女神からの贈り物
目覚めると、そこは知らない空間だった。全てが虚ろな空間だ。
ここは天国? 天国って本当にあったのか。
不思議と落ち着いた気持ちで現実――自分の死を受け止めた。
『惜しいですが、違います』
優しい女性の声が、心に直接響いた。
――え?
惜しい? 何が? 天国という正解が惜しいのか?
「えっと……ここはどこだ?」
混乱した俺は、声に出して答えを尋ねた。
『ここは転生の間です』
転生の間?
『はい。転生の間です。本来であれば、人生を終えた貴方は輪廻の間へと通される予定でしたが、私が無理を言ってこの部屋へお連れしました』
輪廻の間? また、知らない言葉が出てきた。
「出来れば、もう少し詳しい説明をしてくれないか?」
『紫苑 陸』
「は、はい」
突然、名前を呼ばれて俺は思わず返事をする。
『貴方にお願いがあります』
お願い? ほぼリストラ予備軍の俺に何を願う?
『私の名前はアナタスシア。貴方の生まれ育った世界とは別空間の異世界アルメイトの女神です』
声の主――女神アナタスシアは突然自己紹介を始める。
『私の世界は貴方の世界と違い、儚く……厳しい世界です』
「は、はあ」
『私は自分の世界を、貴方の世界のように良くしようと様々な試みをしました』
そんなにも、俺の世界、地球? 日本? は良い世界だっただろうか?
『ある時は、貴方の世界の政治家を招きました。ある時は、教師を、また、ある時は警察を……。様々な人を招きました。しかし、世界は変わりませんでした』
女神の何を言いたいのか、よく分からない。
『紫苑 陸。そこで貴方にお願いがあります。私の世界へ来ませんか?』
「へ? 俺が?」
思わず間の抜けた声が口から洩れる。女神の話からすれば、過去に呼んだ人物は政治家に先生に警察だよな? ポイントは職業か? 俺の職業は……自宅謹慎中の身だが、保険の営業マンだよな? つまり、女神の世界へ行って、保険の営業をすればいいのか?
『違います』
違うのか。そりゃ、そうだ。保険の営業が目的なら、俺よりも成績が良い営業マンは大勢いる。
『紫苑 陸。貴方は、私の世界を見て回り、貴方自身が必要と思える事をして下さい』
「は、はあ」
『紫苑 陸。私が伝えたいことは、伝えました。ここからは、貴方が選択して下さい』
選択?
『はい。貴方にはこのまま輪廻の間へ赴いて、次の人生を歩む選択と、私の世界へ転生する選択があります』
輪廻というのはよく分からないが、つまり普通の人と同じく自分の死を受け入れて、来世へ繋ぐか、この女神の世界へ行くという選択肢が俺に用意されているようだ。
異世界転生ね……。俺は頭を悩ませる。
『紫苑 陸。貴方が、もし、私の世界への転生を望むのであれば、私は貴方に異能を授けましょう』
クロージングなのか!? 女神はここに来て特典を付けてきた。
「異能? それは何だ?」
俗に言うチートスキルと言うやつだろうか。ほんの少し、心がワクワクする。
『異能は貴方の望む力です』
「俺の望む力?」
『はい。紫苑 陸。貴方の望む力――【神の瞳】を授けます』
「【神の瞳】?」
またも知らない単語が出てきた。
『【神の瞳】は全ての者の本質を見抜き、全ての物質の性能を見抜き、世界の理を見抜きます』
全ての者の本質と、全ての物質の性能を見抜く力か。確かに、今の俺が最も望む力だな。最後の世界の理? の本質と言うのは少し謎だが。
転生の特典――【神の瞳】は確かに惹かれる要素だ。俺は、頭の中で思考をまとめる。
『しかも! 今なら、私の世界で生きる術を指南……ちゅーとりある? も付けますよ』
女神は更なる特典を付与し、クロージングの攻勢に出る。チュートリアルの発音が少したどたどしい。誰かから習った言葉なのだろうか? ってか、女神必死だな。
「チュートリアルね。まぁ、いっか。女神様。俺は貴方の世界への転生を選択するよ」
俺はこれからお世話になる世界の神に頭を垂れた。
『紫苑 陸。貴方の選択に感謝します。それでは、これよりちゅーとりある? を開始します』
こうして、俺は女神から異世界――アルメイトで生き抜く術――チュートリアルを受講したのであった。
◆
チュートリアル開始から体感だが、六時間ほど経過しただろうか。
『紫苑 陸。準備は万全でしょうか?』
「あぁ。問題ない。準備は万全だ」
俺は座学と実技が伴ったチュートリアルの内容を頭の中で趨向する。
『それでは、紫苑 陸。貴方の歩む道筋が光に照らされることを願います。……いってらっしゃい』
「行ってきます」
目の前が強い光でホワイトアウトする。
こうして、俺は二度目となる人生の舞台――異世界アルメイトへ転生した。
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