シャーロットの適正①

 ルナ、シャーロットと共に帰宅した俺はシャーロットの能力を確認することにした。


「シャーロット。まずは、この書類に目を通して貰っても良いか?」

 俺は無造作に箱に入ったままの書類の山を指差し、シャーロットに伝える。


「畏まりましたわ。リク様、差し出がましいようですが……書類に目を通す前に書類の整理をしてもよろしいでしょうか?」

 シャーロットはスカートの端をちょこんと摘まんで深々とお辞儀をすると、上目遣いで俺に確認を取る。


 そういえば、まだ引っ越しの荷ほどきすら出来ていない。書類に関して言えば、ギルドの連中が持ってきた状態――無造作に箱に積み重ねっている状態だ。確かに、このまま書類の内容を精査するのは、非効率的だ。


 俺は、無造作に放置されている書類の山を見ながらそう考えいると、


「リク様……申し訳ございません。奴隷という卑しい身分でありながら、差し出がましい言葉を……お許し下さいませ」

 無言で書類の山を見つめている俺の態度を勘違いしたシャーロットが慌てて謝罪をしてくる。


「あ!? すまん。そういうつもりでは無かった。そうだな、まずは書類の整理をお願いしてもいいか?」

「畏まりましたわ。早急に取りかからせて頂きますわ」

 俺が慌てて言い繕うと、シャーロットは笑顔を浮かべて書類の山を箱から取り出して、近くに設置してあった本棚の中へと整理していく。


「ふぉぉおおお!? 凄いですねぇ」

「だな。どこぞの脳筋エルフとはえらい違いだな」

 俺とルナが関心している間も、シャーロットはよどみない動作でテキパキと書類を整理してゆく。手伝おうかと悩みつつも、邪魔になるかと思い、シャーロットの整理作業を眺め続けること一時間。


「ふぅ。一旦はこんな感じで良しとしますわ」

 シャーロットは額に浮かんでいた汗を拭い、一息吐く。


 ほんの一時間の間に、荷物が無造作に置かれていた無機質な部屋が、書斎と呼んでも差し支えのない空間へと変貌したのであった。


「リク様。書類に記載されていた内容までは把握出来ませんでしたが、こちらの棚には事故・事件関連の書類が纏めてありますわ」

 シャーロットは棚に並べられた書類を一つずつ説明してくれる。ちなみに、事故・事件関連は、傷害や盗難に分類されており、傷害も細かく見れば、ケガや状態異常などがキチンと分類されていた。


「こちらの棚には、保険金支払い? と言う項目の出金関連の書類を纏めましたわ。続けて、こちらの棚には――」

 その後もシャーロットの説明は続き、ほんの一時間の間に使いやすい書棚が完成したのであった。


 整理B恐るべし。これでBならAとかSはどんな完璧超人なのだろうか……。


「一旦、分類ごとに整理しましたが、リク様が使ってみて、ご不便があればすぐに変更させて頂きますわ」

「助かる。その時は、またお願いするよ」

 俺はシャーロットに礼を告げると、改めて本来の業務――盗難事件の精査をお願いした。


「畏まりましたわ。盗難事件の頻度と被害金額、被害地域を纏めればよろしいのですね?」「それで結構だ。理解が早くて助かる」

 その後、シャーロットは書斎にて、凄まじい速度で書類の精査を開始した。


 俺も手伝おうと思ったが、やはり邪魔になると考え、近くで待機し、シャーロットから不明点があったら答えるのみに留まった。ちなみに、ルナは手伝おうとしたが、早々に戦力外通告を言い渡され、今は新居の家具の買い出しへと出掛けた。


「シャーロット?」

 暇を持て余した俺は、シャーロットに世間話をもちかけた。


「はい。リク様」

「シャーロットは俺の他にも誰かに奴隷として仕えたことがあったのか?」

「いいえ。ご主人様となったのはリク様が初めてです」

 俺の質問に、シャーロットは書類を精査する手は止めずに答える。


 だよな。こんなにも優秀なら普通は手放さないよな。


「そうか」

「はい。私は元貴族で性交渉が不可の契約にて売られてましたわ。値段も安くはありませんでしたわ。そうなると買い手は中々見つからない……と奴隷商の方が言ってましたわ」

「なるほどな。元貴族って肩書きは、マイナスなのか」

「そうですわね。対立していた貴族が、自己顕示の為に購入する以外は、元貴族の場合は、使えない、金がかかる、というイメージが多いですわ」

「そんなものか」

「そんなものですわ」

「でも、シャーロットは元貴族の割には、書類整理とか慣れてないか?」

「私の場合は、お父様――領主の仕事を手伝っていたので……そのお陰だと思いますわ」

「なるほどな。それを売りにすれば、もっと早く、高値で売れたんじゃないか?」

「奴隷自身の……しかも元貴族の者が自ら言う言葉を信じる人は……、はっ!? もしかして、私、何か粗相を!? そ、それでリク様他の人に私を――」

「いや、違う、違う。想定よりも、優秀だったから、気になっただけだ」

「本当ですか? 信じてもいいのですか?」

「あぁ。俺の期待に応えてくれる限りはな」

「畏まりましたわ。私はリク様の期待に応え続けますわ」

 シャーロットは瞳に強い力を宿して、再び書類精査に集中した。


 ってか、ここまで優秀な人材だと……逆に主人は俺で良いのか? とは思ったが、口には出さないでいたのであった。

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