第71話 第13連隊の任務
「大佐はこれからエヴィアスまで行くんですよね?」
「ああ、そこで国境の砦の改修工事と警備に当たる予定だ」
ゴブトとネガンさんの模擬戦から暫くして、タバレ大佐の使いとしてやって来た駐屯兵の案内でまた先ほどの部屋に呼び出された。
今度は彼らがこれから何をするのかという話を聞く。
「その前に領都エモスで暫く滞在しつつ、今エリモス領の領主代理をしているアガスト氏からも話を聞くことになっている」
彼ら王国軍第13連隊は、王国軍の総司令部からの命令でエリモス領の治安維持を目的として動くらしい。
もちろんダスカス公国軍の再びの侵攻を未然に防ぐために砦の強化と、山越えに対抗するための備えなども重要な仕事だ。
「当初は私たちではなく、主力が送られるはずだったんだがね」
机に肘をつきながらタバレ大佐が自嘲気味に笑う。
「君たちがダスカス軍を撃退したという報告が届いてすぐ王国会議と軍議が行われてね」
そして自分を指さしながら。
「僕たちだけで対処出来るだろうということになったらしいよ」
と肩をすくめた。
その表情からは厄介ごとを押しつけられたという意外に、何やら憤りを感じていることが察しられ。
タバレ大佐が今回の任務を快くは思っていない事が伝わってきた。
「一歩間違えば大規模な侵攻でかなりの被害が出る所だったのに……」
「そうだね。もちろん軍の中でも貴族の中でもそういう声は少なくは無かったさ」
ちょうどあの場所にゴブリン軍団という『軍』を動かせる僕が居たのは偶然に過ぎない。
さらに進化したワイバーンであるケルシードが、相手の航空部隊を潰してくれなければ僕たちだけでは抑えきれなかった。
偶然と運が味方になったおかげで乗り切った勝利でしかない。
「それでも君たちが撃退したという報告を聞いて彼らは思ったのさ――」
「何をですか?」
「冒険者やゴブリンしか従えられないテイマー一人で撃退出来たということは、ダスカス公国が本気で我が国を侵攻するために軍を上げたわけでは無くて、隣接するダスカス公国エフォルテ領の領主が暴走しただけに違いない……とね」
タバレ大佐はそこまで口にすると、部屋の外に聞こえそうな声で大きな声で笑う。
「馬鹿馬鹿しい話だろう?」
「ええ、そんな一領主の暴走で片付けられる話じゃありませんよ。普通は」
「そうだ。そんなことは馬鹿でも分かる。いや、君のことを馬鹿だと言ってるわけでは無い」
「わかってます。貴方が言いたいのは――」
「おっと、それ以上は軍法会議に掛けられるぞ。という冗談は置いといてだ」
タバレ大佐は僕に向けて近くに寄るようにと手招きする。
「一応私はここに信頼する部下であるネガンだけを連れてきた。その理由は第13連隊の中にもスパイが紛れ込んでいる可能性があるからだ」
「……賢明な判断だと思いますよ」
少し前の僕なら「スパイとか冗談ですよね?」と答えていたかもしれない。
だけどティレルという存在と、アナザーギルドという組織を知ってしまった今は、とてもでは無いが笑い飛ばすことは出来なくなっていた。
「もしかしてこの部屋も盗聴されてたりすることを心配してますか?」
「もちろんだ。一応私とネガンしか着いてきてないのは確認したが、それでも用心するに越したことは無い」
「でしたら調べてみましょうか?」
僕は小さな声で答えると、テイマーバックからゴチャックを呼び出した。
「そのゴブリンは先ほどのと違って普通のゴブリンのようだが?」
「彼はゴチャック。こう見えて『ゴブリンシーカー』に進化しています」
「初めて聞く進化名だ。それで、ゴブリンシーカーは何が出来るんっだ?」
「彼は主に諜報活動が得意なので、これからこの部屋の周囲を探って貰おうと思います」
そう答えながら僕はゴチャックに念話で指示を出す。
指示を受けたゴチャックは、頷いて足音も立てずに部屋の中を走り出した。
「調査報告を待ちましょう」
「ちょこまか歩き回っているな。こうやってみるとゴブリンというのも可愛く見えてくるな」
暫く部屋の中を走り回っていたゴチャックだったが、扉の前で止まると僕を振り返った。
どうやら部屋の外に出たいらしい。
「外は駐留兵がいるぞ?」
「大丈夫だと言ってますね。開けてもいいですか?」
「ふむ。まぁ見つかっても君がテイマーなのはすでに皆も知っているだろうし騒ぎにはならんだろうしかまわんぞ」
その返事を聞いて僕は椅子から立ち上がると扉に向かいゆっくりとゴチャックが出て行けるだけの隙間を空けた。
その隙間をするっと抜けて出て行くゴチャックを見送ってから、僕は扉を閉める。
「どれくらい掛かりそうかね?」
「多分それほど時間は掛からないと思いますよ。あと、一応この部屋の周りは盗聴されてる様子は無いそうです」
ゴチャックが出て行く前に僕に伝えた調査結果をタバレ大佐に伝える。
「では何故彼は外にまで行ったのか?」
「この部屋だけで無く色々と調べたいらしいですよ。まぁ、それが彼らの本能みたいなものなので」
「本能か。そういう所はやはり魔物なのだな」
僕は苦笑いを浮かべながら席に着く。
そしてタバレ大佐に向けてこう言った。
「それじゃあ安全が確認されたところで、僕からのお願いを聞いてもらえますか?」
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