第28話 ゴブリンテイマー、救出する

 ゴブリンたちに囲まれた馬車の中では三人の男が、一体何が起こったのかわからずに震えてしゃがみ込んでいた。

 一人は馬車の御者で、もう一人が雇い主である商人とその仲間のようだ。


「抵抗しなければゴブリンたちには何もさせませんよ」


 僕は震える彼らにそう言ってから馬車の後ろ側に回り込む。


「さて、本当にいるかなっと」


 軽く馬車の中へ入ると、その中はかなり荒れていた。

 上を見ると屋根も破れている。

 あのワイバーンに襲いかかられた時に破れたに違いない。

 マイルさんたちはこの馬車の中には入れてもらえず、前後を守るように馬にのって警護をしていたらしい。

 そして休憩や野営の時だけ、商人たちが馬車の中から荷物を取りだして彼らが設営を行ったのだとか。


「まぁ、普通の冒険者に見られるわけには行かないよね」


 僕はそう呟きながら、散乱した荷物をかき分け、一番奥にしっかりと固定されている箱の隙間に荷物の中にあった丈夫そうな剣を差し込む。

「よいしょっと」


 そして、そのままテコの要領で一気に箱の上面をひらくと。


「本当だったんだ」


 その箱の中には更に人が二人ほどは入れそうな檻が入っていて、その中に件のワイバーンの子供らしき生き物がうずくまっていたのである。


「眠ってるのか眠らされてるのかわからないけど、もし目が覚めて暴れられても困るな」


 見る限り外傷もなさそうだし、息もしていて、ただ眠っているようにしか見えない。

 多分商人たちによって薬か何かで眠らされているのだろう。

 生きたまま隣国まで連れて行こうとしたようだし、命の危険はないだろう。

 僕はそう判断すると、一旦外した蓋を箱の上に戻すと馬車を飛び降り馬車の前へ移動し、ゴブリンたちに囲まれたまま震えている三人を改めてゴブリンたちに拘束させる。


「暴れたりしなければゴブリンたちは襲いかかったりしないんでおとなしくしていて下さいね」


 男たちは慌てて頷くと、ゴブリンたちに素直に拘束されていった。

 この状況で逃げ出せるわけも無いし、僕の行動を見て全てがバレていることを知ったのだろう。


「それじゃあ詳しい話はギルドでお願いしますね」


 男たちにそう告げると僕は今度はゴブリンたちに向き直って指令を出す。


「僕は先に戻ってギルマスに話を通しておくから、みんなはこの人たちと馬車をゆっくりと町まで連れてきてね。特に馬車の中にはワイバーンの子供がいるから注意するように」

『『『『ゴブッ』』』』

「ゴブミン、後は頼んだよ」

『ゴブブ』


 それだけを言い聞かせて僕は一人町へ先に帰るため、強化魔法を自分にかけ直し走り出したのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 


 町に戻り、ギルマスに簡単な説明をした後、僕は母ワイバーンの元へ戻った。

 門の中と外には、騒ぎを聞きつけた野次馬たちや、緊張な面持ちでワイバーンの様子をうかがっている冒険者と衛兵でごった返している。


「すみません。通して下さい」


 人混みを抜けようと僕が四苦八苦していると。


「ゴブリン坊ちゃんが帰ってきたぞ」

「おまえら、ちょっとどいて通してやれ」


 数人の冒険者たちが僕の姿を見つけ、大きな声でそう怒鳴った。

 おかげで僕の前に集まっていた人たちが左右に分かれ道が出来る。


「ありがとうございます」


 僕は人の間に出来た道を一気に駆け抜けると、冒険者にお礼を言いながら門を駆け抜け母ワイバーンの元へたどり着いた。


「えっと、ゴブナ。また通訳してくれるか?」

『ゴブブ』

「まずは君の子供は無事に保護しました。安心して下さい」

『ガルルルル』

『ゴブブ』


 魔物の表情はよくわからないが、多分僕の話を聞いて体の力が一気に抜けた様子を見ると、安心してくれたのだろう。

 僕はそんな母ワイバーンにゴブナを通じて提案を持ちかけた。


「今から僕は君の傷を治してあげようと思うんだけど。治ったからって暴れないでくれるかい?」

『ゴブブブゴブ』

『ギャウ』


 そして子供が無事ならもう暴れる必要は無いと答えたワイバーンに、僕は回復ポーションを掛けてやることにしたのだった。

 しかし手持ちのポーションだと完全には治せない。

 とりあえずゴブトによって貫かれた翼は回復できたので、残りはギルマスあたりにたのんで回復させて貰うことにしよう。


『ギャギャウ』

『グブゴゴブ』

「ここまで治れば後は自然に治癒するだって? ワイバーンの回復力って凄いんだな」


 かなり深い傷でも、時間さえあればある程度は回復することがかのうらしい。

 ただ、領主の館でかなり無理をし、彼女を殺そうとしてきた領兵との戦いで受けた傷は、毒でも塗ってあったのかかなり治りが遅かったとか。

 僕たちと戦っている時、進化したワイバーンであるのに後れを取っていた理由はそこにあるのだろう。

 だとすると万全の彼女ともし戦っていたら、僕らはどうなっていたのかと考え、僕は今更になって少し背筋が凍るような気持ちを抱いたのだった。


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