第35話 ゴブリンテイマー、話を聞く
このレリック商会が潰れる。
そう悔しそうに語ったターゼンさんに、ルーリさんは当然の問いかけをする。
「どうしてです? 前に来た時はダイト商会よりも繁盛していたと記憶してます」
前回、ルーリさんがここを訪れた時。
あのダイト商会の店より、レリック商会は繁盛しているように見えたらしい。
そして、それは事実なのだろう。
今のレリック商会は、店内に客の姿は無く、それ以前に棚に並ぶ商品自体が同じような物ばかり。
その棚にも所々に空きが目立ち、とても繁盛店には見えない。
「何から話せば良いのか……嬢ちゃんが前にこの店に顔を出してくれてからしばらく後の事だ」
ターゼン・レリック。
彼は元々は冒険者をしており、しかもギルマスであるアガストとパーティを組んでいた。
他にもメンバーはいたらしいのだけど、アガストの引退を機に、全員がそれぞれ第二の人生へ歩み出した。
パーティの中でも会計や商談を担うことの多かったターゼンは、いつしか商売に魅せられ、自分の店を持つことを夢見ていたのだという。
そして元々はダイト商会一強だったこの領都に店を開いて十数年。
冒険者時代に培った人脈や、様々な土地を見て回った知識を武器に、彼は自らのレリック商会をダイト商会と肩を並べるまで大きくすることに成功した。
領都エモスだけでなく、他の町にも支店を出し、定期的に国内の村などを巡回する行商隊は、めったに商人が訪れない土地の人たちに大変感謝されたそうである。
そんな小さな村々の存在や現状も、ターゼンが冒険者として自分で見聞きした体験が生かされた商機の一つであった。
「だが数ヶ月前から、レリック商会の馬車や行商隊が野盗に襲われる事件が頻発するようになった」
「今までは無かったのですか?」
「嬢ちゃんも知っての通り、商会の一団には基本的にギルドから護衛が付くことになっている。もちろん無料では無いがね」
「ええ、知っています。ですから普通は野盗に襲われることはめったに無いと――」
「ほぼ全滅だよ」
「えっ」
レリック商会の輸送隊は、取引先の村で仕入れを追えた後、十人ほどの冒険者によって護衛されこの地へ向かった。
だが、その途中。
野営の最中に突然襲われたのだという。
生き残ったのは冒険者数人。
商会の人間や、護衛の冒険者の殆どがその場で殺された。
「それはおかしいですよ!」
ルーリさんが驚きに満ちた声を上げた。
「どうしたんですかルーリさん?」
「エイルくんは知らないかもしれないけれど、普通野盗というのは荷物が目当てなだけで人殺しはなるべくしない物なのよ」
「そうなんですか? それって――」
野盗によって荷物の被害が出る。
そのことはどんな商会も旅人も理解している。
だが、こと人死にを大量に出したとなれば、最悪軍隊が野盗の討伐に動く。
もちろん野盗の方も、軍隊相手には逃げ切ることも戦って勝つことも出来ない。
領主にしても、ある程度商人や民の積み荷が奪われたところで軍を動かすのは割に合わないが、人が大量に殺害されれば見て見ぬ振りは出来ない。
なので、野盗も商人も最低限の所で折り合いを付け、命の奪い合いまでは殆ど起こることが無いのだ。
「しかもそれはその一回だけでは無い。この数ヶ月間で『レリック商会の馬車隊だけ』狙ったように襲われ続けた」
「それで、領軍は?」
「何度も陳情しに出向いたさ。だが、領主のタコールは一度も会おうともせん……多分あのことを断ったのを根に持っているのだろうな」
ターゼンさんは疲れ切った表情で椅子に深く腰を沈めて。
「あのこと?」
そう尋ねるルーリさんの横に座る僕を見て口を開く。
「そういえばエイルとか言ったか。君は例のワイバーンを退けたのだったな」
「はい」
「領主の頼みをワシが断らなければ、アヤツが暴走することも、ヤツが命を落とすことも無かったのかもしれん」
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