日雇労働①
アドリア帝国の首都マゼランを訪れてから三時間後。
どうしてこうなった?
俺は今、マゼランの郊外で、とある冒険者グループの荷物持ちをしていた。
なぜ、このような事態に陥ったかと言えば……。端的に説明すれば――冒険者ギルドを訪れる。冒険者登録を試みる。登録には手数料が必要。俺は無一文。以下ループ。という地獄のような状況に陥りそうなところを、心優しい冒険者が「俺達の荷物持ちをしてくれたら、登録料を払ってやるよ」と、言ってくれたからだ。
剣と魔法のファンタジー世界アルメイトと言えど、ゲームのように重量関係なくアイテムが持てる訳がなく、ファンタジー小説にありがちなマジックバック的なアイテムも存在しなかった。
「おい! 荷物持ち! この素材もカバンに入れといてくれや」
禿頭のおっさん冒険者が、拳サイズの石ころを手渡してきた。
うげっ。また鉱石系の素材かよ。
俺は、受け取った素材を背に担いだずた袋へと放り込む。
ちなみに、石ころを【神の瞳】を通して、視ると――
(鉄鉱石……希少度F……純度E……硬度D……)
と、石ころの正体が数値として、俺の頭に流れ込んでくる。
鉱石系以外にも、植物系の素材、モンスターの死体から取れる部位素材と様々な素材が存在し、入手する度に、先ほどの様に俺へと手渡してくる。
このままでは、俺の許容範囲(重量制限)がオーバーしてしまう。今でも、肩に食い込むずた袋の紐が痛くてしょうがない。
入手する素材を全て植物系、もしくは動物の毛皮系にしてくれないだろうか?
鉱物系は本当に辛い。
――!?
何となく、【神の瞳】で周囲を見回した時に、有意義な情報が頭に流れ込んできた。
(月見草……希少度D……状態回復C……)
希少度D? つまりは、この俺を苦しめる鉄鉱石よりも、希少度が2ランクも高い?
「アルトさん、少しいいか?」
俺は先程の禿頭の冒険者ではなく、この冒険者グループのリーダーを務め、冒険者ギルドで俺に声を掛けてくれた四十代のベテラン冒険者――アルトに声を掛ける。
「どうした?」
「そこに生えている月見草は、希少価値が高い素材だと思うのだが、採取しないのか?」
俺は【神の瞳】で確認した、月見草を指差し尋ねる。
「月見草だと? どれだ?」
「え? これ」
俺は、地面に生えた月見草を採取して、アルトに手渡す。
「おい。エルサ。本当に月見草か確認してくれ」
「はい。わかりました」
アルトは俺の渡した月見草を、このグループで唯一魔法が使える二十代の態度も胸も控えめな女性――エルサに渡す。
エルサは、自分の鞄から様々な植物系素材が掲載された図鑑を取り出して、確認する。
「ア、アルトさん。月見草です。本物の月見草ですよ」
エルサは、少しだけ驚いた表情を浮かべると、アルトに月見草を返却する。
「驚いたな。リク。お前さんは、植物学の知識があったのか」
アルトは感嘆の声をあげて、俺へと視線を向ける。
「え? そんなにも大層な素材だったのか?」
俺は、逆に道端に生えていた雑草を拾った程度の認識だったので、驚いてしまった。
「月見草の判別は出来るのに、価値は知らないのかよ。まぁ、大層って程でも無いが、専門的な知識がないと、判別は厳しいだな」
「なるほど」
アルトは、呆れた表情で答える。言われてみれば、月見草の周辺に生えていた雑草と、月見草を見た目で判別するのは厳しいかも知れない。
「リクは、月見草以外の草系の素材も判別出来るのか?」
アルトは、俺に質問投げかける。
俺は少し思い悩む。【神の瞳】があるので、草系とは言わず、全ての素材を判別することは可能だが……。
「まあな」
俺は、どうとでも取れるように一言で答えた。
「そうか。それなら、せっかくだから今日は草系の素材を集めるか」
「あいよ」「はい」「りょ」
アルトの提案に、他の冒険者が賛成する。
そして、俺は意を決して本命となる、質問を投げかける。
「えっと、今まで集めた、この素材はどうする? せっかく判別しても、容量に限界はあるぞ?」
俺は、背中に担いだずた袋を指して尋ねる。
「あぁ……それな。モンスター系の素材は依頼品もあるから、そのままにしてくれ。鉄鉱石は……嵩張るか捨てるか」
俺は、アルトの答えを聞いて、ほくそ笑む。
「但し、捨てた分以上に高価な素材を拾うことを期待させてもらうからな」
「了解!」
俺は、右手をおでこに当てて、敬礼のようなポーズで歓喜の声をあげるのであった。
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