二人目の奴隷②
「ご主人様。②の男の子にしましょうよ。絶対にあの子性格いいですよ」
ルナが俺に助言してくる。ちなみに、ルナの言う少年は性格に多少難がある。二面性Aとか見えるんだよな。
よって②は却下。
悩んだ末に俺の出した結論は――。
「⑫の商品を残して後は下がってくれ」
「畏まりました」
「えぇぇぇぇ!? ⑫ですか!?」
隣で驚愕するルナだが、元よりルナに意見は求めていない。強いて言えば、購入したら一緒に暮らすことになるのに、第一印象が悪くなったんじゃね? と思った程度だ。
「初めまして。俺の名前はリクだ」
俺は⑫の女性の目を見て声を掛ける。
「お初にお目にかかります。私の名前はシャーロットですわ」
⑫の女性――シャーロットはスカートの端を摘まんで貴族風の挨拶をする。
「奴隷落ちした経緯を聞いてもいいか?」
「もちろんですわ。私は貴族の出身……でしたわ。でも、家が没落していまい、私は売られましたの。それが、奴隷落ちした理由ですわ」
「なるほど。それは災難だったな」
「仕方の無いことですの」
シャーロットはどこか悲しく、しかし、己の境遇を受け入れているようでもあった。
「本題だが、シャーロット。君を購入したら、やって貰いたい仕事が幾つかある」
「私に出来ることでしたら、何なりとお申し付け下さい」
シャーロットは恭しく頭を下げる。
「書類の分析、整理。後は家事全般」
「家事ならルナが――」
ルナが口を挟んでくる。お前の家事能力はDだろうが。
「元貴族の身ではきついかも知れないが、出来るか?」
「今はただの奴隷です。リク様のご命令とあれば何でも致しますわ」
「そうか。後、俺は冒険者もしているから、共に危険な冒険に出る事もあるが、いいか?」
「弱き身なれど、この身を投げ出してでもリク様のお役に立つことをお約束しますわ」
シャーロットは甲斐甲斐しい言葉を発する。流石は従順A。ぱっと見は貴族だから、予想も出来ないが、誰かに尽くすのが好きな性格のようだ。
「わかった。シャーロット。君を購入しよう」
「ありがとうございます。誠心誠意リク様に尽くすことをお約束しますわ」
俺が購入の意思を示すと、シャーロットは深く頭を下げた。
「畏まりました。⑫の商品をご購入ですね。三十万Gとなりますが、よろしいでしょうか?」
老紳士がタイミングを見て、俺にクロージングを仕掛ける。
「構わない。宜しく頼む」
「畏まりました。お買い上げありがとうございます。リク様、当店は返品を一切受け付けておりません。商品番号⑫は、性行為不可が従属条件としてございます。本当によろしいですね?」
「うむ。構わない」
後で聞いたのだが、シャーロットの性行為不可の条件は売却者――シャーロットの両親が設定した条件らしい。
「畏まりました。ありがとうございます。それでは、金額のお支払を確認次第、従属契約を結びますが、よろしいでしょうか?」
俺は、ポケットの中からシャーロットの代金――三十二万Gを取り出して老紳士に渡す。二万Gは従属契約の為の諸経費だ。
「三十二万G……確かに。ご購入ありがとうございます。奴隷紋はどこに施しますか?」
「手首でいいか?」
「私はどこでも構いませんわ」
本人に確認したが、特に指定は無いらしい。首に奴隷紋を付けている奴隷を街中で見かけたことは多々あるが、いかにも奴隷ですという感じで好きになれないので、手首に施すことにした。
「リク様。手首に奴隷紋を施します。本当によろしいですね?」
老紳士は、俺へと最後の確認をする。
「問題無い。よろしく頼む」
「畏まりました。それでは、リク様。血を一滴頂戴します」
老紳士はそう言うと、針で俺の手の甲を刺して、僅かな血を抜き取ると、俺の目の前でシャーロットの手首に奴隷紋を施した。
「これにて、完了です。リク様、またのご来館をお待ちしております」
