三人目の奴隷③

 【神の瞳】で確認すると、ミアは空腹状態であった。本人に聞いても「問題ない」と素っ気なく答えるだけなので、俺は強引にミアを飯屋に誘った。


 飯屋に入り、席に座ると、ミアは俺の後ろで直立不動の姿勢を取る。


「何をしている?」


 俺は目の前の空席と、後ろのミアを交互に見て、尋ねる。


「主が食事を終えるのを、待つ」


「いやいや、一緒に食うぞ」


「問題ない」


 ミアは表情を変えずに答える。十二歳の少女を後ろに立たせて飯を食うって、どんな罰ゲームだよ。


「問題ありだ。一緒に食うぞ」


「ん。しかし――」


「いいから、一緒に食え。これは命令だ」


「命令……承知」


 命令と言葉を使って、ようやくミアは俺の前の席へと座った。その後、何を食べたいのか聞いても、「主に任せる」、俺と一緒でいいか? と言えば、「恐れ多い」と答えるので、【神の瞳】で確認した、ミアの嗜好物――オムライスのような食べ物を注文した。


 俺が配膳された食事を食べていると、ミアは目の前に配膳された旗の刺さったオムライスを目の前に固まっている。


「何をしている? 食えよ」


「……」


 ミアは俺とオムライスを交互に見ながら、固まっている。


「ミア? 料理は出来たてが美味しい。せっかく提供された食事は、温かい内に食べるのが、礼儀だ」


「しかし……」


「しかしも何も無い! 食事を作ってくれた人、食事代を出した俺、全ての人に感謝をしているなら、美味しい状態で食べろ」


「……承知」


 俺の言葉が届いたのか、ミアはようやくオムライスを食べ始める。一度食べ始めると、よほど美味しかったのか、脇目も振らず食べ始めたのであった。


 食事を終えた俺は、ミアに俺の現状と生業である保険業の事、そして本題である今回の調査対象を説明することにした。


「ミアはこの冒険者の背景を探って欲しい」


「承知。商人の背後は?」


「そちらは、商業ギルドが調査してくれているが、余裕があったら調べてくれ」

「承知」


「最終的に、黒幕は誰なのか? 盗賊であるならば、その盗賊の拠点がどこにあるのか、までを調べて欲しい」


「承知」


 ミアは小さく頷いた。


 話すべき事も話したので、そろそろ自宅に帰るか……っと、その前に、


「すいません」


 俺は手を挙げて、店員を呼ぶ。


「はい。何でしょうか?」


「この旗って持って帰ってもいいのか?」


「ふふっ。構いませんよ」


 店員はミアの前のある皿に残された旗とミアを交互に見て微笑む。俺は、ミアが俺の話を聞いてるときに、何度もその旗に視線を移していたのを見逃してはいなかった。


「だってよ、ミア?」


「にゃ!? ボ、ボクはこれがほ、欲しいなんて言ってないにゃ!?」


 ミアは顔を赤らめて、子供のような口調で捲し立てる。


「ボク? にゃ? それはミアの素なのか?」


「……」


 ミアは顔を真っ赤にして、俯く。


「まぁ、いいや。その旗持って帰れよ。これは命令な」


「め、命令ならば……承知にゃ」


 仮面を被れきれず、若干の素が漏れてしまったミアを連れて、俺は家へと帰った。


 その後、家に帰った後に、ルナから「やっぱりご主人様はロリコンなのです」とあらぬ誤解を受けたり、シャーロットが「先輩のシャーロットですわ」と嬉しそうに自己紹介をしたりと、一悶着あったが、明日に備えて早めの就寝をすることにしたのであった。

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