第19話 ゴブリンテイマー、首輪を手に入れる

 残されたのは僕とギルマス。

 そして三匹のゴブリンだけだ。


「しかし、そっちの雌ゴブリン二匹はいいとしてだ」


 ギルマスの目線がゴブナとゴブミンからゴブトへ移動する。


「こっちのゴブリンオーガは、どう見てもゴブリンに見えねぇからギルドの会員には一応説明しておいた方が良いだろうな」


 ギルマスは立ち上がると「ちょっと待ってろ」と言い残し応接室を出て行く。

 そしてすぐに孵ってくるとテーブルの上にオレンジ色の輪っかのような物を三つ置くと、その中で一番大きな輪っかを僕に差し出す。


「お前さん、使役魔物にこれ付けてないだろ」

「これって何ですか?」


 僕はギルマスから輪っかを受け取るとくるくる回しながら見てみる。

 太さは小指ほどだろうか。

 表は一カ所だけ小さな宝石が施されたシンプルな輪っかだが、内側には何やら魔方陣のような物が描かれている。


「それはテイマーが使役した魔獣に付ける首輪だ。まぁでけぇ魔物には足に着けたりするがな」

「首輪? これをゴブトたちに着けるんですか」

「ああ。というか、本来テイマーの使役魔物にはこの首輪型魔道具は絶対に付けておくべき代物だぞ」


 ギルマス曰く、普通の魔物と使役されている魔物を区別するために、普通のテイマーは自らの使役魔物には必ずこの首輪を付けるのが当たり前なのだそうだ。

 そうじゃないと突然空からグリフォンやドラゴンが現れた時に、兵士や冒険者から攻撃を受けてしまうからである。

 内側の魔方陣は、街などに貼られている魔物避けの結界を通り抜けられるようにする効果があるという。


「でも僕のゴブリンたちは普通に街には入れましたけど?」


 最初に街に来た時や、クエストに向かった時はテイマーバッグに入れていたから結界を通れたのだとしても、炎雷団を引き連れて戻ってきた時もそのまま街に入ることが出来たのだ。

 もしかしてこの街には結界が無いのだろうか?

 僕がそう口にするとギルマスは少し言いにくそうにしながら教えてくれた。


「対魔物用の結界ってのはよ、それなりに強い魔物にしか効かねぇんだよ」

「どうしてです?」

「そりゃあ、結界を維持するのにもそれなりのコストってもんがかかるからな。ゴブリン程度の魔物じゃあ普通壁も越えられないし、門を突破して中に侵入するなんて不可能だ」


 弱い魔物は簡単に対処出来るので、それに警戒するコストをより強い魔物相手に振り分けた方が良い。

 そういう設計思想で街の結界は作られているらしい。


「だからお前さんのゴブリンは素通りできたって訳だ。本来ならルーリとかが使役魔物を一度チェックすべきだったんだろうが」


 ギルマスは机の上に残る二つの首輪の片方を手に取り続ける。


「まぁ、まさかお前さんがテイマーとしてこの首輪を知らないとは思わなかったしな」

「すみません。無知でした」

「いいってことよ。というかこれもこっちの不手際のようなもんだ」


 そして今回、ゴブトがゴブリンオーガというクラスへ進化したことで、もしかすると街の結界が反応するのでは無いかとギルマスは言う。

 たしかに弱い魔物には効果の無い結界ならば、どう見ても強い魔物と化したゴブトは引っかかるかもしれない。

 それにゴブナとゴブミンの二匹も、この先進化すれば引っかかるようになってしまうだろう。

 他のゴブリンたちにも、この先進化すればその可能性はあるが、流石にギルマスも百以上もの首輪は用意できないと苦笑いをしていた。


「今回は色々こっちも迷惑を掛けた事だし、その三つはプレゼントするよ。だが本来首輪はタダじゃねぇ。お前さんのゴブリン全てに首輪を用意するとなるとかなりの金額が必要になるだろうよ」


 普通のテイマーなら多くて数匹しか使役魔物はいない。

 なので、元々大量生産されているものでも無いらしい。


「そうですね。それじゃあこの三匹以外は進化しないように命令しておきます」

「ああ、出来るのであればそれが良い」

「出来ると思いますよ。繁殖も今は禁止させてますし」


 僕はテイマーバッグに手を当て、中にいるゴブリンたちへ向けて『お願い』を魔力に込めて送り込む。

 するとテイマーバッグからゴブリンたちの了承の意が伝わってきた。

 このバッグの中の魔物との意思疎通は、テイマースキルを持つ者しかわからない感覚なんだと思う。


「これでよし。それで話はこれで終わりでしょうか?」

「そうだな。正直言ってお前さんのそのスキルは異常だという事だけはわかった」

「僕もそんなに他のテイマースキルと違うとは思ってませんでしたよ」

「あと、お前さんが常識的なことも全く何も知らないって事がな」


 ギルマスは少し笑い応接室の出口を顎で示して告げた。


「この部屋を出て左に二つ目の部屋が資料室だ。そこでルーリがお勉強の準備して待ってるはずだ。行ってこい」

「はい、ありがとうございます。それじゃあゴブトたちも一緒においで」

『『『ゴブブ!』』』


 そうして僕は応接室の出口でもう一度中にいるギルマスに頭を下げると、ウキウキした気分でルーリさんの待つ資料室へ向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る