第三章 襲撃! ワイバーン
第21話 ゴブリンテイマー、決意する
「いったい何の騒ぎだ」
カウンターの向こうでマスターが救急セットを棚から取り出しながら二人に向けて大きな声で問いかけた。
僕とルーリさんが飛び込んでいた二人の元に駆け寄り、残りの客はギルドの外を警戒するため動き出す。
その動きは、さすが冒険者というもので。
「エンヴィ、何があったの?」
傷だらけの男冒険者の腕の中で息も絶え絶えな女冒険者はエンヴィという名らしい。
後で聞いたところによればCランク冒険者の中でも一目置かれる実力者なのだそうだ。
「ワイバーンに襲われて……」
エンヴィをゆっくりと床に寝かせながら、男冒険者の方がそう叫んだ。
彼の名前はマイル。
エンヴィと同じくCランク冒険者で、彼女と共にCランクパーティ【烈風の刃】の一員らしい。
「ワイバーンだと」
「ああ、町に着く直前に突然空から襲いかかってきやがった」
マイルが言うには、隣りの領からこの地へ商人からの護衛依頼を受け、やっと町にたどり着く直前に油断したところを襲われたのだそうだ。
「町の近くで襲われるとは思わなかったから油断しちまった」
「他のパーティメンバーはどうした?」
「あいつらは軽傷だ。今は門の所で門兵と一緒に警戒してるはずだ」
救急セットを抱えて駆け寄ったマスターが、テキパキとエンヴィの防具を外して治療を行っていく横で、ルーリさんはマイルの傷を回復魔法で癒やしていく。
どうやらマイルは見かけほど重傷ではなかったようで、弱い回復魔法しか使えないルーリさんでもなんとか回復させることが出来るようだ。
一方エンヴィの傷はぱっと見でもかなり深い。
回復魔法が使えるなら、まずエンヴィの回復を優先させるべきではと問うた僕にルーリさんはつらそうに首を振る。
ルーリさん曰く、自分の弱い回復魔法では表面だけ直してしまい、逆に悪化させてしまう可能性を考え、冒険者の治療技術を持つマスターに今は任せることにしたそうだ。
「マスター、なんとかなりそうですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。見かけはかなり深い傷ですが、縫って止血をすれば問題は無いでしょう。ただ、早めに中級の回復魔法が使える方を呼んできた方が良いかもしれませんね」
「ルーリさん、この町で中級の回復魔法使いは――」
僕がそう尋ねると、ルーリさんは少し考えるそぶりを見せた後答える。
「この町で中級の回復魔法が使えるメンバーが所属しているパーティは数組いますが、一組以外は遠征に出ています」
「じゃあ、その一組のパーティを呼んできます」
「しかし、彼らは確か今日は朝から近くの村に魔獣の討伐依頼に出てたはずなので、もしそのワイバーンがまだ町の周りにいるとすれば戻ってこられないかもしれません」
僕はその言葉を聞いて少し考える。
そして腰のテイマーバッグに手を当てて、中のゴブリンたちに語りかけた。
『みんな、ワイバーンと戦って勝てると思うかい?』
僕はゴブリンたちと共に修行をしている間、何種類かの魔物と戦った経験はある。
だけど、その中にワイバーンはいなかった。
「ルーリさん」
「なあにエイルくん」
「ワイバーンは例の【炎雷団】の人たちなら倒せる位の強さですか?」
「そうね。多分全盛期のあの人たちなら十分対処出来たはずよ」
「そうですか」
僕はテイマーバッグの中のゴブリンたちから急かされるように立ち上がると、ギルドの出入り口に向かって歩いた。
「ちょっと、何処に行くの?」
「何処って、ワイバーンを倒してきます」
「正気?」
「ええ。だって【炎雷団】くらいの力があれば倒せる魔物なんでしょう?」
僕はそう言ってルーリさんに笑顔を返す。
彼女はその僕の言葉の意味に気がついたのか、それ以上僕を止める気は無いようで。
「怪我だけはしないように気をつけてね」
とだけ言って僕を送り出してくれたのだった。
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