ツンデレとの出会い①
立ち眩みに似た虚脱感が全身を包み込む。頭を振って意識を覚醒させる。
背伸びをして、大きく息を吸い込むと、コンクリートに囲まれた都会では感じることが出来ない自然の香りが鼻孔をくすぐる。周囲を見回せば、草花が生い茂る草原が目に映る。
「いきなり人が現れたらビックリするだろうから、こんな場所に飛ばしたと思うのだが……ここ何処よ?」
女神の説明によれば、アドリア帝国と呼ばれる国の首都近くに転移されたはずなのだが……。流石に、初見だと首都がどの方角にあるかも分からないぞ?
「ったく、あの女神様は意外に抜けているよな」
誰かいる訳でも無く、一人愚痴を溢す。
えっと、まずは……チュートリアルで習ったことが本当に出来るか試してみるか。
俺は右手に魔力を集中させて、零れる水をイメージする。
――【ウォータークリエイト】
「おぉ!?」
右手から湧き出る水を目にして、俺は歓喜の声を漏らす。
凄いな。本当に魔法が使えるとは……異世界恐るべし。
ウォータークリエイトは、女神さまから習得した、現状の俺が唯一使える魔法だ。
その効果とは……飲んで良し! 洗うのに使っても良し! の生活便利魔法だ。
これで、飲み水に心配する必要は無くなった。
「さてと、どの方角に行こうかね?」
悩んでいても仕方がないので、正面を向いている方角へと足を進め始めた。
変わらぬ草原の景色の中を、あてもなく歩いていると……。
――!?
ドカンッ! と何かが爆発する音が聞こえてきた。
な、な、なにごと!?
混乱する俺は、慌てて周囲を見回すと、三百メートル程離れた場所だろうか? 天へと昇る黒煙が視界にはいった。
トラブルの予感? 避けるべきか……、確認に行くべきか……。
あの爆発音の正体は、恐らく魔法だよな? それなら……チャンスなのか?
とある打算の働いた俺は、爆発音のする方角へと足を進めたのであった。
◆
辿り着いた爆発音の発生地では、四メートルを超える巨大な人型の岩と、銀髪の小学生にしか見えない小さな少女が対峙していた。
戦闘中なのか? あの体格差は、大人と子供ってレベルじゃないぞ。
俺は、近くになった大きな石の影に隠れて、様子を覗う。
「消えなさい! この木偶人形! 【バーストフレア】!」
銀髪の少女が杖を振るうと、大気を焼き尽くす炎の波が巨大な人型の岩を呑み込んだ。
「おぉぅ……すげーって、しまった!? 何をやっているんだ、俺は……」
思わず感嘆の声を漏らした俺は、重大なミスに気付いてしまう。
うわ、勿体ね。あの子、もう一回、同じ魔使わないかな。
俺が、自分の失敗に悔いている間に、炎の波は収まり……変わらぬ姿の人型の岩が立っていた。
「ヴゴォォォォオオオ!」
「チッ!? しぶとい! ならば、もう一度!燃え尽きなさい!
【バーストフレア】!」
――!
キタキタキタ!
俺は【神の瞳】が宿る左目に意識を集中させる。
妖しく光る【神の瞳】が、大気を焼き尽くす炎の理を看破。俺の脳に、バーストフレアの理が刻まれる。
女神から授けられた異能――【神の瞳】の能力の一つラーニング。
【神の瞳】を発動してしまえば、どの様な魔法であっても、一度診てしまえば、習得出来るという、トンデモナイ効果だ。
次は、人型の岩に【神の瞳】の視線を送る。
(ゴーレム……変異種……生命力B……耐久B……腕力C……魔力G……精神G……敏捷G……炎耐性A……氷耐性F……風耐性B……土耐性B……頭耐性A……左腕耐性A……コア耐性G……獰猛A……善人X……)
頭の中に人型の岩――ゴーレムの無数の情報が光の奔流となって、流れ込んでくる。
――ッ!?
