第四章 領都で待つモノ
第29話 ゴブリンテイマー、領都へ向かう
一連のワイバーン騒動。
あの時頑張ってせっかく捕まえた商人たちだったけど、結局彼らからは有力な情報は得られずじまいだった。
どうやら彼らは本当にただ雇われただけで、誰にもバレずに国境の砦までワイバーンの子供を運ぶだけの依頼だとしか聞いていなかったらしい。
ギルマスたちはかなり強引なことをしてまで真実を聞き出そうとしてくれたらしいけど、真相はわからずじまいだた。
事件の後、ワイバーンの怪我が治り、彼女たちが山へ飛び立ったのを見送った後、僕は自らの意思とギルマスからの依頼を受けて領都へ向かうことにした。
僕の意思はこの事件の真相を探ること。
そしてギルマスからの依頼というのは――
「それにしてもルーリさん。本当に良いんですか?」
僕は横を歩いている美人なお姉さんにそう声を掛けた。
「ええ。たまには長距離を歩かないと体もなまってしまいますし」
ギルマスからの依頼。
それはルーリさんの護衛だ。
どうやらギルマスは今回の事件には領都のギルドが関係していると考えているらしく、自分が一番信頼しているルーリさんにその調査を任せることにしたのだそうだ。
本当なら自分が直々に出向きたかったらしいが、今あの町には実力のある冒険者パーティが不在で、ギルマスが離れるわけには行かない状態だ。
一番の実力者であるSランクパーティ【荒鷲の翼】は【炎雷団】の護送のために出て行き、まだ返らない。
残った中でも実力者だった【烈風の刃】は、主力であるエンヴィとマイルの怪我が完治するまでは戦力にならない。
そんな状況で離れるわけにも行かず、代わりにルーリさんが出向くことになったわけである。
「それにねエイルくん。私、こう見えて強いのよ」
そう言って腕を曲げて力こぶを作ろうとするが、その細い腕にこぶが出来ることは無く。
「信じられないんですけど」
「ほら、私ってパワータイプの冒険者じゃ無いから」
そんな言い訳も可愛らしいなと思ってしまった。
「信じてないようね」
「そりゃあ……」
「じゃあこれを見てくれるかしら?」
そう言って服の襟元から細い腕を自らの胸元に差し入れるルーリさんに、僕は「な、何を見せるつもりなんですか!」と慌てて目をそらした。
「ほら、これが証拠よ」
そっぽを向いた僕の後ろから、ルーリさんの細い腕が伸びてくると、僕の目の前に何かが差し出された。
それと同じものを僕も持っている。
「ギルドカード……って、ルーリさんって冒険者だったんですか!?」
彼女が僕に見せたがったもの。
それは彼女自身のギルドカードだったのだ。
「もちろん。ギルドの受付をやってる人はだいたい冒険者なのよ。知らなかった?」
「僕はギルドってものに入ったのはあの町が初めてなんですよ。知るわけ無いじゃ無いですか」
「そうだったわね」
ルーリさんは少し笑うと、説明してくれた。
荒くれどもが集まる冒険者ギルド。
受付というのはその荒くれどもを毎日のように相手にしなければならない。
つまり、普通に町にいる女の子には務まらない職業なのだ。
「といっても、女性の受付担当って私以外だと数人くらいしかいないらしいのよね」
「そんなに少ないんですか。僕はてっきりどこのギルドでも受付には綺麗なお姉さんがいるんだろうなっておもってましたけど」
「領都の受付なんて、筋肉ムキムキのマッチョなおじさんよ?」
それを聞いて、直接領都のギルドに行かなくて良かったと僕は心の底から思うのだった。
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