保険金詐欺③

「ルナ、どうした? 何か気になることでもあるのか?」


 俺は藁にもすがる気持ちで、ルナに声を掛ける。


「えっとですね……この被害に遭われた商隊を護衛していた冒険者さんって、奪われた積荷の半分の半分を弁償するんですよね?」


「そうだな」


「可愛そうだなぁと思ったのですよ」


 俺はルナの言葉を聞いて、脱力する。こいつは、今、自分のご主人様がどれだけの苦境に立たされているのか理解しているのか?


 俺は、やはりルナに声を掛けたのは間違いだったと思い、ため息を吐くと。


「なので、今後クエストのお手伝いでもしようかと思ったのですが……」


 慈愛に満ちあふれたルナの言葉が続く。その慈愛を俺にも向けてくれ。


「ほとんどが知らない人なのです。いきなり声を掛けるのは緊張するのです」


「えっ?」


 ルナの脳天気な言葉に思わず反応する。


「だから、ほとんどが知らない人なのです。知っている冒険者さんはランクが低い冒険者さんが多いので、明日声を掛けてみるです」


「ルナ。ここに載っている冒険者で知っている冒険者は誰だ?」


 ルナが指差した冒険者が護衛していた商会は、財務諸表を見る限り健全な経営をしている商会だ。ルナはここ最近冒険者ギルドに入り浸っている。冒険者からの評判も上々で、冒険者の知り合いも多いと聞いている。


 この五日間で起きた二十三件の盗難事件全てが、疑わしい訳では無い。統計学的に言えば、十件は想定されていた盗難事故だ。


 ルナが指し示した冒険者が護衛していた商会の盗難事故は、想定されていた盗難事故の被害に遭った商会と考えられる。


 ならば、ルナが知らないと言った冒険者が護衛していた商会と言えば――全て経営が破綻している商会であった。


「アドランはこいつらを知っているか?」


 俺は立ち上がり、アドランに質問をする。


「ふむ。そうじゃな。こいつはBランクで、こいつはCランク、こいつは……ふむ。知らんな。Bランクであれば、名前くらいは知っておるはずじゃが……そうじゃ! 多分、最近他の都市から来た冒険者だと思うぞ」


「他の都市から来た冒険者?」


「うむ。最近、我が支部は護衛クエストが増加しておる。護衛クエストは成功すれば確実に報酬が貰える人気のクエストじゃ。他の都市からも、噂を聞きつけた冒険者が大勢来るのじゃ。ここ最近は、そういった冒険者も増えた。だから、その冒険者も恐らくそういった冒険者じゃろう」


「冒険者の身元の調査は?」


「アホか! 冒険者など、多くは過去に何かを抱えておる。そんなことをいちいち気にしていたら、冒険者ギルドは潰れてしまうわ! とは言え、流石に犯罪者は弾くぞ。最近は……新顔も多いので……確実とは……」


 勢いよく机を叩き付けたが、俺の視線を受けてアドランの言葉尻は萎んでゆく。


 俺は得た情報を頭の中で整理する。


 ここ五日間で示し合わせたように多発する盗難事故。被害に遭った商会の半数以上が経営破綻している。仮に、盗賊と商会が結託したとしても、護衛を引き受けている冒険者に返り討ちにされては意味が無い。


 しかし、その護衛をしている冒険者も保険金詐欺に結託していたら、どうなる?


「アドラン。護衛に失敗した場合は、冒険者も二十五%の損害を支払うんだよな?」


「うむ。しかも、クエスト報酬も無しじゃ」


「反論は出ていないのか?」


「そうじゃな。護衛を失敗した冒険者には、その後優先的においしいクエストを回しておる。とは言え、絶望する者、文句を言う者、反応は様々じゃな。しかし、最後には自分のケツは自分で拭けというのが、冒険者じゃ。文句は言わせんよ」


「なるほど。例えば、さっき名前の挙がった冒険者はの反応はどうだった?」


「そう言われれば、ここ最近護衛クエストの失敗が増えたとの報告は聞いておるが、儂が出張るまで発展したケースは以前と変わらぬな」


「それは、つまり?」


「大人しく、職員に罰則金を支払ったということじゃろ」


 俺の質問にアドランは思い出すように、宙を見ながら答える。


 冒険者は紳士的とは言えない。どちらかと言えば粗暴だ。他の都市からわざわざお金を求めて、この王都に来て、大人しく罰則金を支払う……あり得るのか?


 ――否。あり得ない。冒険者も保険金詐欺に結託していると判断してもいいだろう。


 俺は自分の仮説を説明し、今後の対策を説明する。


「明日以降、俺の仮説にあてはまる条件の商隊の運搬に、俺とルナとシャーロットも同行する」


 俺もルナもシャーロットも、何を隠そう実力はAランク相当だ。そこいらの盗賊には負けない。


「しかし、それでは盗賊が襲ってこないのでは?」


 俺の提案にカシムが異を唱える。


「そうだな。少し離れた位置から追尾でもするさ」


「わぁい。ご主人様と久々の冒険なのですよ。シャーロット! お弁当を準備をよろしくなのです」


「畏まりましたわ。我が身を盾とし、リク様に降り注ぐ災いは全て受け止めますわ」


 遠足の前日のようにはしゃぐルナと、強い決意を瞳に宿すシャーロット。


「んじゃ、うちからもAランクの冒険者を何組か護衛の護衛に出すとするか」

「いいのか?」


 剛毅な発言をするアドランに、俺は驚く。


「今回だけじゃぞ。冒険者も加担してるとなると、儂も動かざる終えんじゃろ」


 アドランはニカっと歯を見せて笑う。


「私は、商会の背後を探りましょう」


 カシムも調査を引き受けてくれる。


 これで、万全! とまでは言えないが、出来うる限りの対策は整った。


 俺はアドラン、カシムと問題の解決を誓った握手を交わし、緊急会議は終了とした。

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