保険金詐欺解決編①
翌朝。
早めに目を覚まし、部屋から出ると美味しそうな料理の匂いが、キッチンを覗けば、シャーロットが作った料理をルナが鼻歌を鳴らしながらお弁当箱に入れている。
「おはよう」
「ご主人様! おはようなのですよ!」
「リク様。おはようですわ」
朝の挨拶を交わした俺は、新入り奴隷――ミアの姿を探す。
「ミアはまだ寝てるのか?」
ミアはまだ十二歳、更に環境も昨日から激変。流石に、まだ寝ているのか?
「ミアは一時間ほど前にリク様からの主命があると、出掛けられましたわ」
は?
一時間前って、まだ外は薄暗いぞ? 俺はミアのアグレッシブ過ぎる行動と言うか忠義心に呆れながらも目覚めのコーヒーを煎れた。
朝食を終え、旅の準備を済ませると、程よい時間になったので、商業ギルドへと向かった。
商業ギルドは開館前から、数人の商人が列を作って並んでいる。あの並んでいる商人の内、何人かは盗難保険の加入が目的と思うと、心が温まる。
今や、盗難保険は俺の充実した生活を支える為だけの商品ではない。多くの商人の、多くの冒険者の生活を支える商品へと存在意義は高まっている。
であるからこそ、こんなつまらない保険金詐欺で廃止させてはいけない。
人々の安寧した生活の為、俺自身の充実した生活の為――俺は保険金詐欺事件を早期に解決することを堅く決意するのであった。
その後、カシムの用意してくれた控え室で寛ぐこと一時間。
「リク殿、例の条件にあてはまる保険加入がありました」
「運搬先の目的地は?」
「パイン村ですね」
パイン村? 俺は聞いたことがあるような、無いような名前の地名に首を傾げる。
「首都から東方に馬車で七時間移動した距離にある村ですわ。主要生産物は麦ですが、首都と衛星都市を結ぶ中継地として栄えた村ですわ」
俺の心中を察したシャーロットがスラスラとパイン村の情報を教えてくれる。
「なるほど。地図を見せてくれ」
シャーロットに渡された地図を見て、盗賊が襲うであろうポイントを推測する。冒険者、商人、盗賊――全てがグルであるなら、一番避けたい事態は第三者に目撃されることだ。ならば、人の住む近くは避けたいはず、街道も避けたいか? とは言え、ある程度の真実性を持たせるために目的地は目指すよな? となると……。
俺は候補となる地点に印を付けていく。
街道を後方から堂々と付いていく訳には行かない、目視できないほどの後方から追走するか、先回りして隠れながら見張るか……。相手は荷物を載せた馬車に対して、こちらは身軽な三人。俺は後者の案と取り入れた。
面倒だが、三十カ所以上もの待ち伏せポイントを設定。設定したポイントに先回りして、待ち伏せをしながら動向を見張ることにした。
東門から王都を出て、最初の待ち伏せポイントへと向かうことにした。
「【アースブレス】!」
俺は大地の加護を与える魔法を、俺、シャーロット、ルナの三人を対象に唱える。この魔法は、大地の加護により、地に付いている足から大地の加護を得て、地に足が付いている限り体力が回復し、歩行速度も上昇する優れものの魔法だ。
「ご主人様は相変わらず多彩なのです」
ルナは俺から受けた魔法の効果を確かめるかのように、ピョンピョンと軽い跳躍を繰り返す。ここ最近俺は保険業のみに時間費やしていた訳では無い。時には、冒険者と共にクエストに出かけたり、俺を変態呼ばわりする狐耳のツンデレ少女と一緒に冒険をしたりと、魔法のレパートリーを着実に増やしていたのだ。
これで、確実に先回りは可能だ。俺達は颯爽と街道を駆け抜けるのであった。
最初の待ち伏せポイントである森の中。俺は木の上に登る。
「【シルフィードアイ】!」
風の加護を俺の目に与える魔法を唱える。この魔法は、視界を良好にする魔法だ。最大で三km先まで確認が出来るが、足下がお留守になるのが難点の魔法だ。
「ご主人様! ルナは採集してるです」
「あいよ。気を付けてな」
「私は周辺の警戒をしますわ」
「任せた」
三十分ほど待っていると、ようやく視界の先――三km先に、調査対象となっている商隊が姿を現した。
観察した限り、特に不審な点は無かった。その後、何事も無く、俺達が待ち伏せたポイントを通過したのを確認し、次なるポイントへと移動した。
◆
現在は十二箇所目のポイントで待ち伏せをしている。
「ご主人様! そろそろお昼になのですよ」
ルナが大声で木の上にいる俺に大声で声を掛ける。
「アホ。誰が見張りをするんだ」
「大丈夫ですよ。きっと今回も何もないのですよ。それより、ほら! 準備は万全なのですよ!」
「ほらって言われても、この魔法中はそっちを確認出来ねーよ」
「解除するのです。ご主人様の大好きな梅のライスボールも沢山あるのですよ」
木の下からはのほほんとしたルナの声と共に、美味しそうな弁当の匂いも香ってくる。
ったく、隠れて調査しているのに、料理の匂いが漏れるってどうなのよ?
そもそも、ルナには隠れているという認識があるのかすら怪しい。とは言え、この匂いは俺の鼻腔を刺激する。
「ルナ、ライスボールを三個と唐揚げを何個か持ってきてくれ」
「えぇー!? 一緒に食べないのです?」
「だ・か・ら、今は見張中って言ってるだろ!」
激昂すると、ルナはささっと木を登り、俺に昼食を献上する。
最初から、そうすればいいんだよ! 俺はイライラしながらも、受け取った昼食を頬張りながら、調査対象がくるであろう方角を眺め続けたのであった。
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