【17】解かれた封印(1)
レイディアの邸へ戻って早々、私とライルは“求めれば示される道”について考え始めた。
ようやく手がかりを掴んだものの、それはあまりにも
「求めれば
「俺達は最初からサロの禁書を求めてるんだけどな」
常にそれを口にしていたし、思ってもいた。それでも反応がなかったということは、思うだけでは駄目だということなのかもしれない。
「話しかけてみるのは、どうかな?」
「
うん、と
「それで教えてくれるっていうのか?」
「やってみなきゃわからないでしょ?」
「お願い、サロの禁書がどこにあるのか教えて?」
私、ライル、レイディアの視線が
「反応、ないわね?」
「ない、よね……話しかけるのも駄目なら、どうやって求めればいいんだろう」
求めるということは、それが欲しいと思って行動を起こすか、言葉として口にすること。思って行動しているのに反応しないのなら、口に出せばいいのだと思ったのだけれど、それも違うということなのだろうか。
「……もしかして、
ふと、思いついて口にした。ライルとレイディアもハッとしていた。
「
「
「えぇ、多少はね」
「サロの禁書のもとへ導け。それを訳すとどうなる?」
「多分……
「やっぱり駄目ね」
「ルディ、お前が言ってみろ」
「えっ、私?」
そうだと頷きながら、ライルは
「今、こいつの持ち主はルディだ。持ち主以外の言葉を聞き入れないのかもしれない」
「そう、なのかな?」
「確証はないけどな。何でもいいから、試してみろ」
「うん、わかった……
何か起こって!
強く願ったけれど、期待とは裏腹に
「道が、示された……?」
「ルディ、やったじゃない!」
「えっ、えっと、この光の先にサロの禁書があるってことだよね?」
そう捉えていいのか、私は不安になって訊ねた。「わからない」と口にしながらも、ライルもレイディアも違うとは否定しなかった。
この光の先にサロの禁書がある。そう思うと、喜びに自然と笑みがこぼれた。これでライルの命が助かる――安堵の溜息をついた、まさにその直後のこと。
邸の外からゴーンゴーンッと大きな鐘の音が響き始めた。不穏なその音に、肌がざわつくのを確かに感じた。
「な、何?」
「この鐘の音は、空襲の合図か?」
「ちょっと待って! セントアデルの軍事力はこの大陸内一よ? わかっていて攻め込んできた馬鹿はどこのどいつよ?」
外の様子を見ようと、
カーテンを開けて見れば、数百機にも及ぶ
「おいおい。攻め込んできたのはエルディアかよ」
「ちょっと、あんたんとこの皇帝、馬鹿じゃないの? ライル、あんた一応“元城仕えの魔法士”でしょ? どうにかしなさいよ」
「俺に言ったってどうしようもねぇだろ。お尋ね者の魔法士がのこのこと止めに出て行ったら捕まるだろう」
ライルが返せば、「それでも止めなさいよ」と、レイディアは無茶を返す。どうにかしろ、どうにもならんと言い争いを繰り返していると――
「ライル! ここにいたのかっ」
突如、リビングに置かれていた姿見の中からゼニスが飛び出してきた。突然の訪問者に、言い争いを続けていたライルとレイディアもハッと我に返った。
「よかった、無事だったんだね!」
「ゼニス、どうしてここに?」
「そんなことは後だ。ライル、すぐにセントアデルを離れろ。エルディアが……ファローがサロの禁書を手に入れた」
「何だって!」
「それ、本当なの!」
ゼニスは
「地下書庫でサロの
「でも、それだけで見つけられるわけが……」
否定するライルに、ゼニスは懐から取り出したサロの日記を突き付けた。地下書庫で
「この日記には、サロの禁書の場所……サロの魔力を特定する術が施されていたみたいなんだ」
「あり得ない! 禁書の場所を示すのは
「日記の
これまでの経緯を状況をゼニスに話した。
「
「ここまできて……」
「その話はまた後にしよう。ライル、ここにいたら危ないっ。とにかくここから――」
ゼニスがそう言いかけた時、鳴り響く鐘の音を吹き飛ばすような爆音が
エルディア軍がついに砲撃を開始したのかと思ったが、どこか様子が違う。青い空が瞬く間に黒く蠢くもので覆われていく。それは数千、数万におよぶ蛾の群れだった。
息を呑むよりも早く、その群れは町中を飲み込み、レイディアの
「
「ゼニス、エルディアが攻め込んできたのは、もしかして……」
レイディアの問いに、ゼニスは申し訳なさそうに視線を外した。
「サロの禁書が見つかった今、残すは
「もしかして、私達を焙り出すためなの?」
ゼニスは
「各地でいっせいにこの計画が実行された……。もっと早くに気づいていれば教えてあげられたんだけど、僕はライルの幼馴染だから。情報が漏れることを警戒されて……計画を知らされたのは数時間前だったんだ。ライル、役に立てなくてごめん……」
「ゼニス、謝るのも後でいいわ! ライル、逃げるわよ。グズグズしていたら、あれに窓を破られる。急いで!」
「言われなくてもそのつもりだ」
ライルはここへ来た時と同じように、逃げ道を繋ぐため鏡へと駆け寄ったのと、ほぼ同時だった。
「うわっ! あんた、何しに来たんだっ!」
突然、ライルが叫んだ。「どっこいしょ」と掛け声をかけながら、鏡の中から出てきたのはフィーさんだった。
「フィーさん! どうしてここに?」
「よう、ルディちゃん。聞いてくれ! 店で居眠りしておったら、エルディア軍の魔法士達が店にやってきてなぁ。突然、ワシを捕らえるというから慌てて逃げてきたんだよ」
「あ、あなたはっ!」
信じられないといった様子で、ゼニスが声を上げた。フィーさんの傍に駆け寄ったかと思えば、その姿を右から見たり左から見たりと、妙な行動を取った。
「ご、ご無事だったのですか?」
「無事と言われても……お前さんは?」
そこまで言いかけたフィーさんは、ゼニスの胸についている白い龍の紋章を見つけた。とたんにムッとし、目をキッと細めて睨みつけた。
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