったところだろうか。


 まあ、私の推測の真偽なんて、どうでもいい。大事なのは過程ではなく、レーダーを手に入れたという結果なのだ。


「しゅ、修理99・9%が完了で……アリマス」


「仕上げだぴょん。グロウジュエリーのことを念じながら、ネジをまわして、起動させてみるぴょーん」


「最後のネジをまわしている時に頭の中に描いていたものが、レーダーが感知する『対象』になるのでアリマス。なので頭の中で描くものを間違えたらいけないでアリマスよ。間違ったものを検索するレーダーになっちゃうでアリマス」


 このレーダーは、『どんなものでも、捜したいと望んでいるもの全般を探すことができる万能性のある機械』である。最後のネジをまわしながら、頭の中で思い描いていたものが、レーダーの探す『対象』となる。私たちはグロウジュエリーという鉱物を6つ探し求めているわけだが、このレーダーがないと、探し求めることが難しいのであった。


「わかりましたワ。え、えいっ! クルっとな」


 キャロットがネジを最後まで回し切ったところで、レーダーの画面がうつった。ちゃんと修理されていたようだ。画面ではピコンピコーンと点滅が始まった。点滅している位置は、かなり近く……というか近所だ!


「や、やったー。もう、育っているグロウジュエリーがあるのでアリマスよ!」


「しかも近所だぴょーん。すぐにグロウジュエリーを回収しに行く……ん? あれれ?」


「点滅が……どんどん増えていくのでアリマス!」


 画面上に点滅している個数が2個、7個、14個と増えていった。どういうことだろう。私と姉が首を傾げていたところ、キャロットが隣で土下座をしていた。


「み……みなさん、申し訳ありません……」


「ど、どうしたでアリマスか、キャロット」


「そうだぴょん。どうしたんだぴょん」


「このレーダーは、こちらが求めるものは『何でも』探してくれるレーダーです。探せる対象はグロウジュエリーだけではないのです」


「そんなの知ってるぴょん」


「ネジを回す前に、確認したでアリマス」


「たしかに私は、グロウジュエリーを頭に思い描きながら最後のネジを回し切りました……。しかし、このレーダーで示されている位置……こちらはどこだか、おわかりですか?」


「えーとでアリマス。むむむ……こ、この位置は!」


「醤油っ子海苔餅堂だぴょんっ! 私たちが常連となっている餅屋の一つだぴょーん」


 レーダーの示す場所の一つは、なんと近所の餅屋だった。


「そうなのです。あまりにもお腹が減っておりましたので、食レポで上位にいる近隣の『餅の販売店』も知りたいと頭の中で思い描いていたのですワ」


「ずこーーー」


 私と姉は、その場でズッコケた。


「グロウジュエリーと同時に食べ物のことも頭に思い描くだなんて、器用なことをしたものだぴょん。そのおかげで、グロウジュエリーだけではなく、餅の美味しい店も探すレーダーになってしまったぴょんね。がっでーむっ!」


「というか、キャロット、正直に言うでアリマス。本当は、食べ物のことしか考えていなかったのでアリマスよね? 余計なものがインプットされたら、ややこしくなるのでアリマスよ~。面倒な修復をしなくちゃいけないのでアリマスよー」


「うぅぅぅ……お姉さま方、申し訳ありません。でも私はグロウジュエリーのことも確かに考えておりましたワ。9・9999対0・0001の比率で……」


「グロウジュエリーが9の方だぴょんね?」


「いいえ……」


「だったら、0・00001の方でアリマスか?」


「それも違いますワ」


「だったらどっちだぴょん」


「0・0001の方ですワ。バニーお姉さま、惜しいっ! 小数点が一桁違っていましたワ」


「どっちも一緒でアリマーーース。つまり、グロウジュエリーのことは全く考えていなかった、ということでアリマーース」


「うぅぅ。面目ないですワ」


 キャロットは再び頭を地面にこすりつけた。


「まぁ、いいぴょん! 腹が減っては戦はできぬ。餅屋さんに、きなこ餅を食べに行くぴょん」


 ………………っ!?


「いいえ、うさぴょんお姉さま。アンコロ餅を食べに行くでアリマス。そこは譲れないでアリマス」


「お姉さま方、餡子VSきな粉論争をまた始めているのですか? そんなのどーでもいいことではありませんか。だって、至高は醤油に海苔の組み合わせだと決まっていますもの! ちなみに、レーダーは食レポで上位にいる近隣の『餅の販売店』を探せるようになってはおりますが、醤油と海苔の組み合わせが美味しいお餅屋さんに特化して探せる仕組みになっているのですワ」


「な、なにをやってるでアリマスかー」


「そうだぴょん! 今すぐに、『きなこ餅』の美味しい店を探せるレーダーに修復するんだぴょん」


「それも違うでアリマース! きなこ餅? 私たちは、何のためにレーダーを探していたでアリマスか? 何百年も探し求めてきた大事なレーダーを、そんなものを探す仕様にしないでほしいのでアリマスっ! いちはやく『アンコロ餅』の美味しいお店を探すレーダーに修復するでアリマスよ!」


 私たち3姉妹は『餅』を試食としている。しかし、味付けの好みは異なっていた。私は餡子党。姉はキナコ党。キャロットは醤油に海苔党だ。


 バチバチバチ、と私たち3姉妹の間で火花が散った。食欲……それは時として、自我を忘れさせるものである。結局、レーダーで各々の欲する食レポで最上級品なる餅を購入しに行き、腹を満たして冷静になった後、お互いツッコみ合った。


 餅じゃないだろ、と――。


 グロウジュエリーを探すために、長年探し続けてきた大事なレーダーで、近所の旨い餅屋を探して何をやっていたのだろうか。レーダーで探すまでもなく、既に私たちは近隣といわず、半径10キロ圏内の餅屋は制覇し、独自の採点も付けていた。今更、食レポはおろか、レーダーに頼る必要性もなかったのである。


 また、私たちはメカに強いだけではなく、ある作物を育てる能力があった。その作物は、水や太陽ではなく、私たちの体内に流れている血液を吸って成長する吸血植物だ。そして、出来る実を『ウサギの豆』といった。この『ウサギの豆』は、地球上には存在しない作物で、『奇跡』を起こす魔法の実でもある。その奇跡の度合は、数を集めればグロウジュエリーをも凌駕する。


 私たちは、このウサギの豆を自作のロボット『オメガラン』の燃料としても使用していた。たったの一粒で10年間は軽く持たせられる。


 ウサギの豆は貴重なので、普段は持ち歩いたりはしない。紛失したら大変だからだ。しかし、今回は僅かばかり持ち出した。遠方に、しかも、確実にそこにあるだろうグロウジュエリーを獲得に向かうのだ。確実に入手するため、念には念を入れることにした。


「はっしーん!」


 私たちのアジトは門前町の一軒屋(賃貸)であり、ロボは近くの川の底から発進する。私たちはお台場を抜けた後、ロボの移動速度を徐々に上がっていった。ロボを水面に上昇させてからは、時速500キロの速度で飛ばす。海上でこのスピードは驚異的だろう。


 私たちは日本海を渡り、ユーラシア大陸に上陸する。そして擬態システムを発動させる。


 みるみるうちに、ロボは一般車に変形した。そして、これより目的地であるマヌマヌーマ国立公園――別名『桃源郷』までは運転を交代しながら向かう。そして、数日かけて桃源郷内に入った。


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