第18話 提灯お化け─チョウチンオバケ─

ひどく懐かしいものを見てしまった。

それは今や忘れ去られた提灯お化け。

「けけけっ」

と鳴くと、付いて来いと飛んでいく。


祖父の言葉を思い出す。

お化け、幽霊、妖怪なんぞは人間が信じちまうから生まれるんだ。

そして、使うものは年代を重ねるごとに変わっていって、古いもんは滅びゆくのよ。

もう使わねぇもの、あんだろ?

ああいうのは境を隔てた向こう側に行くのさ。


境の向こう側、と祖父は行った。

時代遅れになり、人からも忘れ去られた妖怪。



それは妖怪たちにとっての天国や地獄のようなものなのか。

赤提灯お化けはフラフラと一軒の酒場に入っていき、そこで姿を消した。



「いらっしゃい」

老夫婦が二人で切り盛りするような小さな酒場。

外には赤提灯が、下げられている。

少しはあのお化けも集客になっているのかもしれない。

それは、付喪神のように年月を経てこの老夫婦に、恩返しがしたかったのか……。



たまには美談も悪くない。

そう思ってから数日後。

その酒場は無くなっていた。



なんでも火の不始末で火事になったそうだ。

死者は二人。

あの老夫婦だ。

「けけけっ」

またあの声を聞いた。

あれは、老夫婦を守るものだったのか、それとも仇なすものだったのか。

最後までわかることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る