第110話 翼と炎雷と

「どうしてっ!」

「洗脳が解けてないのか!」


 そんな声を背後に聞きながら、僕は迫り来る【荒鷲の翼】の前衛二人と【炎雷団】の攻撃をどう躱そうか頭を回転させる。

 といっても魔力切れに近い状態では更なる身体強化も使えない上に、Sランクと元Aランク冒険者の複数の攻撃なんて防げるわけが無い。


「いや、もしかすると彼らは最初から洗脳されていた訳じゃ無く、自分の意思で今回の反乱に加担して――」


 エルダネスさんが僕の横に並ぶように一歩下がりながら、今目の前で起こっていることにそう結論づけた。

 全員が全員ティレルに洗脳されて協力しているのだと思い込んでいた僕の責任だ。


「ゴファル! とりあえず戻れ」


 俺は最初に標的にされそうなゴファルをテイマーバッグに戻す。

 彼女も解呪魔法スペルブレイクを全力で使ったせいで戦力には成らない。


「とにかく時間を稼いでゴブトくんが戻ってきてくれるのを祈るしかないね」

「そうですね……でも」


 といってもビリーとの戦いが簡単に終わるとも思えない。

 それにあと数秒で【荒鷲の翼】の攻撃が届く間合いまで詰められる。

 彼らの目にあるのは明らかな殺意。

 先ほどエルダネスに魔法を操られ、情けない悲鳴を上げたのを逆恨みしているのだろうか。

 それもあって【荒鷲の翼】の後衛も【炎雷団】の後衛も魔法が使えないでいるのは唯一の――


「えっ」


 僕とエルダネスは一瞬言葉を失って信じられないものを見る目を前方に向けた。


 四大属性魔法を操ることが出来るエルダネスのスキルを見た彼らは、あえて攻撃魔法は捨てて物理攻撃で襲ってくる。

 そう考えていた僕たちに向けて先ほどと同じように魔法が飛んできたからだ。


「ファイヤーボール!」

「エナジーボルト!」



 炎と雷の攻撃魔法は、先ほど魔法を操られた【荒鷲の翼】ではなく【炎雷団】の後衛から放たれたものだった。


 放たれた魔法が先行する【荒鷲の翼】のエーボとシーナを追い越そうとした。

 と同時にエーボとシーナから少し遅れて走ってきていた【炎雷団】のリーダーであるギグスが叫んだ。


「そこのお前っ! その魔法を使えっ!!」

「えっ」

「ありがとうございます」


 戸惑う僕を尻目に、エルダネスが飛んできた二つの魔法に向けて自らのユニークスキルを発動させた。

 そして先ほどと同じく方向転回され、今まさに僕たちを間合いに収めようとしたエーボとシーナに直撃した


「ぎゃああああああああっ!」

「ぬわーっ!」


 突然背後から予想外の攻撃を喰らい、その場に倒れ込むエーボとシーナ。

 呆然とする僕の前で、その二人を取り押さえようと飛びかかったのは【炎雷団】のギグスと、地下牢で僕を散々殴ってくれたハーディだった。


「これって」

「わからないのかい? 君の予想通りティレルの洗脳に掛かっていたのが解けたのさ」


 ということはつまりアナザーギルドの一員だと思っていた【炎雷団】はティレルに操られていて、逆にギルドの重鎮と思っていた【荒鷲の翼】は自らの意思で騒乱に加わっていたということだろうか。

 なんだかややこしくなってくる。

 誰が敵で誰が味方なのか。

 ティレルの力はそういう混乱を起させるのに最適な能力であることは間違いない。


「エイル! ぼさっとしてないでお父様の所に行くわよ!」


 パチンとシャリスに頭の後ろを叩かれて、僕は我に返る。

 そうだ、今は呆けている場合じゃ無い。


「ああ、まだ何も終わってない」


 僕とエルダネスはニックスに後を任せシャリスを追った。

 既に王座の近くでは【炎雷団】の残り三人によって意表を突かれた【荒鷲の翼】の三人がそれぞれ取り押さえられていた。

 僕をあれだけ手荒に扱った彼らとハーゲイは、解呪魔法スペルブレイクで洗脳が解かれたせいかスッキリした顔をしているのがなんだか微妙な気分にさせる。


「お父様!」

「おおっ、シャリス!」


 様々なことが一気に起こりすぎて、何が何だかわからないまま捕らえられていくクーデター派を横目に僕はシャリスと抱擁する王の前に進み出ると跪いた。

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