第51話 ゴブリンテイマー、証拠を手に入れる
「さぁ。証人も用意しました。これであなたがアナザーギルドの幹部であることは認めてもらいますね?」
僕は一歩前に進み出ると、そう言った。
だが、タコールはの口から出たのは自らの正体を認める言葉では無く。
「証人……証人ねぇ。そんなものが証拠になりますかね? ねぇ、領主様」
僕たちをあざ笑うかのようなそんな言葉で。
最初の言葉以降、ずっと聞き役に徹していた領主のガエル・タスカーエンは、そのタコールの問いかけに面倒くさそうに僕の方に目を向ける。
「偽の証言をする証人など簡単に用意出来るだろう? そんなもの何の証拠にもならんよ」
「そんなっ」
「俺たちは嘘なんて一つもついちゃいねぇぜ」
ガエルの言葉に、ヤンマンとギムイがいきり立つ。
だが、それを遮るように、ガエルの言葉は続いた。
「それにだ。こんな庶民の証言が証拠になるのなら、もし領主であるこの私が――」
ガエルは立派な椅子から立ち上がるとゆっくりと左手を持ち上げ、その指でヤンマンたちを指さし。
「そこにいる二人がタコールを貶めようと密会している現場を見たぞ!!」
と、謁見の間中に響き渡るような大声を出した。
「なっ……」
「俺たちが大罪人だと!」
驚いてそれを否定しようとする二人を無視して、ガエルはまた椅子にどっかりと座る。
そして先ほどまでと同じように肘置きに頬杖をついて、歪な笑みを浮かべて話を続ける。
「――そう証言したら、お前たちはどうする?」
そんなものはへりくつに過ぎない。
この場に居る全員がその事はわかっている。
だけどガエルの言っている事も間違っては居ない。
「それは……」
人の証言なんてどうにでも出来る。
だから証拠にはならないとガエルとタコールはそう言っているのだ。
なぜなら彼らが口にしていることが本当かどうかなんて、誰にもわからないから――。
「久々にターゼンと話せると思ってここまで通してやったが、まさかこんな茶番を見せられるとはな」
「まったくですな」
呆れたような表情でそう言い放ったガエルとタコールに、場の空気は怒りに満ちていく。
しかし僕はそんな空気の中、一人平然としていた。
「やっと来てくれた」
僕が小さくそう呟いた直後。
執事が出て行った後、しっかりと閉じられていた謁見の間の扉が大きく開かれたかと思うと、数人の男が飛び込んできたのだ。
そして、その一団の先頭の男が僕たちに、無駄に大きな声で話しかけてきた。
「待たせたなエイル、ターゼン。ちゃんと探してきたぞ」
そう言って、大股で近寄ってきたのは。
「遅いぞアガスト」
エヴィアスの町のギルドマスターであり、ルーリさんの上司。
そしてターゼンさんと共に数々の冒険をしてきた盟友であるアガストさんだった。
「ほら、これが証拠だ」
その手に握られているのは、僕が待ちに待っていたもので。
アガストさんはよほど急いで来たのか、額に汗をにじませながら、その書類の束を僕に手渡してくれる。
「そ、それはっ。貴様っ、どうしてそれを」
「どうしてって。そりゃ、お前の部屋をちょいと家捜しさせて貰っただけだが?」
「そんなことが許されると思っているのか!!」
後で聞いたところによると、領都ギルドのギルドマスター室。
その奥に小さな隠し部屋があったそうだ。
そこはタコールがアナザーギルドの幹部……領都支部長としての仕事場だったらしく、そこでこの書類を見つけたのだという。
「ギルドの不正を正す。それがギルドマスターの仕事だろ?」
「お前はこの領都のギルドマスターでもなんでもない。辺境の小さな町のギルマスでしかないだろうがっ」
「それがどうしたよ? ギルドの規約には町の大きさが関係するとはどこにも書かれてねぇだろ」
アガストはそう答えると、腰の小さな袋から一枚の紙を取り出してタコールに向けて突き出す。
「それに俺はちゃんと王都のギルドから調査の許可を貰ってるんでな」
「ば、ばかな。いったいどういう了見でそんなものがっ……」
国際組織である冒険者ギルド。
様々な町にその支部が置かれているが、町の大小にかかわらずその力関係は平等だと定められている。
その本部はここから遠く離れたある国に存在している。
基本的に平等なギルドという組織だが、その中でギルド本部と各国の首都に設置されたギルドだけは一段上の力と決定権を有し、各支部で問題が起こった場合は、そこが対処することになっていた。
なので、今回も領都ギルドへの強制操作を行うために、アガストは王都ギルドへ許可申請をしたというわけだ。
「偶然だったがな」
「偶然だと?」
「ああ。元々は貴様がダイト商会と組んで、隣国との間で密輸をしてる証拠を抑えるために王都ギルドへ申請をしたんだが」
アガストはそう言いながら、許可証を指先で弾きながら続ける。
「ワイバーンに手を出したことを、今度は王宮へ急報で送ったら直ぐに王都ギルドから許可証を送ってきてくれたよ」
「……」
「流石にワイバーンの子供を、戦時中じゃないとは言え別の国に売り渡されちゃかなわんからな。きっと王国の方からせっつかれたんだろうぜ」
ワイバーンは基本気難しく、テイマースキルの持ち主でも容易くはテイム出来ない。
しかし難しくてもテイム出来るのならその強力な力は魅力的である。
なんせ、その飛行能力は魔物の王と呼ばれるドラゴンに次ぐほどである。
その力を他国に奪われるのは、単純に脅威だ。
「それでもまぁテイマー自身が他国へ行くというなら止められやしなかったけどな。フリーの子ワイバーンとなれば話は別だ」
先に書いたとおりワイバーンはかなりの腕利きテイマーでもテイムするのは難しく、命の危険を伴う。
だが、そんなワイバーンであっても子供の頃であればテイマースキルさえあればテイムが可能なのだ。
件のワイバーンテイマーも、ターゼンさんが彼から聞いた話だと、幼い頃に傷ついた子ワイバーンを助けたことからテイムできたらしい。
二匹目のワイバーンは、そのワイバーンに惹かれて……そして子供が生まれたというわけだ。
「そしてこの書類の中にははっきりと……タコール、お前がアナザーギルドのメンバーに伝えるために作った指令書が残されていたぞ」
「あ、あった。これですね。それと……こっちは作戦指示書かな?」
僕は書類の束から一枚の紙を取り出すと目を滑らせた。
そこには確かにワイバーンテイマーの暗殺を指示する内容が書かれた紙と、もう一つは隣国へワイバーンの子供を密輸する計画について書かれていて。
「ちゃんとタコール氏のサインと血判が入ってますね」
「どうして血判まで押してあるのかはわかんねぇが。これは完璧な『証拠』になるだろ?」
アガストはニヤリとしながらターゼンの肩を叩きながら――。
「それにまだこれだけじゃねぇぜ」
そう口にすると、開きっぱなしの扉の向こうに大きな声で呼びかけた。
「お前さんたちも入って来いよ! あんたらも証拠を持ってきたんだろ?」
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