二人目の奴隷①

「はぁ。ったく、強引過ぎるだろ」

 何だかんだでアドランに渡された地図を元に、俺たちは我が家となるかも知れない物件へと移動していた。


「まぁまぁ。ご主人様。いいじゃないですか。ルナの想像とは少し違いますが、この家も悪くはないのですよ」

 ルナは爛々として目を輝かせて、物件の中を見回している。


「ったく、このへっぽこエルフは、脳天気でいいな」

 俺はそんな脳天気なルナを見て、思わず笑みをこぼしてしまう。


「ご主人様。この家はお店も出来る造りですね。落ち着いたら、何か商売を始めます?」 ルナの言うとおり、アドランから紹介された物件は一階が店舗型の造りになっていた。住居部分は二階になるらしく、二階には風呂以外にも部屋が全部で八部屋と、かなり大きな建物であった。


「どうだろうな? 鑑定屋でも始めるか? もしくは、将来的には店舗型の保険屋でも始めるか?」

 俺は今できる商売と、将来可能になるかもしれない商売を答えた。


 その後、ルナと二人でお互いの部屋を決め、掃除をしていると冒険者ギルド、商業ギルド、それぞれのギルドから職員が膨大な資料を持ってきてくれた。


「うげ。この資料全てに目を通すのかよ……」

「ご主人様。ファイトですよ」

 俺が膨大な資料を目の前に辟易としていると、ルナが脳天気な言葉を発した。


「アホか。ルナ。お前も一緒に精査するんだよ!」

「はわわわっ。ルナはご主人様と違って、そんな作業は無理なのですよ。ルナはメイドなので、お仕事は掃除なのですよ」

 この期に及んで、ルナは望んでいない答えを発する。


 そういえば、ルナの能力って……。

(分析力E 算出E 整理D 読解力D 家事D)


 分析力に算出はEかよ。魔法も使えないし、長所は剣と反射神経のみか。まさしく、脳筋エルフだな。ついでに、メイドを自称しているが、家事能力も人並みじゃねーか。


「はぁ……」

 俺は思わずため息を漏らす。


「ほよ? ご主人様。どうしたのです?」

 脳天気な声を出す脳筋エルフ。


「とりあえず、買い物に行くぞ」

「買い物です? わかったです! 今日の晩ご飯を買いに行くですね」

「違う。新しい従業員――奴隷を買いに行くぞ」

「はいなのです。って、えぇぇぇぇぇ!? 新しい奴隷です? ル、ルナはどうなるのです?」

 条件反射で返事をした後に、俺の言葉を意味を知り驚愕するルナ。


「え? ルナ? いくらで売れるかな?」

 俺は意地悪く笑みを浮かべる。まぁ、S級の剣使いを売る気は毛頭ないが。


「はわわわっ!? ルナ売られるですか!? 酷いのです! あんまりです! 待望のお家ゲットと同時にドナドナされるのですか!?」

 泣き叫ぶルナを尻目に俺は事務能力に優れた人材を求めて奴隷商館へ向かうのであった。


  ◆


 俺は道中で泣き喚くルナを宥めながら、奴隷商館へと到着した。


「ご主人様。酷いのです。言っていい冗談と悪い冗談があるのです……」

 すっかり拗ねたルナを尻目に、俺は奴隷商館に入ると、以前も対応してくれた老紳士が声を掛けてきた。


「おや。リク様。ご来館ありがとうございます。リク様の噂は私の耳にも聞き及んでおります。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 老紳士は相変わらず恭しい対応で接してくる。


「俺の噂ね。どんな噂だ?」

 何となく、世間話を持ちかけてみた。


「保険という新たな制度を冒険者ギルドに導入し、一攫千金を手にしたと。保険が導入されてからは、奴隷落ちする冒険者が激減しております。私どもからすれば、困った話とも言えますね」

 老紳士は特に困った様子も無く答える。


「それは、すまなかったな」

「いえいえ。お気になさらず」

 老紳士と互いに心のこもってない挨拶を交わしたところで、本題に入る。


「新たに奴隷を購入したい。予算は五十万Gだな。それ以下で購入出来る全ての奴隷を確認したい」

「畏まりました。それでは、お部屋までご案内致します」

 老紳士に案内され、前回と同じ部屋で待機していると、前回同様に五人ずつ奴隷が部屋へと入ってきて、合計で二十八人の奴隷を確認した。


「当館の商品は以上となります。リク様のお眼鏡に適った商品はございましたか?」

「そうだな」

「ご主人様。④の獣族の少年は可愛かったです」

 ルナの意見は無視して、俺は三人まで絞り込んだ候補から、どの奴隷を選ぶか思案した。


「とりあえず、②、⑨、⑫の奴隷をもう一度頼む」

 ルナの表情があからさまに凹んでいるが、④の少年の適性は鈍器だった。これ以上脳筋はいらん。


「畏まりました」

 老紳士が恭しく頭を下げると、三人の奴隷が再び部屋の中へと入ってきた。


 今回求める能力は分析、算出、整理。次いで家事だ。三人共、その能力がC以上だ。


 一人は猫耳を生やした少年。三人の中では一番安い。特出すべきは分析はA。


 一人は猫耳を生やした少女。特出すべきは家事がA。分析、算出、整理全てがBなのも高評価だ。ついにで、性格も良い。


 一人は金髪ロールの貴族風の女性。三人の中では一番高額だ。特出すべきは算出がA。更に――。


 金には若干の余裕がある。求めている能力から言えば、猫耳を生やした少女が一番適している。しかし、貴族風の女性のある特性に非常に惹かれ、ある特性に非常に引いていた。

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