第27話 ゴブリンテイマー、捕縛する

 ワイバーンから聞いた話を要約するとこんな話だった。


 ワイバーンの主は彼女……そう、あのワイバーンは雌だったのだが、彼女の他にもう一匹、別のワイバーンを従えていた。

 そして二匹のワイバーンは主と共に幾多の冒険を繰り広げ、そこそこ名の通った冒険者となったのだという。

 やがて年老いた主は、冒険者を引退しパーティを抜けこの領地の領都の近くで余生を過ごすことにした。

 主はワイバーンたちとの主従関係を解き、彼女たちを自由にするつもりであったがワイバーンたちは拒否し、共に暮らすことになった。


 やがてワイバーン同士の間に子供も生まれ、緩やかな生活が続くと思っていたある日のことだった。

 主の元へ領主の使いが訪れたのである。


 領主と領都のギルマスの頼みを受け、領都近くの魔物が多く住む森の奥へギルマスが用意した急性パーティーで討伐に向かうことになった主。

 子供を産んだばかりで本調子ではなく、しかも子供ワイバーンを一匹残していくわけにもいかず、主は雄ワイバーンのみを連れて旅立った。

 その間、彼女と子供の世話は領主からあてがわれた魔物使いがすることになっていたのだが。


「気がつくと眠らされていた……か。餌に薬でも紛れ込まされていたのかな」


 彼女が気がついたのはしばらくしてからだった。

 突然彼女の頭の中で何かが切り替わるのを感じたらしい。

 そして足に巻いていた使役魔物の証である魔道具が千切れ落ちているのを見た時彼女は主の死を悟ったのである。


「しかも気がつけば自分は檻の中に閉じ込められていて、子供ワイバーンもいなくなっていた。しかも檻の周りには彼女を今にも刺し殺そうと身構える兵士の姿……それじゃあパニックになって当たり前だ」


 ワイバーンからの話しかわからないので、これはあくまで僕の推測に過ぎないが、主は領主に騙されて殺されたのではないだろうか。

 その目的はワイバーンの子供。

 なぜならワイバーンの記憶の中に、何度か領主からワイバーンの子供を譲ってくれないかという話が届いていたという物があったからだ。

 その矢先の領主からの呼び出し。

 そして主の死。

 関係が無いと思う方が嘘だ。


「とにかく子供ワイバーンが商人の馬車の中で見つかればはっきりするさ」


 僕は自分自身とゴブリンたちに速度上昇の補助魔法をかけて町を走り抜けていく。

 この町の出入り口は四つ。

 冒険者たちや町の人々の話から僕はその中の一つに馬車が向かったことを突き止めた。


 その出口の先には隣国との国境へ向かう整備された道がある。

 商人は領主直々の証書により、交易として国境の砦を荷物検査なしでも通り抜けることが可能なのだろう。


「どうして隣国にワイバーンの子供を持ち出そうとするのかわからないけど……それと」


 商人の行方について教えてくれた冒険者の話が気になる。


「どうして商人が【炎雷団】を探してたんだろ」


 商人は町に逃げ込んだあと、騒ぎを聞いて門に向かおうとしていた冒険者を捕まえて「炎雷団は何処にいるのだ」と尋ねたらしい。

 彼が炎雷団が新人狩りをして捕まり、領都へ護送中だと答えると、商人は大きく舌打ちをして町の出口に向けて馬車を走らせていったのだとか。


「あの人たち、今回のこの騒ぎにも何か関わりがあるのか……それも商人から聞き出さないと。あれかな?」


 ゴブリンと共にやっとたどり着いた出口、その道の先に少し屋根の壊れかけた馬車が走り去っていく姿が見えた。

 よっぽど慌てているらしく、かなりの土煙を上げ疾走している。

 あれでは車輪も車軸も保たないんじゃないだろうかと心配になってしまう。


「壊れた勢いで中の子ワイバーンが怪我でもしたら大変だから急いで捕まえるよみんな!」

『『『『ゴブー!!』』』』


 僕は残りの魔力を集中させ、僕自身の強化を解いてゴブリンたちに力を集中させた。

 とたんに共に走っていたゴブリンたちが一段と加速する。

 同時に補助魔法の切れた僕はその場にへたりこみ、彼らを見送った。


「後は頼むよ」


 猛烈な勢いで迫るゴブリンに気がついたのか、馬車の速度が一段と上がったように見える。

 だが、時既に遅し。

 ゴブミンの放ったボム魔法が、馬車の進行方向の地面に炸裂すると馬たちが驚き足を止める。


「おいおいゴブミン、乱暴すぎじゃないか」


 ゴブナと同じような力を持つとはいえ、ゴブミンはまだ生まれたばかりで経験不足なゴブリンだ。

 その事を僕は失念していた。


「こんな所で座り込んでる場合じゃないな。早く近くに行かないと」


 僕は立ち上がるとゴブリンたちによって、完全に包囲され動けなくなっている馬車に向けて駆け出したのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る