日雇労働②

 草系の素材を採取する方針へと決まったアルト達一行は、草木が生い茂る森へと移動をした。


 森は奥に進むほど、人の手が入っておらず、多種多様な素材が手つかずで生息していた。


 俺は希少価値のE以上の素材に的を絞って、素材の判別を片っ端から実行した。


「うぉ……。マンゴラ茸かよ。よく分かるな?」

 マダラ模様のキノコを手にした禿頭の冒険者が、驚きの声をあげる。


「フィフスクローバーがこんなにも……」

 五葉のクローバーを手にした、弓を担いだ冒険者が、驚きの声をあげる。


「マジカルリーフがこんなに沢山……」

 エルサは大量の舟型の葉っぱを抱き締め、惚けている。


「はっはっは。こいつは大量だ! リク! 最高だな! 今夜は飲むぞ!」

 アルトは、ご満悦な表情を浮かべて、笑い声を上げている。


「アルト、余りに大きな声で……って、言った傍からこれかよ!」

 弓を担いだ仲間が舌打ちをして、弓を構える。弓矢が向けられた先には、緑色と黄色の二メートルを超える巨大な四足歩行のトカゲが二匹、カサカサと音を立てて近付いてくる。


「チッ。森トカゲか……厄介な奴だな。あいつらはヌメヌメだから嫌いなんだよな」

「斧でぶった切ろうにも、表面が滑りやがるからな」

 アルトと禿頭の男性が、文句を言いながらも武器を構える。


 荷物の持ちの俺は、木の裏へと早々に避難をする。


「仕掛けます。【ウィンドカッター】」

 エルサの唱えた風の斬撃が黄色トカゲの表面を切り裂く。


「っしゃ! オラッ!」

 禿頭の男性が、切り裂かれたトカゲの傷口に斧を振り下ろす。


 俺は、きっちりと【ウィンドカッター】をラーニング。その後、トカゲの強さを確認する。

(イエローリザード……耐久D……火耐性C……水耐性C……風耐性D……土耐性A……)


 次いで、もう一方のトカゲの強さも確認する。

(グリーンリザード……耐久D……火耐性C……水耐性C……風耐性A……土耐性D……)


 似たような強さだが、属性に対する耐性は真逆なのか。見た目も一見一緒だが、よく見れば瞳の色が異なっていた。


 エルサが黄色い瞳のトカゲ――イエローリザードに風魔法を唱えたのは、偶然なのか、狙ってなのか。俺は戦況を木の裏に隠れながら見守ることにした。


 エルサの風魔法と、禿頭の男性の斧の攻撃に耐えきれなくなったイエローリザードが、先に倒れる。


「エルサ! こいつの表面も切り裂いてくれ!」

「はい! 【ウィンドカッター】」

 アルトの指示を受けたエルサが、風の斬撃を緑色のトカゲを飛ばす。風耐性の強い緑色の瞳のトカゲ――グリーリザードは、先ほどのイエローリザードとは違い、風の斬撃を受けてもビクともしない。


「チッ。こいつは、魔法に強いタイプか! しょうがない。エルサ、表面が裂けるまで風魔法を頼む!」

 アルトは舌打ちをすると、エルサに指示を出す。指示を出された、エルサは一心不乱に風の斬撃を飛ばし続ける。


「はぁはぁ……」

 魔法を連続して唱えたエルサは、疲労が大きいのか肩で息をしている。


「頑張れエルサ! もう少しだ、もう少しで表面が裂けるぞ!」

「は、はい」

 エルサの能力は【神の瞳】で確認済みだ。魔法の適正は(炎適正E 氷適正E 風適正C 土適正C)だ。ならば、土魔法を使えるはずだが……口を出すべきか? 適正Cって高いんだよな? 今思うと、初めて出逢ったあのツンデレ狐娘は適正にAが並んでいた。実は、凄い人物だったのか?


