第2話
現在、私たち3姉妹は骨董品店にいる。買い物目的ではなく、トイレを借りに来ただけである。というのも、これから、とある美術館に宝石を盗みに行くところなのだ。すでに美術館と近隣の警察署に予告状を送付してある。今頃、美術館では警察が警備を固めている頃だろう。
なぜ、わざわざ犯行予告をするのかというと……特に理由はない。漫画やアニメの『怪盗』がそうしているので、怪盗とはそういうものなのかな~と思って、予告状を送り始めたのが切っ掛けだった。そして、いつしかそうするのが当たり前となった。さらには、私たちは犯行を行う日付だけではなく時間までも指定して伝えている。警察たちが美術館の警備を固めている最中に、他の場所でも事件が発生する可能性がある。もし警察の人手不足で、それらの事件が解決できなかったとしたら、間接的に私たちの責任といえなくもない。なので警察の都合をつけやすいように、時間指定をしているわけではあるが、まもなく、その時間が迫ってきていた。しかしながら、美術館に乗り込もうとしていた矢先、姉の『うさぴょん』が便意を訴えた。そして、骨董品店に緊急入店し、トイレを借りようとしている状況である。私たちは犯行予告の時間に『遅刻』しないよう、少しばかり急いでいた。
姉の『うさぴょん』は骨董品店の店番の男に、股間を押えながら言った。
「おっちゃーん。トイレを貸してほしいぴょーん」
「いいよー。何か買ってくれたらね」
「交渉成立だぴょん。じゃあ、私がトイレに行っている間に、何か買っておくぴょん」
「了解でアリマス」
「分かりましたワ」
次女の『ばにー』こと私と、三女の『キャロット』は店内で一番安い商品を探し始めた。それにしても、古い店だ。商品も古いものばかりで、ガラクタばかりが置かれている。何気に高額な値札がついている商品も多々あった。
キャロットがコソコソと私に話しかけてきた。
「ばにーお姉さま、このお店、なかなかあこぎな商売をしていますワ」
「そうでアリマスねー。ガラクタばかりで、値段と商品の質が乖離しているものばかりでアリマスねー」
「もうすぐ予告していた時間になりますワ。うさぴょん姉さまが戻るまでに、ちゃっちゃと一番安いものを探して購入しておきましょう」
「そうするでアリマス。怪盗がトイレが原因で、犯行予告時刻に遅刻するだなんて、面目が丸つぶれでアリマス」
「犯行予告時刻をきっちりと守ってこその怪盗ウサギ団ですワ!」
「遅刻なんて、約束の不履行でアリマス! これはうさぎ族にあるまじき汚点でアリマス! なのでキャロット……あれれ? どうしたでアリマスか、キャロット?」
ふとキャロットを見ると、キャロットは店の片隅を見つめながら、ガクガクと震えていた。
どうしたのだろう?
「ば、ばにーお姉さま、あ……あれはまさか!」
「あれってなんでアリマスか? あ、あれは! ゴ、ゴキブリ!」
キャロットの指した先を見ると、2匹のゴキブリがいた。
「ゴキブリが交尾していますワ。珍しいですワ」
「こんな古いお店だからゴキブリの一匹や二匹、普通にいるのでアリマス。とっとと一番安い商品を……キャ……キャロット?」
キャロットは、今度は別の場所を指しながら、再びガクガクと震えていた。
「ば、ばにーお姉さま、あ……あれはまさか!」
「まーた、ゴキブリでアリマスか? いちいち報告しなくてもいいでアリマスよ」
「ち、違いますワ。ゴキブリではありません! ク、クモですわ」
キャロットの指した場所を見ると、2匹のクモがいた。
「本当だっ! クモが交尾しているのでアリマス! これはまたまた珍しい光景でアリマスね」
「この骨董品店は、虫たちのラブホテルなのでしょうか。おあついおあつい」
「どーでもいいけど、もうすぐうさぴょん姉さまがトイレから戻ってくるのでアリマス。なのでキャロット、早く一番安い物を見つけるでアリマス。私たちはトイレを借りるために、何かを購入するという『約束』してしたのでアリマスからね。誇り高きうさぎ族として『嘘』はついてはいけないのでアリマス。なので……うん? キャ、キャロット?」
「ば、ばにーお姉さま、あ……あれはまさか!」
キャロットはこれまでとはまた別の場所を指しながら、再びガクガクと震えていた。
「また、虫たちが交尾しているのでアリマスか? そんなのどーでもいいでアリマス」
「ち、違います。あれはまさか……まさかですけれど……」
「あれというのは、どれでアリマス……か……ぁぁあああああああああ。アレはぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
私はキャロットが指しているものを一目見るや、駆け寄った。そこには、ボロボロのサッカーボールを半分に切ったような機械があった。
「これはまさか……レーダーではないのでしょうか」
「レーダーでアリマス。間違いないでアリマス」
おそるおそる、ボタンを押してみるが何も応答しない。
「ぶっこわれているようですワ」
「でも、見たところ、模造品などでは、なさそうでアリマス」
「や、やりましたワ」
私とキャロットが抱き合って、喜びを分かち合った。模造品を除くと、レーダーは地球上に一つしかないものである。元々、私たちの所有物だったが、ひょんなことから、手元から離れていた。私たちはこのレーダーをずっと探していたのだ。感慨深い気持ちになっていた時、いつのまにかやってきた肥満体の男の客がひょい、とレーダーを持ち上げた。
「「あっ……」」
「なんだこのガラクタ。600円? 高っ!」
ガタンと投げ捨てるように、棚に戻した。
「確保ぉぉーーー」
「了解ですワー」
私と妹は、すぐさまレーダーを手に取った。
同時に姉がトイレから戻ってきた。
「ふぅー。危なかったぴょん。待たせて悪かったぴょん」
「お、お姉さま! これを!」
「おお、これを購入するぴょんか? でも、こんなガラクタより、もっといいものを購入した方がいいぴょん」
「ズコー」
私と妹はズッコケた。そんな様子を姉は不思議そうに見つめてくる。
「う、うさぴょん姉さま、これはレーダーでアリマスよ」
「そうですワ」
「うん? 何を言って……あ、あああ、あ~!」
姉も私たちが持っているものが何なのか、気付いた様子である。
「本当だぴょーん。私たちのレーダーだぴょん! 手元を離れてから、何百年も見ていなかったから、気付かなかったぴょん。これで星に帰れるぴょーん」
「長かったですワ。ずっと探し求めてきたのに見つからず、諦めていたら、ひょっこりと現われたのですワ!」
「まさにツンデレ機械でアリマスっ!」
「おっちゃーん、これを購入するぴょーん」
すぐさま購入する。
「あいよー」
「う……うさぴょん姉さま……」
「うん? あ、あれれれれれ~」
レーダーの下部が老朽化していたようだ。パネルがパカリと開いて、中身が落ちた。床に備品がバラバラに転がった。
「お嬢ちゃんたち……これ、買ってくれるんだよね?」
「も、もちろんですワ」
「700円で」
「100円値上がりしているアリマスー」
「でも、買わせてもらいますぴょん!」
こうして私たちは念願だったレーダーを手に入れた。あまりの嬉しさに、その後の怪盗仕事では、いつも以上にド派手に暴れ回って、宝石をゲットさせてもらった。翌日の新聞の一面に、でかでかと私たちの活動が載っかった。
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