シャーロットの適正④

 その後も森の奥地にいる様々なモンスターを相手にシャーロットのタンク適正調査を行った。


 シャーロットのタンクの適性は――問題なし! いや、大きな問題はあったが……タンクの責務という観点のみから見れば逸材とも呼んでも差し支えは無いだろう。


 今日が初の戦闘にも関わらず、シャーロットはほぼノーダメージであった。【神の瞳】に偽りなし。シャーロットの耐久はまさにS級であった。


 また、タンクと言うか、似た役割である騎士。その元騎士の冒険者が言っていた――『民を守る盾――騎士にとって最も大切な素質は勇気だ。屈強な敵を前にしても、退くこと無く盾を構え続けれられる者が真の騎士である』という言葉に当てはめれば、勇気? はともかく、シャーロットはどのような屈強な敵を前にしても、恐らく退くことは無いだろう。


 そんなタンクの適正を認めたシャーロットは現在――六匹の巨大な蛙に囲まれていた。


 二メートル近くある巨大な蛙の名は――ジャイアントトード。長い舌と、口から吐き出す粘液で敵の動きを絡め取り、表面を覆う粘膜には毒性が含まれていると言う、厄介なモンスターだ。


「くっ! ヌメヌメしますわ! リク様の前で、こ、このような辱め……ハァハァ」

 全身に粘液を浴びて、身悶えるシャーロット。


「そ、その舌で何処を舐め回すつもりですの! ……ハァハァ」

 長い舌に束縛されて、扇情的な表情を浮かべるシャーロット。


「あぁ……痺れますわ。全身がヒリヒリと痺れますわ。……ハァハァ」

 毒の粘膜に触れて、恍惚な表情で痙攣するシャーロット。


「……ルナ」

「……はいなのです」

「奴隷って返品可能だったか?」


「……どうでしょう? でも、シャーロットは優秀なのですよ」

「あの表情を見ながら、もう一度同じ台詞を吐けるか?」

 俺は現実――シャーロットから目を逸らすルナの目を見据えて話す。


「シャ、シャーロットのご飯は美味しいですよ……」

「ハァーン! 生臭い! 生臭いですわ! ……ハァハァ。ヌメヌメが生臭いですわ!」

 ルナのフォローを台無しにするシャーロットの叫びが周囲に響き渡る。


 整理能力は申し分なし。分析能力は完璧。料理は最高。タンクとしての適正も十二分。ついでに言うなら、容姿もグッド。ここまでなら最高の逸材なのに……。


 恍惚な表情を浮かべながら、扇情的に身悶えるシャーロットを見ながら、葛藤を繰り広げていると――。


「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!? 今助けるわ!」

 聞き覚えのある少女の声が耳に届く。


 声のした方へと視線を向ければ、狐耳を生やした銀髪の少女――カエデが木の陰から飛び出してきた。


 カエデは俺の存在には一切気付かず、シャーロットを囲んでいるジャイアントトード目掛けて高圧的な魔力を練り固める。


「危険だから蛙に触れないでね! ――サンダースパーク!」

 金色に輝く無数の雷光がジャイアントトードの群れを纏めて包み込む。


「「「ゲコココココォォォオオオ!?」」」


「ハァーン! し、痺れますわぁぁぁあああ!」


 苦悶の叫び声をあげるジャイアントトードの群れと、一匹のジャイアントトードに優しく手を添えて恍惚の叫び声をあげるシャーロット。


「ちょ、ちょっと!? 蛙には触れないでって言ったでしょ!」

 カエデが涎を垂らしながら痺れるシャーロットに叫び声をあげる。


 【神の瞳】にて、ジャイアントトードの状態を確認。一瞬で四匹のジャイアントトードが絶命している。凄まじい威力だな。とは言え、討ち漏らしは二匹か。


 ――ファイヤーランス! ×2 


 ジャイアントードの弱点属性である炎が槍と化して、討ち漏らされた二匹の命を刈り取る。


「えっ? ……って!? あ、あ、あんたはいつぞやの変態!?」

「……おい。誰が変態だ」

「あ!? ロリコンだったね? ってことは、やっぱり変態っ!?」

「誰がロリコンだ!」

 俺が力強く否定の言葉を吐き出すと、カエデは首をちょこんと捻り、ハッとした表情を浮かべると、ゴソゴソと鞄を漁り、鏡を取り出すと俺を写し出す。


「なるほど。俺がロリコンか」

 鏡に写った俺を見て、俺は一旦納得の表情を浮かべる……訳もなく、


「高度な嫌がらせするんじゃねー!」

「フフッ。それはそうと、変態? あそこで笑顔を浮かべながら痙攣しているの女は、あんたの仲間なの?」

「……な・か・ま? うーん 仲間と言われれば……仲間になるのか?」

「どうでしょうね? 仲間というか、シャーロットも私も奴隷なのです。仲間とは少し違うような気もするのですよ」

 俺の問い掛けにルナは首を捻りながら答える。


「……奴隷? 奴隷ってあんた! いくら奴隷だからって、女の子を一人でモンスターの囮にしたの!?」

 非難の籠もったカエデの甲高い声が俺の耳にキンキンと響く。


「いや、囮じゃなくてだな。盾のれんしゅ――」

「笑止。私は……ハァハァ……リク様の……ハァハァ……肉壁ですわ。卑しき我が身がどれだけ穢され……ハァハァ……ようとも、リク様の御身をお守り出来れば――」

「はい! ストップ! シャーロット、少し黙ろうか?」

 俺の言葉を遮り、危険な言葉を発するシャーロットを、今度は俺が制する。


「に、肉壁って!? そ、それに、その女の態度……変態! やっぱりあんたは変態よ!」

 その後、カエデから謂われの無い非難を浴び続け、精神力エンプティな状態にて自宅へと帰還したのであった。

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