 そういえば、俺は土魔法だけ習得してないな。土魔法をラーニングしたいな……。少し口を出してみるか。


「エルサさん! 土魔法だ! 土魔法を使ってみてくれ!」

「え? 土魔法? トカゲに土魔法と水魔法は効きませんよ」

「いいから、頼む!」

「【アースバレット】」

 エルサの杖が魔力で輝くと、俺の拳と同じサイズくらいある岩が出現し、グリーンリザードへと飛来する。


「ピギャッ!?」

 飛来した岩が脳天に直撃すると、グリーンリザードは痙攣し、次第に動かなくなった。


「え? なんで……?」

 エルサは驚愕の表情を浮かべ、俺を見る。


「え? だって、あいつの弱点土魔法だろ?」

「そうなのですか?」

「多分……?」

 断言するのも、気まずいと感じた俺は首を横にしながら答えた。後から、話を聞けば、以前先ほどのトカゲと戦闘になった時に、土魔法の効果が薄かった為、その印象が強かったらしい。まぁ、【神の瞳】で確認しないと、瞳の色の違い何て気付かないか。


「リク! すげーな! 植物学だけじゃなくて、モンスターの知識も豊富なのか?」

 アルトは、年齢に見合わない子供っぽい満面の表情を浮かべながら、俺の肩をバンバンと叩く。俺は多少の痛みを感じながらも、照れ笑いを浮かべた。


「これで、リクさん自身が魔法を使えたら無敵ですね」

 エルサが俺に笑顔を向ける。


「え? 一応、使えるぞ?」

「え?」「は?」「へ?」「な?」

「「「「はぁぁぁあああ!?」」」」

 アルト達一行は全員が驚愕とした表情を浮かべる。


「使えるのかよ!」

「最初から言えよ!」

「何で、荷物持ちをしているのですか?」

「謎だな」

 全員から壮絶なツッコミが俺へと入る。


「いや、荷物持ちとして参加した以上、与えられた職務を全うするのが筋だろ?」

 本当の理由は、モンスターとの戦闘経験が無いから怖かった。更に言えば、あわよくば魔法をラーニングしたかった、というのが本音であったが、俺はクールに対応する。


 その後は、俺も戦闘への参加を余儀なくされた。良かった点は、荷物を分担して持つとアルトが提案してくれたので、負担が大きく減少したこと。悪かった点は、魔法は使いすぎると体力を大きく消耗してしまうらしく、結局は疲労困憊な状態に陥ったことであった。


「ふう。今日は大漁だな」

「今日一日で一か月分の稼ぎはあるな」

 アルトと弓を担いだ男性はご満悦な表情で、素材の詰まったズタ袋を担いでいる。


「リクさんは、全ての属性の魔法が使えるのですか!?」

 エルサは同じ魔法を扱う者の為か、俺へと急接近してくる。


「いや、光属性と闇属性は使えないな」

「それは当たり前です!」

 女神様から聞いた話では、炎、氷、風、土以外にも、光と闇の属性があるはずだ。その二種類はまだ視たことがないので使えない。


「当たり前なのか?」

「当たり前です! 光か闇の属性魔法が使えたら、こんな場末の冒険者パーティーとは無縁のはずです」

「誰のパーティーが場末だよ!」

 エルサの言葉にアルトがツッコむが、エルサはアルトのツッコミを華麗にスルーする。


「そもそも、通常であれば魔法と言うのは、一属性しか扱えません。一応、風と土の二種類を扱える私は、『ダブル』と呼ばれる上級な魔法使いなんですよ」


「上級な魔法使いって、『ダブル』程度なら掃いて捨てるほどいるだろ? 自慢するなら『トリプル』、もしくは、リクみたいな『クァッド』になってから言えよ」


「アルトさんは黙っていて下さい!」

 エルサの言葉にアルトが軽口で茶々を入れると、エルサは憤激する。

 ちなみに、一属性しか魔法を使えない者を『シングル』、二属性を扱える者を『ダブル』、三属性を扱える者を『トリプル』、四属性を扱える者を『クァッド』と呼ぶらしい。そうなると、俺は『クァッド』だ。あのツンデレ狐娘も『クァッド』だな。


 あのツンデレ狐娘が特別な存在ならば、俺も特別な存在なのか?


 高まる俺の素質への期待に、胸を躍らせながら首都へと帰還するのであった。


 首都へ帰還した俺は、アルトから当初の約束よりも、かなり多めの報酬金を渡された。貰った報酬金で、冒険者になる為の手数料を支払った俺は、晴れて冒険者となった。その日は、アルトに紹介された安宿で一泊。こうして、俺の波乱に満ちた異世界生活の一日目を終えたのであった。

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