第24話 ゴブリンテイマー、焦る
進化したゴブトとワイバーン。
お互いに一歩も譲らず、そのパワーはほぼ互角に見えた。
しかし、互角じゃない物があった。
バギンッ。
『ゴブッ』
響き渡る破砕音の後に、吹き飛ばされていくゴブトの姿。
そう。
ゴブト自身の力は決してワイバーンに負けてはいなかった。
だがゴブトの持つ双剣は、ワイバーンの爪の硬度に比べて脆弱すぎたのだった。
「ゴブト!」
僕は慌ててゴブリンたちに指示を出そうと身構え――
『ゴブブブブ!』
その指示より先に、ゴブナのファイヤーボールが放たれると、追撃をしようと駆け出したワイバーンの進行方向へ着弾する。
直撃ではない。
だけど、ワイバーンの足を止めるには十分なものだったらしい。
『ガァァァッ』
邪魔をされたことでターゲットがゴブトから僕らの方へ移った。
そう感じた瞬間、僕はゴブリンたちに指示をした。
「あのワイバーンを押さえ込め!!」
『『『ゴブブブブゴブブゴブ!』』』
僕の後ろに控えた約百二十匹ものゴブリンたちが一斉にこちらに標的を変えたワイバーンに襲いかかる。
普通のゴブリンならそれでもワイバーンに一瞬で蹴散らされていただろう。
だけど、僕のゴブリンたちは違う。
町に来る前の修行で、確かに一番強くなったのはゴブトとゴブナの二匹だ。
だが、残りのゴブリンたちだってその二匹に劣るとは言え、普通のゴブリンとは違う。
『ギャオォォォォゥン』
ワイバーンが、迫り来る大量のゴブリンたちを凶悪な爪を振るって蹴散らそうとする。
が、僕の補助魔法が掛かったゴブリンたちは、見事な身のこなしでその爪を避けていく。
ゴブトならこのワイバーンの攻撃など真正面から受けずに避けることはたやすかったはずだ。
だがゴブトは自分の進化したゴブリンオーガという力を試してみたかった。
だから真正面からの力勝負を仕掛けたわけだが。
『ゴブッ』
『ゴブゴブッ』
他のゴブリンたちは流石にワイバーンとの力比べが出来るほどの力は持たない。
故に、彼らはその持ち前の速度と集団の力でワイバーンに群がっていく。
『ゴッ』
『グギャアアアアオオゥ』
他のゴブリンがワイバーンの攻撃を誘いつつ、その隙を突いて数匹のゴブリンがワイバーンに取り付き、その体に石で作ったナイフを突き立てる。
流石に収入も何もない状態で、このゴブリンたち全員に武器を用意することは出来なかった僕は、彼ら自身に石や木を加工して武器を作らせることにした。
「石のナイフでもダメージは与えられてる!?」
流石に木製の武器は全てワイバーンの表皮に弾かれてしまっていたが、鋭く加工した石のナイフだけは効果を発揮している。
その事を理解したゴブリンたちは、石のナイフを持つ者以外はワイバーンの動きを止めることに専念することにしたようだ。
そしてゴブナとゴブミンは、そんな乱戦の中には魔法を打ち込めないため、僕の前で魔力を高めつつ待機状態である。
『グワァッ』
百匹を超えるゴブリンに群がられ、その体に僅かずつではあるが傷が増していく中。
ついにワイバーンは大きく鳴き、その翼を大きく広げたのだ。
「やばい。みんな! 翼を攻撃するんだ!?」
本来、ワイバーンの主戦場は地上ではない。
今までは僕たちを格下だと侮っていたために、地上で戦っていたワイバーンだが、さすがに不利だと悟ったのだろう。
「だめかっ」
僕の指示で、ワイバーンの背に乗り込んでいた数匹のゴブリンが、石ナイフをもって翼へ飛びかかる。
だが、ワイバーンの翼に僅かばかりの傷を付けたのみで、あっさりと弾き飛ばされてしまう。
『グゲーッ』
ワイバーンの翼が風を纏う。
ワイバーンやドラゴンなど空を飛ぶ魔物は、その翼自体の揚力で空を飛ぶわけではない。
そんな物では魔物の巨体を空中に浮かべる事は不可能だからだ。
ではどうやって魔物は空を飛ぶのか。
そう彼らはその翼を基準点とした風魔法によって空を舞う。
翼は空中での軌道を制御するための物でしかないと言われている……らしい。
これも今朝、ルーリ先生に教えて貰った事だ。
「空に飛ばれたらゴブリンたちじゃ攻撃が届かないじゃないか」
僕は今にも浮き上がりそうなワイバーンを見ながら呟いた。
その間にも、果敢にワイバーンへ飛びかかっていくゴブリンたちが、ワイバーンの纏う風によって次々と弾き飛ばされる光景が続いていく。
『ゴブブ!』
「ああ、そうだね頼むよ」
ゴブナが魔法の杖を振りかざし、ファイヤーボールを放つ。
直接攻撃が無理でも魔法なら風を突っ切って届くかもしれない。
そう思ったのもつかの間、ゴブナが放ったファイヤーボールに向けてワイバーンが大きく顎を開く。
「まさか……嘘でしょ!?」
その顎の奥に赤く光る物を見た時、僕は思わずそう叫んでいた。
赤い光が輝く顎の奥から放たれたのは火球。
それもゴブナが放ったファイヤーボールよりも大きな火球だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます