第二幕 王都動乱
第一章 王都への道
第65話 王都へ
ガタゴト揺れる馬車の中。
僕は一人王都を目指していた。
「王都って結構遠いんだな」
タスカ領の領都エモスを旅立って、もう十日以上経つ。
突然王都から今回の件について詳しい話と、功労者である僕に褒美を与えるとのことで召集令状が届いた時は驚いたものだ。
「もう少し領都に居たかったけど、さすがに国王からの召集命令を断ったりしたら皆に迷惑かかっただろうし」
あれからしばらくの間。
僕はルーリさんに看病されながら、強制入院させられていたギルドの医務室から慌ただしく戦後処理に走り回るギルド関係者や、ダイト商会を初めとした町の有力者を眺めて過ごした。
やがて事態の詳しい報告が王都に届き、王都から今後の対処について最初の通知が届いた。
驚いたのは暫定領主としてギルマスことアガストさんが任命されたことである。
あの人の名声は僕が思っていた以上に高いらしい。
そんな人が何故辺境の更に端の町のギルマスなんてやっていたのか謎なくらいだったとか。
そのことについて一度だけアガストさんが忙しい中お見舞いに来てくれたときに聞いたことがある。
だけど彼からの答えはただ一言。
『色々あったんだよ……色々とな』
それだけ口にして苦笑いを返してきただけで終わった。
さすがに僕も『色々って何があったんですか?』とも聞けない雰囲気だったので、そこからはタスカ領と国の現状についての話になった。
結果的に領都までの侵攻は止められたとは言え、占拠されていたエヴィアスや、そこからエモスまでの街道。
特に僕たちが戦った近辺の荒れ具合はかなり酷く、その修復と復興だけでもかなり時間が掛かるらしい。
『戦争なんてしたこと無いのに一人で飛び出した僕のせいです』
『何言ってんだ、お前が気に病むことなんて何にもねぇよ。むしろ皆はお前に感謝してるんだぞ』
『感謝ですか?』
『ああ。お前がいなかったら俺たちはたとえダスカス軍を追い返せていたとしても、あれ以上の被害になっていただろうな。冒険者や兵士だけじゃなく民間人にもかなりの死者が出たはずだ』
結果的に味方側に死傷者はほとんどなく終わったのは奇跡だとアガストさんは豪快に笑う。
僕のゴブリンたちにも大きな怪我を負った者はいたが、幸い命を失った者は居なかった。
たしかにあの大軍を相手にしてこれは『奇跡』だったのだろう。
『それにお前、あのワイバーンだよ』
『ケルシードのことですか?』
『ケルシード……そういや昔オックスがそう呼んでたっけ。そのケルシードをいつの間に【テイム】したんだ?』
どうやら皆は僕が進化したワイバーンであるケルシードをテイムしてフライングセンチピードを倒したと思っていたようで。
僕は『僕のスキルは【ゴブリンテイマー】ですよ? ワイバーンをテイムなんて出来るわけ無いじゃ無いですか』と笑いながら答え、誤解を解くのに一苦労したっけ。
僕はあまり代わり映えのしない車窓を眺めながら生まれ育った村を出てからの怒濤の日々を思い返していた。
最初に馬車に乗ったときは無駄にはしゃぎすぎたせいもあって酔ってしまったけれど、ルーリさんがレリック商会で手に入れてきてくれた『酔い止め薬』のおかげで今回はとても快適な馬車旅になった。
車窓から吹き込む風が気持ちいい。
やがてもうすぐ次の中継所だと御者台からの声が聞こえ、降りるために荷物を確認する。
ルーリさんが準備してくれた王都への旅程メモによれば、次の中継地で別の馬車に乗り換えることになっていた。
ここまででも二回ほどすでに乗り換えを経験している。
ルーリさんから辺境領から王都へは馬車を乗り換えつつ十五日ほどかかると聞かされた時は気が遠くなったっけ。
なんせ、初めての馬車であれだけ酷い馬車酔いを経験したわけで。
ルーリさんが酔い止め薬を探してきてくれなかったら今頃どうなっていたかわからない。
「うわっ」
「きゃっ」
「なんだ!?」
ガタン!
僕が荷物の中から取りだしたメモに視線を落としている時だった。
突然それまで順調に走っていた馬車の速度が急に落ちたのである。
おかげで僕と同じように馬車の中で降りる準備をしていた他の客もバランスを崩し倒れそうになって悲鳴を上げていた。
「おい! 一体何があったんだ?」
御者席に近い所に座っていた壮年の男が、そう口にしながら御者席へ続くカーテンを開く。
他の客からも同じように状況説明を求める声が上がる中、僕は念波で馬車の屋根で周囲を警戒してるはずのゴチャックに話しかけた。
『ゴチャック、何があったかわかる? もしかして盗賊じゃないよな?』
『ゴブブゴブ』
馬車は一台ではなく五台ほどのキャラバンだ。
その中には僕ら旅人用の客車以外に貨物車、そして護衛の冒険者が使う馬車がある。
王都に近づけば近づくほど魔物も少なくなるが、かわりに盗賊が増えていくとルーリさんから聞いていた僕は、もしもの時には加勢出来るようにと準備はしていた。
『そっか、魔物とか盗賊じゃないんだね』
『ゴブ』
『え? 中継所の方に?』
僕は立ち上がると、馬車の窓から上半身を乗り出して前を見た。
馬車の進む先。
「あれは王国軍かな?」
そこにはウィリス王国の国旗を掲げた一軍が、道一杯にこちらへ向けて行軍してくる姿があったのだった。
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