情報量多すぎだろ……。
次いで、銀髪の少女に【神の瞳】の視線を送る。
(カエデ……銀狐種……生命力D……耐久E……腕力F……魔力A……精神B……敏捷G……バストA……身長一四二……体重二八……炎適正A……氷適正C……風適正B……土適正A……優しさD……頭耐久F……腕耐久E……ツンデレS……善人B……)
銀髪の少女――カエデの無数の光の奔流となって、流れ込んでくる。
女神から授けられた異能――【神の瞳】の能力の一つアナライズ。
【神の瞳】を発動してしまえば、どの様な種族であっても、一度、診てしまえば、全ての項目を数値化していまう効果がある。その項目の数は百を超えるほど、多岐に亘っている。
ゴーレムが警備兵的な立場で、少女――カエデが悪党という可能性もあったが、アナライズをした限り、カエデは善人B……つまり、善い人の部類だ。ちなみに、Xは判定不能を指している。
見捨てるのも、寝覚めが悪い。とは言え、助けられるだけの力量が、俺にあるのかは不明だ。
あんな岩の塊に挑むのは怖い……。とは言え、小学生くらいの少女を見捨てるのも、精神的に無理だ。俺は、この局面を見てしまった時に、すでに詰んでいたのだろうか。
悩んだ末に、俺の出した結論は……。
「奴の弱点は氷属性の魔法だ! 氷属性の魔法で攻撃しろ!」
十メートルほど離れた位置。石の裏からのアドバイスであった。アナライズで見た限り、カエデの氷適正はC。恐らく、氷魔法も使えるはず。
「だ、誰!?」
突然、発せられた俺の声に、カエデは驚き、俺へと振り返る。
「自己紹介は後でする! 今は奴に氷属性の魔法を放て!」
今は自己紹介をする時間などない。俺は、大声で指示を飛ばす。ゴーレムは、ゆっくりとした足取ではあるが、カエデへ接近している。
「ちょっと、初対面なのに、いきなり命令しないでよね! バカね、ゴーレムに氷属性の――」
「いいから、早く使え!」
「命令しないでよね! 無駄打ちになったら、あんた盾になりなさいよ! 【アイシクルランス】」
カエデは文句を垂れながらも、杖から氷で出来た槍を出現させ、ゴーレムへと放つ。
俺は、【神の瞳】で、【アイシクルランス】をラーニングする。
氷の槍を頭に受けたゴーレムは、足を止めて、その場で震え始める。
「え? ウソ? 本当に……効いたの?」
「違う! 頭じゃない! コアだ! コアを狙え!」
思わぬ結果に、呆然とするカエデ。俺は、そんなカエデに更なる助言を伝える。
「コア? なに言っているの? ちょっと、博識だからって調子に乗らないでよね!」
カエデは、せっかくの助言を与えた俺に、罵倒で答える。この子のツンデレはSだったか? デレ期が訪れずれるのはいつよ?
「こっちに文句を言う暇があるなら、攻撃しろ! 余所見するな!」
売り言葉に買い言葉。カエデの罵声に対して、俺も語彙を強めて答える。
「煩いわね! わかっているわよ! 【アイスアロー】」
カエデは文句を言いながらも、杖の先端から十を超える氷の弓矢が出現させ、ゴーレムへと一斉に飛来させる。
俺は、【神の瞳】で、【アイスアロー】をラーニングする。
十を超える氷の弓矢に射抜かれたゴーレムであるが、倒れることはなく、逆に野太い腕をカエデへと振り下ろす。
「ちょ、ちょっと!? 【マジックシールド】」
ドスン! と、地を震わす衝撃音と、舞い上がった砂煙が少女の周辺に吹き荒れる。
「あ!? ……大丈夫なのか? いや、あれは無理か……」
俺は、衝撃映像から目を逸らすべく、思わず目を瞑る。常識的に、あれで生き残るのは無理だろ。拳のサイズだけでも、銀髪の少女と同じ大きさだ。
恐る恐る、ゆっくりと目を開くと……。
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