第36話 ゴブリンテイマー、真相に近づく
「その領主からの依頼ってどんなものだったんですか? よければ教えてくれませんか?」
ルーリさんの問いかけに、ターゼンさんは少し口ごもった後答える。
「ワイバーンの子じゃよ」
「ワイバーンの子というと、例の僕たちが助けたワイバーンの子供ですか?」
「ほう。お前たちが助けたじゃと?」
僕の言葉にターゼンさんは細い目を一杯に広げて驚く。
そういえばワイバーンを撃退したとは言ったけれど、詳しい内容について僕たちはまだターゼンさんに語ってなかったことに気付いた。
「ターゼンさん。先ほどお渡ししたギルマスからの手紙を先に読んでいただけますか?」
ルーリさんもそのことを思い出したらしく、ターゼンさんに先ほど渡した手紙を読むように告げた。
僕自身はあの手紙に何が書かれているかは大まかにしか知らないけれど、今回のワイバーン騒動について記されていることは確かのはず。
「ふむ。詳しいことはこれに書いてあると言うのだな」
「はい」
ターゼンさんは、自らの執務机からペーパーナイフを取り出すと封を開け中に入っていた手紙を取り出し読み出す。
彼の顔は、手紙を読み進めるほどに皺が深く、険しくなっていき。
そして――
「ヤツは殺されたとでもいうのかっ」
そう叫んでバンッと机の上に手紙を叩き付けたターゼンさんは、そのまま深くソファーに身を沈め目を閉じた。
ヤツというのは、きっとあのワイバーンの主だった元冒険者に違いない。
「ワシが、ヤツにこんな町を……場所を紹介なぞしたばっかりに」
ターゼンさんと、ワイバーンの主であるオックスと出会ったのは冒険者時代のことだったらしい。
その頃からオックスは冒険者を引退した後、ワイバーンと共にゆっくりと過ごせる場所を探しているとよく言っていたらしい。
小型の魔物であれば都市部近郊でもかまわないのだろうが、なんせワイバーンだ。
しかも彼はその当時から既に二匹のワイバーンの成獣を使役していた。
冒険者を引退すれば、旅先でワイバーンの餌になる魔物や獣を狩ることも少なくなる。
だとすると、ワイバーンの餌場になるような場所が近くにある所でないと住むことは出来ない。
「それでこの町の外れを紹介したんだよ。ずいぶんヤツも気に入ってな。それに前領主も、近くの魔物を退治してくれるってんで喜んでくれたんだが」
様子が変わったのは五年ほど前。
前領主が突然亡くなったために、今の領主であるガエル・タスカーエンが後を継いだ後だった。
まだ若かったガエルは、領主として父親が教育中であったが、急死によって中途半端な状態で領主を継ぐことになったという。
「前領主の頃は時折エモス領の有力者たちを集めて会議をして、領地の状況を確認したり、方針の決定をしたりしてたんだが」
ガエルが後を継いでからはその会議は一度も行われていないらしい。
「それで一年位前だったか。そんな領主に突然ワシは呼び出された」
レリック商会が軌道に乗り、この町の有力者の一人となったターゼンさんは、その事もあって領主への顔見せとして呼ばれたと思ったそうだ。
「そして領主のガエルは、挨拶もそこそこに突然ワシに命令しやがったのさ」
「命令?」
「ああ。あの口調は人に物を頼む態度ではなく、命令だった」
内容は僕が予想した通り『今度生まれるというワイバーンの子供を領主に差し出すようにオックスを説得せよ』という物だった。
もちろんターゼンさんはその命令を拒否した。
オックスから自分の死後は、ワイバーンたちを自由にしたいという願いを彼は聞いていたからである。
「それでもその時は特に何も言われなかった。ガエルも『それならしかたがない。他の者に頼むとしよう』と言っていただけだったからな」
そう呟くとターゼンさんは、机の上に叩き付けた手紙をもう一度手に取り――
「その『他の者』ってのが誰だか知らないが、まさかオックスの命を奪ってまでワイバーンの子を奪おうとするなんてな」
悔しげに唸った後、皺が刻まれた両手で握りつぶしたのだった。
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