落ちこぼれのエルフ①

 翌日以降、俺は素材の採集、冒険者ギルドから依頼される鑑定の手伝い、ラーニング目的も兼ねた冒険者への同行を繰り返すことにより、日銭を稼いで過ごしていた。


 異世界での生活は安定してきたが、生活基盤を盤石にする為には、もっと大金が必要だな。


 俺は現状の生活での問題点の洗い出しを行うことにした。


 一番の金策手段は採集した素材の売却だが、一人では多くの素材を持ち帰れないし、高価な素材は大抵モンスターが多く生息する地に存在する。冒険者に同行を依頼すると、冒険者と素材を均等に分配することになり、結局実入りが悪くなる。


 そろそろ、個人の限界か?


 解決策としては、仲間もしくは従業員を雇い、分配もしくは支払う給与以上の成果を上げる。つまりは、生産性を高めることだ。


 仲間を集めるならば、アルト達のような固定パーティーを組む方が効率性は高い。ただし、均等に分配しなくてはいけないのがデメリットだ。


 従業員を雇うならば、冒険者から募集してもいいが……この世界ならば奴隷を買うのもありだ。奴隷であれば、初期費用は高いが、ランニングコストは日々の食事代+諸雑費のみとなる。問題は、初期費用がいくらかかるかだな。


 善は急げ。思い立ったら即行動。と言う訳で、俺は奴隷商館へと足を運ぶことにした。


  ◆


 アドリア帝国では、奴隷制度は否定されていない。奴隷にされる理由は様々で、罪を犯した、借金を返せなくなった、親に売られた、生活に苦しみ自らを売った等、様々あるらしい。


 元日本人の俺としては奴隷というシステムに若干の忌避感はあるが、郷に入ればなんとやら、まずは自分の目で見て判断をすることにした。


 おぉ……。意外に綺麗な建物だな。


 勝手なイメージではあるが、奴隷商館と言うのは、小汚いイメージがあったので、冒険者仲間から教えてもらった目の前の奴隷商館――白く清潔感のある高貴な屋敷には、少し面食らった。


 勇気を出して、奴隷商館の中へと足を踏み入れると、執事のような恰好をした白髪の老紳士から声をかけられた。


「いらっしゃいませ。当館のご利用は初めてでしょうか?」

 俺は、老紳士からの問いかけに黙って首を縦に振った。


「畏まりました。本日はご来館ありがとうございます。宜しければ、ご予算と、使用目的を教えて頂けましたら、こちらでおススメの商品をご用意いたします」

 老紳士は恭しく頭を垂れる。


「予算は二十万G。使用目的は、素材採集及び冒険への同行。また、雑事を任せたい」

 奴隷の相場は十万からと聞いている。今の俺の全財産は二十六万Gだ。ちなみに、一日に稼げる金額が平均して二万G。日々の宿屋の宿泊料金及び食事代は五千G。二十万Gはかなり奮発した金額となる。


「畏まりました。ご要望に沿った商品をお連れします。少々お待ち――」

「すまん。一ついいか?」

「はい。何なりと」

「予算未満の全ての商品を見たいのだが、可能か?」

 捨て値同然の奴隷に当たりが無いとは言い切れない。【神の瞳】で詳細を確認出来る俺としては、多くの奴隷を見ておきたい。


「全てでしょうか? かなりの数となりますが、よろしいでしょうか?」

「構わない。よろしく頼む」

「畏まりました」

 老紳士は俺を立派な応接間に案内すると、「ただ今商品をご用意します」と席を外した。


「お待たせしました。該当する商品は三十七名となります。五人ずつのご確認でもよろしいでしょうか?」

 五分ほど待つと、老紳士が再び姿を現した。


「構わない」

 俺は、高級そうなソファに腰を掛けながら首を縦に振る。


「まずは、こちらの五名です。価格や、商品の詳細はこちらのファイルに記載してありますので、併せてご確認お願い致します」

 俺は老紳士に手渡されたファイルを見ながら、部屋に通された五人の奴隷を確認する。ファイルには、奴隷の名前、値段、長所、短所、そして従属条件が記載されていた。従属条件には、戦闘不可、性行為不可などの特記事項が記載されている。


「なるほど。次の五名を頼む」

「畏まりました」

 俺が促すと、次の五名の奴隷が部屋へと案内されてくる。

 俺は次々と、案内されてくる奴隷を確認。案内される奴隷の傾向としては、男性よりも女性の方が多い。男性は元犯罪者か、年を取った奴隷が多い。人族の奴隷の数は圧倒的に少なく、エルフやドワーフと言った亜人種、猫人種や犬人種のような獣族よりも値段は高かった。これは、人族が優遇されている帝国の方針が原因なのだろうか。


 俺は次々と案内される奴隷を【神の瞳】で確認していった。


 ふむ。野郎は却下だな。全員性格が悪すぎる。

 男性は元犯罪者が多いだけあって、性格破綻者が多すぎた。

次に人族も却下だな。俺自身は人族であるが、特に亜人種や獣族に忌避感はない。価格以上のメリットは見出せない。ってか、消去法じゃなくいいか。購入する奴隷は俺の中ではすでに決まっていた。


「⑦の女性をもう一度、お願いしていいか?」

「⑦でしょうか?」

 俺が奴隷の番号を指定すると、老紳士は少し驚いた表情をする。


「あぁ、⑦だ。何か問題でも?」

「⑦ですと、見栄えは悪くありませんが……お客様の利用目的の趣旨から大きく外れます」


 ⑦の奴隷は、美少女と言っても差支えの無いエルフの女性であった。この世界のエルフと言えば、弓と魔法が得意というのが常識らしいが、⑦のエルフは短所の項目に弓と魔法が記載されていた。ちなみに、従属条件に性行為不可の文字も記載されている。


「構わない」

「畏まりました。今一度⑦の商品をお連れ致します」

 老紳士は一礼すると、一度部屋から退出。暫くすると、エルフの美少女と共に部屋に戻ってきた。

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