第113話 真打ち登場
ネガン・スソード。
王都へ向かう途中に出会い、今頃はタスカ領にいるはずの彼がそこにいた。
「ネガンさん……どうしてここに?」
お腹を押さえながらネガンへ問いかける。
彼らは僕から情報を聞き出した後、部隊を率いてタスカ領の領都エモスへ向かったはずだ。
そしてそこでダスカス王国軍侵略に関しての調査を行うと聞いていた。
なのになぜ、その部隊の副官であるネガンが王都に戻ってきたのか。
僕が混乱した頭で考えていると――
「ふむ。どうやら王は無事のようだな」
ネガンの背後から、今度はもう一人の男の声が聞こえ、姿を現す。
「タバレ! お前まで来たのか」
その姿を見て真っ先に声を上げたのは、彼の友人であるエルダネスだ。
「当たり前だろう。ネガン一人に任せて、上司である私が引っ込んでいるわけにも行かん」
タバレ大佐は相変わらず歪んでいる付けひげを気にするように手で弄びながらネガンの横に並んだ。
手にした剣にうっすらと血が付いている所を見ると、ここに来るまで何人かの妨害に遭ったのだろう。
「さて【荒鷲の翼】の諸君。おとなしく降参する気は無いかね?」
タバレ大佐は突然現れた二人に警戒しながら様子を見ていた【荒鷲の翼】の五人を見回しながら降伏勧告をする。
それに真っ先に反応したのはやはりビリーだ。
「降参だと? 俺たちSクラスパーティがどうして軍人と貴族のボンボン相手に降参しなきゃなんねぇんだ」
ビリーは剣先をゆっくり持ち上げネガンに切っ先を向ける。
「たしかにネガンの腕は俺も聞いたことがある。だがさっきの奇襲で俺に傷一つ付けられなかった以上、俺より強いとは思えねぇ。それにだ――」
今度はその切っ先をタバレ大佐へ横移動させ続けて嘲笑の色を帯びた声を出す。
「タバレ大佐と言やぁ貴族のボンボン。その中でも落ちこぼれで、閑職のろくな兵士がいねぇ隊の隊長を押しつけられたやつだろ?」
安い挑発に、当のタバレ大佐ではなくネガンの表情が歪む。
剣を握る手に力が入る。
「しかし部下一人だけしか護衛も付けずにこんな所に来るなんて、落ちこぼれって噂は本当だったんだな」
「貴様っ」
ネガンが我慢できずに動き出そうとした。
だが、その肩を一瞬早くタバレの手が押さえる。
振り返るネガンにタバレ大佐は歪んだ口ひげのまま笑顔で応える。
そしてネガンの前に自ら進み出ると――
「それではその噂が本当かどうか試してみるか?」
と、ビリーに向けて剣を構えた。
そんな彼の動きに、少し冷静さを失っていたネガンが我を取り戻し、ビリー以外の四人へ向き直る。
「雑魚はお任せください大佐」
「美味しいところだけ貰うようですまないな」
「いいえ、これが私の仕事ですから」
二人の声は多分わざとその場に要る全員に聞かせるように言ったのだろう。
雑魚と呼ばれた【荒鷲の翼】の四人の顔が怒りに歪む。
「馬鹿にしやがって!」
「【荒鷲の翼】はビリーだけじゃ無いんだよ!」
前衛の二人――斧戦士と短剣を持った軽装の女スカウトがまずは動いた。
動きが遅い斧の攻撃を短剣使いがフォローしてネガンの動きを止めるという意図が見える。
しかしスカウトに比べて斧戦士の足は、その武装の重量のせいで遅い。
そう僕が思ったとき、その背後から回復兼付与魔法使いが援護のために魔法を放つ。
「
付与魔法が斧戦士の体を包み込むと、それまでスカウトの動きに完全に遅れていた斧戦士の速度が目に見えるほど上がる。
「ほう。腐ってもSランクということか」
身構えるネガンはその一連の連動したコンビネーションに感心したような声を出す。
しかしその顔からは余裕は消えていない。
「死にな!」
ネガンの間合いに入る直前、スカウトは突然姿勢を一気に下げててまるで前方に向けて跳ぶように一気に速度を上げる。
ギンッ。
真正面から飛び込んでくる短剣をネガンは自らの剣で斜め下方に弾く。
しかし前進の勢いはとまらないスカウトの女は、そのままネガンの真横を通り抜ける形となり、無防備に横腹を見せる。
一対一の戦いであればそのままネガンが剣を上げれば相手の腹に致命傷を与えることが出来たろう。
だが。
「死ねオラァッ!!!」
スカウトの攻撃に筋力増強した斧戦士が、遅れること無く追随する。
補助魔法によって強化された力で振り下ろされる斧に対し、ネガンの剣先はまだ斜め下方から戻ってはいない。
いや、たとえ剣を引き戻し防御に回そうとしても、豪腕から振り下ろされる重量級の斧を受けきれるとは思えない。
「んっ」
「がふぁっ」
しかし次に聞こえたのはネガンの悲鳴では無かった。
ネガンは斜めに振り下ろした剣ほ引き戻さず、その剣の勢いに体を任せて体を捻るように元の場所から斧の軌道を避けるように飛び退くと、まるで回し蹴りのように斧戦士の腹を蹴ったのである。
いつもであれば重装備で腹も固めていただろうが、今の彼らは【炎雷団】によって一度武装解除させられた後だ。
武器は簡単に持てるが防具はそうはいかない。
なので彼らは今、防具の類いは簡単に身にまとえるような者しか付けていなかった。
ネガンはそこを狙ったのだ。
そして斧戦士の腹を蹴った力を利用し、くるりと足から床に降り立つと何が起こったのか理解できないような表情を浮かべる彼ら彼女らに向けて
「なかなか良い連携でしたよ」
と、挑発にも聞こえる言葉を投げかけたのだった。
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