恭しく、頭を垂れて一礼する老紳士に見送られ、俺は奴隷商館を後にするのであった。
◆
「ご主人様。何でシャーロットを選んだのですか?」
奴隷商館から自宅へと帰る中、ルナが不躾な質問を俺に投げかけてくる。シャーロットは気にならないのか、大人しく俺の後ろを歩いている。
「優秀な人材だったから?」
「優秀な人材ですか? シャーロットもルナと一緒で、剣の達人とかです?」
「いや、違う。それに脳筋はルナ一人で十分だ」
「はわっ。酷いのです」
俺が惚れたシャーロットの才能。それは――【神の瞳】で見れば一目瞭然であった。
(シャーロット……人間……生命力B……耐久S……腕力D……魔力F……精神F……敏捷E……バストD……身長一六二……体重四七……炎適正F……氷適正F……風適正F……土適正F……槍適正C……動体視力D……行動予測A……従順A……分析B……算出A……整理B……家事B……善人A……マゾヒストS……)
まさかのS適正が二つもあったのだ。一つは耐久。これが俺の惹かれた才能だ。腕力が高い訳でもなく、魔法の才能も無いので、純粋なタンク要員にしかならないが、使い方次第では、最高の盾になり得る存在だ。そしてもう一つがマゾヒスト。これは俺が引いた特性だ。考えようによっては、攻撃を受けるタンク職で、耐久が高くて、攻撃されるのも好きなマゾヒストであるならば、プラス材料なのか?
まぁ、あまりに酷かったら売ればいいか。と、安易に考えた。
「シャーロットは優秀なタンクになる可能性がある」
俺はシャーロットを選んだ理由とルナに答える。
「タンク……? ですか?」
ルナは聞き慣れない言葉――タンク――に疑問符を浮かべる。
「そう。タンクだ」
「ご主人様。タンクって何ですか?」
ルナは首を捻っている。
あれ? タンクって言葉はこの世界だと通じない? 結構一般的な言葉だとは思ったが……、冷静に考えたらタンクってゲーム用語なのか?
「タンクと言うのは、盾だな」
「盾……? ですか?」
「そう。盾だ。俺が魔法を唱える時に敵に襲われたらまずいだろ?」
「まぁ、ご主人様の装備は軽装なので、大怪我しちゃうかもですね」
「だから、シャーロットには俺を守る盾になってもらうつもりだ」
「えっ? ご主人様は……女の子を盾にするのですか?」
ルナは俺に蔑視の籠もった視線を向ける。
「ご主人様……リク様が望まれるのであれば、私は構いませんわ」
今まで黙って後ろに付いてきていたシャーロットが初めて言葉を発する。
「ほらな? 本人もいいって言ってるし、問題ないだろ?」
「いやいや、そうですけど……でも、男性が女性を盾にするのは……」
「ルナ。男女差別は良くないぞ? それに、女性でも騎士とかいるだろ?」
「そ、それは……女性の騎士はいますけど……、でも、でも、シャーロットは元貴族ですよ? 騎士とは正反対の守る方じゃ無くて、守られる方ですよ」
「出自は関係ありませんわ。今は、ただの奴隷。リク様の奴隷ですわ」
ルナが変わらず俺を非難する一方で、シャーロットは俺を擁護する。
「まぁ、話の方向性がかなりズレたが、シャーロットを購入した当初の理由は保険の仕事を手伝ってもらう為だ。タンク――俺の盾にする為に購入した訳では無い」
「そうですけど……」
「ここで言い争っていても仕方が無い。本来の趣旨とは異なるが、明日三人でモンスター討伐に行くぞ。そこで、シャーロットにタンクの適正が無かったら、当初の予定通り保険の仕事――主に、事務作業のみをやらせることにする」
まぁ、仮にそうなった場合――タンクの適正が無かった場合、保険の事務作業のみとなるので、三十万Gというのはちょっと高い買い物になってしまう。
出来れば、シャーロットにタンクの適正がありますように! と願いつつ帰路へと就いた。
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