三人目の奴隷①

 アドラン、カシムが各々のギルドへと帰った後、俺はあることを考えていた。


「ご主人様! 明日のお弁当は何がいいですか? サンドイッチです? ライスボールです? 定番のウィンナーはちゃんとシャーロットに伝えてあるのですよ」


 ウキウキのルナと、エプロンに着替えて弁当の準備をするシャーロット。


「ご主人様? どうしたのです? ハッ!? おやつですか!? ルナとしたことが――」

「ルナ! シャーロット!」


「は、はい」

「何でしょうか?」


 俺はある考えに至って、二人の名前を呼ぶ。


「ちょっと出掛けてくる」


「どこに行くのです? おやつを買いに――」


「奴隷商館に行ってくる」


「奴隷商館なのです? えっと、あそこで売っているおやつは……ってえぇぇぇぇぇ!?」


 お花畑のルナの耳にようやく俺の言葉が届く。


「リク様。かような時間にどのようなご用件で?」


 シャーロットが落ち着いた態度で、俺に尋ねる。


「欲しい人材が出来た」


「はぅ……。護衛なのです? 明日のピクニックの護衛なのです? それなら、冒険者を雇えばいいと思うのですよ」


「明日の予定にピクニックは無いが……護衛ではない」


「畏まりました。私に何か出来ることはありますか?」


 見当違いのルナをよそに、シャーロットが正しい対応をする。


「特にないな。明日の準備を進めてくれ。あ!? 明日の弁当はライズボールで頼む」


「畏まりましたわ。いってらしゃいませ」


「具材は! 具材が何がいいのです!」


 礼儀正しく見送るシャーロットと、叫び続けるルナ。俺は「梅」とだけ伝えて、自宅を出発し奴隷商館を目指したのであった。


 奴隷商館に到着すると、いつもの老紳士――奴隷商人が俺を迎えてくれた。


「リク様。ご来館ありがとうございます。昨今の益々のご活躍、当館も嬉しく思っております」


 奴隷商人は恭しく頭を下げる。


「とは言え、俺のせいで奴隷落ちする冒険者が減ってるだろ?」


 俺は老紳士に皮肉を返す。


「いえいえ、冒険者だけでなく、最近は元商人の奴隷も減っております」


 奴隷商人は俺の皮肉に対し、礼節を欠かさない対応を続ける。


「盗難保険の影響か?」


「左様でございます」


「そうか。何というか、すまない」


 俺は居心地の悪さを感じ、頭を下げる。


「いえいえ、代わりに元盗賊の奴隷を大量に仕入れることが出来ました。これも一重にリク様の善行のお陰です」


「元盗賊の奴隷が増えただと?」


「はい。リク様の善行により、廃業する盗賊は後を絶ちません。かつては奴隷を売りに来る立場であった彼らも、今では自分を売りに来ておりますよ」


 奴隷商人は楽しそうに「フォッフォッフォ」と笑い声を上げる。


「ならば、新しい奴隷も期待出来そうだな」


「ご期待に添えられることを、切に望んでおります」


 奴隷商人との会話もそこそこに、俺はいつもの部屋に通され、いつもの手順で奴隷を確認する作業へと移った。


 例によって五人づつ奴隷を【神の瞳】で確認する。


 しかし、多いな……。元盗賊の奴隷が増えたとは言っていたが、多過ぎだろ。


 ルナを購入した時は三十七人の奴隷を確認した。シャーロットを購入した時は二十七人の奴隷を確認したのだが……今回は倍どころではない、奴隷の数は百人を超えていた。


 俺は、めぼしい奴隷の番号と特徴を簡単にメモに纏め、次々と奴隷を確認していく。


 しかし、元盗賊とあって目つきが悪いな。後、気になるのがやけに俺に媚びてくる奴隷が多い気がする。


「一つ尋ねてもいいか?」


「はい。何なりと」


 俺は後ろに控える奴隷商人に声を掛ける。


「やけに、俺に媚びてくる奴隷が多くないか?」


「それは、リク様の人柄が要因と思います」


「俺の人柄?」


 最近耳にする俺の人柄と言えば、「守銭奴!」と言うのが一番多いのだが、はて?


「リク様はご購入された奴隷を家族のように大切に扱ってくれる。また、能力を開花させるのもお上手と評判です。実は、当館もリク様がお買い上げになられたルナ様とシャーロット様が当館出身と耳にした者の買い付けが増加しております。リク様には大変感謝しております」


 恭しく奴隷商人が頭を下げる。


 意外な場所での俺の評判を確認したところで、再度奴隷の確認作業へと戻るのであった。


 合計百八人の奴隷の確認を終え、俺は一息つく。


 今回は、非常に興味がそそられた奴隷が一名。求める条件に合致する奴隷が一名いた。


 非常に興味がそそられる奴隷とは、超高スペックの奴隷だ。

 

 何でも元盗賊の頭だった人材らしい。戦闘に関する能力にSが三つ。他に、家事全般や刺繍といった生活能力にも多くSやAが並ぶ。しかし、その奴隷には致命的な弱点が二つあった。一つは外見。可愛らしいうさ耳を生やした、筋肉隆々の男であった。もう一つは、乙女心という項目がSであった。男性なのに、乙女心がS……危険な香りしかしない。奴隷になれば、一つ屋根の下で共に暮らさなければいけないのだ。うさ耳を生やした筋肉隆々で乙女心Sの男と暮らすのは、俺には難易度が高すぎる。また、俺の前に並んだときに、何度も仕掛けて来たウィンクと投げキッスも大きなマイナス要因だ。よって、この奴隷の購入は却下。


 今回、購入する奴隷は――。

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