第20話 達磨女─ダルマオンナ─

これは友人から聞いた話だ。

それは、仕事帰りに遭遇したという。

鳴き声のような、うめき声のような。

前方からそんな声が聞こえてくる。

そして、暗がりの中で、なにかが蠢いているのが見えた。


もし病気で苦しんでる人だったら……?

そう思い、スマホのライトをつけて、その先を照らした。

すると。


両手両足のない女性が苦しそうにもがいている姿が見える。

あまりの恐怖で動けずにいると。

「…さ…い…」

なにかをは喋ろうとしている。

そのあいだにも、ずる、ずる、と手も足もない状態で、こちらにむかってくる。


逃げたくても、体は震えるだけで動かなくなってしまったのだ。

「ゆ…る…さ…な…い…っ!」

許さない。

延々とそう呟いていたそうだ。


そして。

ふっとその姿は消えた。

急いで家に帰ったそうだ。

それ以来。暗闇が怖くて、夜、電気を消せなくなったらしい。


祖父の言葉が思い出され出される。

祖父曰く。

奴らは端的に言やぁ、寂しいのよ。

希望、元気、明るい、たのしい。

奴らの持ってない感情が奴らを呼び寄せることもある。

執念い奴らなんざ余計に厄介だ。


しばらくして。

見えるようになったんだ、と。

明るい場所でも。

会社でも。

駅でも。

……家でも。


その人はノイローゼになってしまった。

その友人は僕にその話をした次の日に、電車に飛び込んで、死んだ。

僕の目の前で飛び込んだんだ。

友人は、両手両足が吹き飛びその姿でしばらく蠢いていた。

そして。

「ゆるさない……。ゆる……さ、ない……」

といながら、息を引き取った。

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