第66話 第13連隊

 速度を落とした馬車がウィリス王国軍に近づくと、先頭の騎馬に乗った騎士の一人が後方へ向け何やら指示を出す。

 するとウィリス軍の兵士たちが道の中央を開けるように隊列をどんどん組み直していった。


 その動きはなかなか見事なもので、窓から身を乗り出しながら見ていた僕は思わず「うわぁ」と感嘆の声を上げてしまうほどだった。


 指示を出した騎士は、身なりからしてこの軍の隊長なのだろう。


 彼が隣に並走する騎士のうちの一人に声をかけると、その騎士は小さく頷いてから馬車に向けて馬を走らせ近寄って来た。


「このキャラバンの代表は誰か?」


 騎士は護衛が乗っている一番先頭の馬車までやってくるとそう声を上げた。

 その言葉に護衛の一人が応対すると、その騎士は僕が乗っている馬車までやってくる。

 そして御者席に移動していた代表の商人に「貴方がこのキャラバンの代表かな?」と優しい笑顔を浮かべて問いかけた。

 

「は、はい。私が一応このキャラバンの代表ですが……貴方様方は」

「我々は王国軍第13連隊です」」

「連隊ですか。それで私達になにか御用で?」


 最初は道を塞いでいたことを侘びにでも来たのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 彼は商人から視線を馬車の中へ移動しながら尋ねる。


「このキャラバンはタスカ領から来たのか?」

「いえ、私どもはエフォルテから王都へ向かう途中でして」

「ふむ。では客の中にでもかまわないのだが、タスカ領から来たものはいないか?」


 どうやら騎士様はタスカ領からやってきた人物を探しているらしい。

 そしてこの馬車でタスカ領からの客は僕一人。


「あ、あの。僕はタスカ領から来ましたけど」

「君だけか? 両親とかは一緒では無いのか?」

「僕一人です。それにこう見えても僕はもう成人していますので」


 あからさまに子供扱いされて少しむくれて返答をしてしまう。

 それが逆に子供っぽさを増す原因になっていることを、もしこの場にルーリさんが居たなら指摘してくれただろう。


「そうか、すまない。それで君に頼みがあるのだが」


 騎士は僕のような平民相手でも素直に頭を下げ謝罪の言葉を口にすると話を続けた。

 どうやらタスカ領のことを彼らは僕から色々と知りたいらしく。

 それで一緒にこの先の中継所で話を聞かせて欲しいとの申し出だった。


「それくらいはかまいませんが」

「ありがたい」


 連隊はこのまま僕が馬車を乗り換えた町まで先に行かせて、彼と連隊長の二人が僕たちと共に中継所に向かうらしい。


「それでは頼んだぞ」

「はい」


 僕は大きく頷くと、連隊長の元に戻っていく彼を見送った。

 しばらくして代表の商人の指示で左右に分かれた兵士たちの間を次の中継地までゆっくりと馬車は進み出す。


 窓から顔を出すと時折兵士が手を振ってくれるので、僕も手を振り返す。

 人数は二千人程だろうか。

 これほどの人数が一カ所に居るのを見るのは、この前の戦争でのダスカス軍以来だ。


 あの時はその全てが敵だったが、今回は全員が多分味方だ。


 例の男――ティレルの手の者が混ざり込んでなければだけど。


「タスカ領のこともダスカス軍のことも話すことは一杯あるけど何処まで話したらいいんだろうか」


 相手が知っている内容を僕が話さなければ、変におかしな疑いを持たれるかもしれない。

 かといって全てを話すにはティレルの手が回っている可能性を考えると不安だ。


 まずは彼らが何処まで知っているかを先に聞いてからにした方がいいだろう。


「とにかく相手が何を知りたいかがわからないと、対処を考えるのも難しいからね」


 僕はテイマーバッグの中のゴブトたちと、屋根の上で警戒しているゴチャックに念話でもしもの備えを伝える。

 そうしてから窓からまた身を乗り出して前を確認した。


 後ろを見るといつの間にか左右を歩いていた兵士たちとはかなり離れたようだ。

 次に前を向く。

 馬車を先導するように騎士が二名、中継所に向けて馬を走らせているのが見える。

 本当に二人だけなんだと少し驚きつつも僕は窓から体を戻した。


 そこから中継所までの間はそれほど時間も掛からなかったが、僕がタスカ領からやって来たことを知った同乗者たちに色々な質問攻めに遭うはめになってしまった。

 だけどそのおかげで騎士様に話す前に自分の中であの事件を改めて整理出来たことはありがたく。


「やっと着いたぁ」


 それでも話疲れた僕は中継所にたどり着くやいなや、いの一番で馬車を飛び降りたのだった。

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