第106話 裏切りの翼
「それにしても姫様はどうしてティレルの洗脳に掛かってないんですか?」
僕は階段を上りながら一番不思議に思ったことを尋ねた。
あのティレルが、エルダネスにだけ洗脳を掛けてシャリスに掛けなかった戸は思えない。
だが王城には図書館のような魔道具は無いとエルダネスに聞いている。
「もちろん普通に掛かってたわよ」
「じゃあなぜそれが解けたんです?」
「知らないわよそんなこと」
僕だけじゃなくエルダネスもシャリスのその言葉に首を捻る。
あの時エルダネスはシャリスと会話の最中、言葉の中に自分の洗脳は解けているという意味の内容を混じり込ませた。
それは『部屋に入ると悪いことが消える』という内容だったらしい。
言葉の内容的にそれだけだと何も知らない人には意味がわからないが、王族であるシャリスはあの図書館の特異性を聞いて知っていた。
なので、その時既に洗脳が解けていた彼女は、同じようにエルダネスも洗脳が解けていることを知ったのである。
「でも目的がテイマーバッグだなんてこともよくわかりましたね」
「それはカンよ! と言いたいところだけど違うわ」
あの時エルダネスはシャリスにだけわかるように目線で僕たちが隠れている場所をシャリスに伝えたのだという。
伝わるかどうかは賭けだったらしいが、察しの良いシャリスはそれだけで僕が救出されて隠れていることに気がついた。
「あとはわざとらしいエルダネスのあの動きよね」
「はははっ、あんなに簡単に誘導されるとは思いませんでしたよ」
それは使者がシャリスの近くまで移動するように円を描くように動いたあの動きだろう。
まさかシャリスまで洗脳が解けているとは思わなかった使者は、エルダネスをはめたことにご満悦で完全に油断していた。
「人を無理やりダスカスなんかに連れて行こうとするからムカついちゃったわ」
「それで裏拳を顔面にたたき込む姫様なんて聞いた事無いよ……ああ、僕の憧れが壊れていく」
無言で階段を突いてきていたニックスが、やっと現実に戻ってきたらしくそう嘆きの声を上げた。
僕だってあの町でのシャリスを見ていなければ同じことを思ったに違いない。
いや、普段から式典や祭りで表舞台に立ち、民にも優しく微笑みかけるシャリスの姿を知っているニックスの衝撃に比べればまだマシかもしれない。
なんせ僕はそんなシャリスはほとんど見たことが無いからだ。
「おかげで助かったよ」
『ゴブブ!』
僕は併走ゴブトと一緒にシャリスへ感謝の言葉を口にした。
「それと姫様がくれたアレのおかげで僕はティレルと戦うことが出来そうですし」
「私が持っていたって使わないしね」
シャリスがくれたものは魔力回復薬だった。
といってもそれほど強力なものでは無く、彼女が医者から昔貰ったものを使わず置いてあったらしい。
「別に魔力切れとかでふらついていたわけじゃ無いのよ。ただの貧血。なのにあのヤブ医者ときたら」
彼女が貧血で倒れたのを、魔力切れだと勘違いした医者が処方したその薬。
そのおかげで僕もこの国も救われるかもしれない。
ヤブ医者でも役に立つことはあるということか。
「それでエイル君。ゴブリンは出せるのですか?」
「はい。一応全力では無いですけどある程度は」
「ゴブリンは呼び出す時に使う魔力量が、魔物の中では一番少なくてすむおかげですね」
僕は大きく頷くと王の間へ続く階段の最後の一段を駆け上がった。
だが、目前の王の間の前で僕たちの前に立ちはだかったのは意外な人物で。
僕は立ち止まると、その人物に向けて間違いであって欲しいと願いながら声を掛けた。
「どうして……こんな所に」
「……逃げ出してきたのか。それにそこに居るのはシェリス姫とあの時の司祭の坊やと……」
「どこにでも居る図書館の館長ですよ」
「お前、エイルの仲間じゃなかったのかよ」
「誰ですか、この男は」
僕はゆっくりと彼に近づいてその名前を呼んだ。
「あなたは今、王都でアナザーギルド壊滅に奔走しているはずなのに、どうしてこんな所にいるんですかビリーさん!」
王の間の扉前で一人僕たちを待っていた……いや、偶然見張りをしていただけだろう男。
それは王都ギルドで今、アナザーギルド壊滅の手伝いをしているはずのSランクパーティ【荒鷲の翼】リーダ、ビリーだった。
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