第115話 ゴブリンテイマー、選択する

「これがあればゴブト君の治療も可能なんだろう?」


 エルダネスはそう言って視線で僕の意識をタバレ大佐たちから倒れたままのゴブトへ誘導する。

 確かにテイマーバッグにゴブトを戻せば自動的に治療は始まる。


 ゴブトの負傷具合からするとすぐに治癒されるわけでは無いし、多分僕の魔力も沢山必要になるだろう。

 だけど回復薬で僅かばかりに回復した魔力ではどこまで回復出来るか怪しい。


 そしてその状態ではいくら必要召喚魔力がごく僅かなゴブリンですら呼び出せなくなってしまうだろう。


 ゴブトの怪我はかなりのものだ。

 だけどゴブトとテイマーとしてつながっている僕には彼がすぐに治療しなくては死んでしまう訳では無いことはわかっていた。


 まずは他のゴブリンたちを召喚してこの場を制圧してからでも遅くはないのでは無いか。


 そんな考えが浮かんだ僕の耳に少しだけ語気を強めたエルダネスの声が届く。


「あの二人が揃っているんだ。何も心配は要らないよ。特にタバレは物理攻撃しか出来ない相手には絶対に負けないからね」


 僕が【荒鷲の翼】の五人と戦い続けている二人を気にしていることに気がついたのだろう。

 エルダネスはその思考を読むようにそう言うと、僕の拳ごとテイマーバッグを胸に押しつける。


「それに今の君の力で呼び出せるゴブリンでは彼らの足手まといにしかならない。彼らを信じてやってくれ」


 僕を見つめる彼の目はいつものような飄々としたものではなく。

 タバレ大佐たちに対する絶対的な信頼が浮かんでいた。


「わかりました」


 僕はエルダネスにそう応え頷くとテイマーバッグに残りの魔力を注ぎ、少し離れた場所に倒れたままのゴブトを戻した。

 同時に貧血の時のような猛烈なめまいが僕を襲う。


「ぐっ」

「大丈夫かい?」


 咄嗟にエルダネスが支えてくれたおかげで僕は床に倒れることは無かった。

 だけど継続的に僕の体から魔力がテイマーバッグへ流れて行くのは止められず。

 僅かばかり魔力が自然回復する度に全て吸い取られ、常に魔力枯渇しているような状態になってしまう。


「あんまり……大丈夫じゃないです……」


 今にも気絶してしまいそうな意識を必死に引き留めながら僕は答える。

 その間にも僕の体からは常に魔力が吸い出されていく。


 これを止めるにはテイマーバッグを手放せばいい。

 だけどそれは今の僕の選択肢にはなかった。


「せめてニックス君が目覚めてくれたら彼の回復魔法で幾分か紛らわせることも出来るんだけどね」


 その言葉に僕はシャリスを追う前にニックスが居たはずの場所を見た。

 しかし彼の姿はそこには無く。

 慌てて瞳を動かした僕の目に入ってきたのは、壁に背を付けて座り込んだままピクリ共動かないニックスの姿だった。


「まさか……死んで……」

「大丈夫、さっきここに来る前に確認したけど気を失っているだけみたいだよ。でも未だに目を覚ます様子が無い所を見ると結構きつくやられたらしいね」


 どうやらニックスは【荒鷲の翼】が反撃に出たときに力の限り蹴り飛ばされたらしい。

 ちょうど武器を奪った後だったおかげで命を失うことは無かったことだけは幸いだ。


「それは……良かった」


 僕はゆっくりと目を閉じ精神を統一する。

 心の奥。

 そこに魔力の源があると意識して集中することによって魔力の回復量が増える。

 ルーリさんの集中講座で教えて貰ったそれを今こそ試すときだ。


「僕はこれから魔力回復に集中しますので、後は頼みます」

「ああ、任せておいてくれたまえ」


 エルダネスのいつになく強い声に僕は頷いて返すとゆっくりと目を閉じた。



 ★★★ あとがき&次回予告 ★★★



 次回はタバレ&ネガンvs【荒鷲の翼】の戦いが決着回予定です。

 更新は今週中を予定してます。


 あと現在開催中のカクヨムコンテストに以下の作品で参加しておりますので、こちらの方も応援よろしくお願いいたします。


 貴族家を放逐されたので冒険者として仲間を育てることにしました~過労死で転生した平凡な男は地獄の辺境へ追放され最高の師匠たちに鍛えられ万能になる~

 https://kakuyomu.jp/works/16816700429154573066



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