第31話 ゴブリンテイマー、ルーリのスキルを知る

「それでどうでしたか?」


「だめね。あの人絶対に私の目を見ないんだもの」


「僕もルーリさんの目はあまり見れないですけどね。恥ずかしくて」


 僕が少し照れたフリをしながらそう言うと、ルーリさんは笑って僕の頭をコツンと軽く叩いた。


「わざとらしいわよ」


「そうですか? 半分くらいは本気なんですけど」


 僕は痛くもない頭を抑えながらそう答えた。

 でもルーリさんが言ったように、領都ギルドのギルドマスターであるタコールがわざと『彼女の目を見ないようにした』のだとすれば、それは完全にタコールがくだんの事件に関わっていると言うことを示しているということだろう。


「じゃあ半分は私が怖いってこと?」


「やだなぁ。僕がルーリさんのことを怖がるわけ無いじゃ無いですか」


 僕はそう答えて彼女の目を、今度は真っ正面から見つめ返す。


「嘘はついてないわね」


「でしょう?」


 ルーリさんのスキルは『真実の瞳』というらしい。

 相手の目を見ることで、相手が嘘をついているのかそうじゃないのかがわかるスキルで、彼女は今までその力を使って様々なピンチを乗り越えてきたという。


「特にナンパ男とかね」


 彼女が僕にスキルのことを教えてくれた時、彼女はそう言って笑ったっけ。


「私の力を知ってる人は少ないんだけど、領都のギルマスくらいになると、登録している冒険者のスキルはある程度閲覧できるのよね」


「じゃあ僕のスキルも知ってるってことですね」


「新人冒険者のスキルなんて調べるかしらね。多分私と一緒にやって来たとは聞いてるでしょうけど、私が護衛を雇って領都に来るのは毎回のことだし」


 今回ルーリさんは名目上ギルマスであるアガストさんの代理で領都にやって来たことになっている。

 ギルマスの名前は旅の途中で初めてルーリさんから教えて貰ったのだ。


「それでワイバーンの事件にはやっぱり関わってそうですか」


「エイルくんがワイバーンから聞いた話を少しだけ匂わせてみたけどね。知らぬ存ぜぬな態度だったわ」


 そもそもワイバーンから聞き出せたのは、彼女の主に領主が依頼をした場にタコールがいたらしいということと、その依頼のためのパーティはタコールが用意したことくらいだ。 

 しかもその場をワイバーンは直接見たわけではないはずなので、多分彼女の主から聞いた話でしかない。

 ワイバーンの子供を掠うために行われた犯行という裏付けも証拠も何も無いのである。

 ルーリさんの話によると、そもそもテイマーが死亡した後にテイムされていた魔獣を危険視して殺すという話は希にあるらしく、ワイバーンが目覚めた時に領主の兵士に殺されかけたというのも特別なことでもないとのことで。


「酷い話ですよね」


「そうね。でも強力な魔獣を首輪が外れた状態で放置できる人はなかなかいないものなのよ。それがたとえこのさき人を襲わないとしてもね」


 もしかして僕のゴブリンたちも、僕が死ねば同じように討伐されてしまうのだろうか。

 何れ僕が命を失う前に、なんとかしてあげないといけない。

 僕はルーリさんの話を聞いた時にそう決意した。


「それじゃあこれからどうします?」


「そうね。さすがに私の権限じゃ領主様に直接って訳にもいかないし。とりあえずあの密輸商人に依頼したという商会に行ってみようかしら」


「ダイト商会でしたっけ」


「ええ。この領で一番大きな商会よ。一応ギルマスから紹介状は預かってるわ」


 彼女はそう言ってポケットから一通の封書を取り出す。

 表にはギルマスの汚い字で何やら書かれているが読めない。


「暗号か何かですか?」


「違うわよ。ギルマスが聞いたら泣くから言わないであげてね。あの人、昔からあまり字を書くことが無かったらしくて、冒険者やめてから一生懸命練習したんだから」


「そうなんですか? それまでは一体どうしてたんです? 書くこともあったでしょ?」


「マスターが代わりに書いてあげてたらしいわよ」


 それはさすがに甘やかしすぎではと僕が言うと、ルーリさんも笑って「だから私は逆に厳しくしてるの」と言った。


 一体ルーリさんとギルマスの関係って……。

 僕は少しモヤモヤしたものを感じながら、彼女と一緒にダイト商会へ向かうのであった。

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