第109話 解呪魔法ースペルブレイクー

「それじゃあ中に入ると同時にゴファルを呼び出して解呪魔法スペルブレイクを使います」

「わかったわ」

「それでは私とニックスは出来る限りの援護をするということで」

「即死じゃ無ければ助けてやるよ」


 僕たちはゴブトとビリーの戦いを見ながら打ち合わせを終えた。

 既にゴブトに誘導されたビリーは扉からかなり離れた所まで移動している。


「もう少ししたら突撃するわよ」


 王の間の中にどれだけの人物がいるかわからないが、最低でも【荒鷲の翼】の四人は敵として中にいるはずだ。

 Sランクパーティである彼らが外の騒動に気がついていないとは思えない。

 だと言うのに外に様子を見に来ないのはビリーをよほど信頼しているのか、それとも中で侵入者を待ち構えているのか。

 どちらにしろ相手は僕たちが中に入ってくることはわかっているはず。


「シャリス姫、あなたは一番最後に安全を確認してから入ってきて下さいね」

「わかってるわよ」


 しかしこちらの前衛であるゴブトはビリーの相手で手一杯。

 お姫様であるシャリスは護身術程度は扱えるだろうが、何も武器を持たないドレス姿では前衛は務められるわけが無い。

 かといってニックスは回復専門。

 エルダネスの力は未知数だが、下での行動を見る限り武術の経験は無さそうだ。


「もう一人くらい前線で戦えるゴブリンを呼び出せれば良いんですが」

「宝物庫になら魔力を全回復するマックスポーションがあるらしいけど、今からじゃ間に合わないわね」

解呪魔法スペルブレイクが効いてくれることを祈るしか無いです。それじゃあ行きますよ!」


 僕はそう告げると扉に向けて一直線に駆け出した。

 上手い具合にゴブトがビリーの体の向きを誘導し、ビリーの背はこちらを向いている。

 気配で気付かれるかも知れないが、二人の戦いを見る限りゴブトに背を向けてこちらに戻ってくる余裕があるとは思えない。


「いくぞっ! ゴファル、来てくれっ!」


 俺は扉を勢いよく開きながら叫んだ。

 同時に腰のテイマーバッグからゴブリンシーカーであるゴファルが飛び出す。


「ファイヤボール!」

「アイスストリーム!」


 それに会わせるように前方から二つの攻撃魔法が僕に向けて――いや、僕とゴファルに向けて放たれた。

 やはり待ち構えていたようだ。


 猛烈な勢いで飛んでくるそれは、かなりの威力で放たれたらしく、直撃すれば即死してもおかしくないもので。

 その魔法を使うためだろう、初撃に巻き込まれないように【荒鷲の翼】の物理攻撃陣は少し離れた所から隙をうかがっているのが見えた。

 もし僕らが避けるなり、直撃を防ぐ手段があった場合には彼らがとどめを刺すつもりなのだろう。


 だけど――


「物理攻撃じゃなくて助かりました」


 飛び出したゴファルと僕の前にエルダネスが立ちはだかり口元に余裕の笑みを浮かべたのである。


「エルダネスさん!!」


 彼は僕の盾になるために前に飛び出したのか。

 いや違う。


「私がここにいることは予想外だったようですね!!」


 エルダネスが両腕を胸の前で交差させ、そしてそれを大きく開くような仕草をする。

 すると既に熱と冷気が感じられるほど近くまで迫っていた二つの魔法が突然その進行方向を変えた。


「二つ同時とは、本当におあつらえ向きです」


 エルダネスの【ユニークスキル】は四大属性全ての魔法を操ることが出来るというもの。

 しかしその力を自ら生み出すことは出来ない。

 だが、相手が魔法で力を造り出してくれたのなら、それを操るのは彼にとって容易い。


「うわあっ!」

「おいっ、やめろっ!」


 つまりエイルに向けて放たれた二つの強力な魔法は、エルダネスによって操られ――


「ぎゃあっ」

「ぐわっ」


 僕たちにトドメを刺そうと構えていた【荒鷲の翼】の前衛である盾持ちのエーボと、スカウトのシーナの動きを封じるように炸裂したのだった。


 解呪魔法スペルブレイクが成功すればティレルに操られている彼らも正気に戻る。

 そう信じて僕はゴファルに残りの魔力を全て流し込んだ。 


 魔力を受け床に降り立ったゴファルが解呪魔法スペルブレイクの体勢に入る。

 【荒鷲の翼】の魔法使いであるディーンとマイナはエルダネスがいる限り次の攻撃魔法は使えない。


「いっけえええええええ! ゴファァァァァルッ!!」

『ゴブウウウウウウウウウッ!!』


 ゴファルの解呪魔法スペルブレイクが発動する。

 ことここに至ってやっと部屋の中を見ることが出来た僕の目に入ってきたのは王座に数人の貴族と【炎雷団】によって追い詰められた王と王妃、そしてシャリスの兄と思う王子の姿だった。

 しかしその中にティレルの姿は無い。

 いったい奴は何処へ。


 そんなことを考えている間にも、王の間の全員を包み込むようにゴファルの手が振り下ろされた光り輝く魔方陣が一気に部屋一杯に広がっていく。


 パチンッ。


 何かがはじける感覚。

 瞬間に魔方陣の輝きが消え去った。


「成功だ。これでティレルの洗脳が解け……」

「エイルくんっ! 危ないっ!」

「エイルっ!! 逃げてっ!!」


 安堵しかけた僕の目の端に、こちらに向かって武器を構え走ってくる【荒鷲の翼】の前衛二人と【炎雷団】の姿が映ったのだった。

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