第107話 立ちはだかる者

「アナザーギルドね。確かにアナザーギルドの本部には乗り込んださ」

「と言うことはもしかしてアナザーギルドを壊滅させた報告に?」

「……本当にそう思うか?」


 思うわけが無い。

 この状況でこんな場所。

 しかもまだ城下の町は王城の兵士までもが動員されて鎮圧している状況である。


「思いませんね。今、あなたがこんな所にいる訳がないですし。報告なら王都のギルドマスターの仕事でしょう?」


 貴重な戦力でもあるギルドのSランクパーティは普通に軍の手伝いをしていなければおかしい。

 もちろん戦争などにはギルドは協力しないが、今回のような騒動には協力することが多い。

 ただし戦争の場合でも個人やパーティごとに傭兵として参戦することは禁止されては居ない。

 タスカ領でのダスカス公国軍との戦争がその一例である。


「とにかく僕たちは王に直接伝えないといけないこと。どいてくれませんか?」


 その言葉に薄ら笑いを貼り付けたままビリーは小さく首を振る。


「それは出来ない」

「どうして」

「誰も入れるなと言われているからな」


 ゆっくりとビリーは自らの腰に下げた剣の柄に手を置きながら答える。

 僅かに感じる殺気は本気の証だろう。


『ゴブ』


 それを感じたのだろう。

 ゴブトが同じく双剣に手を掛け僕を庇うように前に出る。


「前に見た時より強くなったか?」

『ゴブブ』

「一度おまえとは殺りあいたいと思っていた」


 ゆっくりと二人は自らの愛剣を引き抜いていく。


「エイル君、下がりましょう」

「そうだぜ。相手はS級冒険者なんだろ? やべーって」

「でも」


 今の僕はシェリスからもらった魔力回復薬のおかげで僅かばかり魔力が回復した状態でしかない。

 本当はゴブトに補助魔法を掛けて援護をするべきだ。

 だがこの先に王の間でやることを考えれば、今ここで魔力を使うのは避けなければならない。


「あの男を相手に私たちでは何も出来ませんよ」

「むしろ邪魔になるだけだ」

「……」


 僕は二人に引きずられながら後ろに下がり――


「そこのあなた。ビリーって言ったかしら?」


 僕らと違って、一人下がらずその場に仁王立ちで腕を組んだ姫様が場の空気を読まずにそう言葉を放った。


「ひ、姫! 危ないですよ!!」

「エイルは黙ってて! あとエルダネスとそこの……とにかくこれは私の仕事よ」

「名前覚えてもらえてないなんて……酷い」


 きっぱりと言い切られ、僕とエルダネスはその場から動けなくなる。

 ニックスは別の意味でうずくまって動けなくなっていたが、それは今はどうでもいい。


「……そういえばシャリス姫もいましたね。あなたはダスカス公国に『亡命』されると聞いていたのですが」

「亡命? 誘拐の間違いじゃ無いの?」


 ニックスの言葉にシャリスはそう答えると一歩前へ踏み出す。


『ゴ、ゴブ!?』


 突然横に並び立たれたシャリスに、ゴブトがどうしたら良いのかと僕を振り返った。


「ゴブト、とりあえず姫を守ってくれ」

『ゴブ!』


 ゴブトから先ほどまでの殺る気に満ちた殺気が消え、姫を守る男の気迫へ変化する。

 その間も姫とビリーの会話は続いていた。


「私はここの姫よ。あなたは私の命令に従うべきでは無いかしら?」

「……」

「今すぐ武器を納めて私たち全員を通しなさい!」


 また一歩姫が進む。

 本当なら無理やりにでも彼女を引き戻すべきなのはわかっている。

 だけど、彼女にそれを拒否されては

 見守る僕たちはことの成り行きがどうなるのかわからず、何かあった時はすぐに飛び出せるような体勢で待ち続けるしかなかった。


「お断りします姫」

「なんですって!」

「傀儡とはいえ俺たちの主人となる方の命令はお聞きしたいのはやまやまなのですが。今はまだあなたに従うのは早いのでね」

「傀儡? 主人? なんのことかしら?

「それはそこに居る三人のくせ者を倒してから教えますよ。と言うわけで姫は下がっていて貰うっ!」


 その言葉と同時。

 ビリーは王城の石畳が割れる勢いで床を蹴り走り出すと、一気にゴブトへ間合いを詰めた。

 油断していたわけでは無いはずだ。

 現にゴブトはビリーの初撃を双剣二本で防いだのだから。


 しかし、その勢いは止められなかった。


「きゃあっ!」

「シャリスッ!!」

「姫っ!!」


 ビリーの剣圧に押され、後ろに弾かれたゴブトの体に当たったシャリスが、玉突きの様に後ろへ跳ね飛ばされたのである。

 何かあったら飛び出せる体勢だった僕はそれを見て飛び出すと、床にたたきつけられる前に彼女を背中から抱き止めることに成功した。


「姫様はそこで大人しくしているんだな。これは俺とこのゴブリンとの楽しい楽しい一騎打ちの場なんだからよ」

『ゴブ!』


 ゴブトから『どうすれば良い?』と念話が届く。

 シャリスに対する態度からして、ビリーがこのままここを通してくれるわけはないことは理解した。

 だから僕がゴブトに答える言葉は一つ敷かない。


「ゴブト!! その男を倒せ!!」

『ゴブウウウッ!!』


 ゴブトの口から雄叫びが轟く。

 同時に双剣が凄くと、振り下ろされた格好のビリーの剣が弾き飛ばされた。


 いや、ビリーはあえて身を引いたのだろうか。

 その証拠にビリーの顔には今まで見たことが無いような笑みが浮かんでいる。


「仕切り直しだ」

『ゴブッ』


 そしてゴブトの双剣より一回り長い長剣を青眼に構えるとビリーは叫んだ。


「楽しませてくれよなっ!! ゴブリンッ!!」


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