第23話 ゴブリンテイマー、相棒を信じる
町の門を出たところで僕たちは立ち止まりワイバーンと対峙した。
いきなり襲いかかってくるものとばかり思っていたが、どうやら大量のゴブリンを見て警戒しているらしい。
本来ならゴブリンなんてワイバーンにとっては人間よりもたやすく蹴散らせる存在のはずだ。
だけどワイバーンはじっと僕らの方を見つめて身を低くしたまま動かない。
「これはちょっと厄介かな?」
『ゴブッ』
「え? 自分に任せろって?」
『ゴブブ』
「新しく手に入れた力を試してみたいって言われても……死んだりしないよね?」
『ゴブゥ』
「そっか、それじゃあ本当に危なくなったらすぐに下がってくるんだよ。とりあえず補助魔法だけ掛けておくね」
僕は両手を高く天に向けて意識を集中する。
前回【炎雷団】と戦った時と違い、今回は今いるゴブリンたち全員に速度アップの補助魔法を掛けることにした。
これでワイバーンがゴブト以外に標的を変えても逃げることは出来るはずだ。
「本当なら町の中で先に掛けておけば良かったんだけどね」
『ゴブブブ』
「ごめんよゴブナ。ちょっと町の人たちにかっこつけようとしてたら忘れちゃってたんだ。これからは気をつけます」
ゴブナに少し怒られている間に、僕の補助魔法を受けたゴブトが、自慢の双剣を構えながらジリジリとワイバーンに近寄っていく。
相手のワイバーンも、多分見たことのない進化したゴブリンに対してうなり声を上げて警戒度を上げているようだ。
それでも僕たちの方も気になるのか、その目はゴブトと僕らを交互に見て、隙を見せないようにしている。
「ワイバーンは結構猪突猛進的なところがあるってルーリさんに教えて貰ったけど、この個体は慎重だよね」
『ゴブブ』
「え? あのワイバーンも進化した個体だって?」
僕はゴブナの言葉を受けてもう一度ワイバーンをじっくり観察してみる。
今朝からのルーリ教室で、イラスト付きで見せられたAランクからSランクの魔獣一覧。
その中のAランク下位に載っていたワイバーンのイラストと、特徴が書かれていた説明文と、目の前の個体を比較してみる。
「えっとまず翼の先についた鉤爪と、両足の爪が主な武器だったかな」
翼の中央部にある鉤爪は四本。
足にあるのは三本。
これは記述と変わらない。
「じゃあ顔かな」
たしか頭に大きな一本角があって――
「あれ? 二本生えてるぞ」
目の前でゴブトと隙をうかがい合っているワイバーン。
その額からは縦に二本の角がはっきりと生えていた。
まず長く大きな角が一本。
その上に少し短めの二本目の角。
「たしかにあれは通常のワイバーンとは違うみたいだね。ゴブナ、よく気がついた」
『ゴブブブブ』
「そんなに怒らないでよ。僕が間抜けでした、すみません」
どうやらゴブナは僕が普通のワイバーン相手だと思ってゴブトを一人で送り出したことが気に入らないようだ。
たしかに初めて会った時からこの二匹は常に一緒にいて、人間である僕から見てもわかりやすいくらいのカップルではあったんだけど。
「ゴブトが出来るって言ったんだ。もう少しゴブトを信じてあげなよ」
『ゴブゥ』
少し不満そうな声を上げつつも、ゴブナは僕の言葉……いや、ゴブトを信じることにしたようだ。
「そろそろどっちかが我慢できなくなって動きそうだね」
僕がそう呟いた刹那。
ゴブトとワイバーンが同時に動き出す。
『グワアアアアアアアアアアッ』
『ゴブウウウウウウウウウッ』
雄叫びが僕の耳を打った次の瞬間、強い金属同士がぶつかったような音が続いてやってきた。
それはゴブトの双剣と、ワイバーンの足の爪が衝突した音で。
ガキン!
ゴキン!
ガンッ!
連続して響くその音は、二匹の戦いの激しさを物語っている。
「凄いぞ。ゴブトはワイバーンの力に全く押し負けていない」
ゴブリンオーガへの進化というのはこれほどまでに凄いものなのか。
僕は興奮気味に戦いの行方を見守った。
相手も進化しているワイバーンだというのに、ゴブトの力はそれと互角。
「このままゴブトだけでも倒せてしまうんじゃないだろうか」
僕は予想以上にパワーアップした相棒の勇姿に心が奮い立つのを感じるのだった。
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