第18話 ゴブリンテイマー、無知を知る
「ギルマス、とりあえず鑑定結果を伝えておきますね」
「いいのか?」
「はい。ですけどこれはしばらくは秘密にしておいてもらいたいのです。僕にもこの【ゴブリンテイマー】の力がよくわからなくなってきたので」
僕がそう言うと、ルーリさんがそそくさと立ち上がり僕に
「私は部屋を出ていた方が良いですよね?」
と尋ねてきた。
「秘密にしておいてもらえればかまいませんよ」
「でも、知ってしまうと何かあった時についポロリと言っちゃいそうで」
「ルーリさんはそんな人じゃ無いでしょう。それに、もしポロリしちゃったらその時はその時ですし」
僕はそうルーリさんに微笑みかけると、先ほどの鑑定結果を二人に語った。
「ゴブリンオーガだと」
「はい。ギルマスは聞いたことありますか?」
僕の質問にギルマスはまたしても首を振る。
この部屋に来てから彼にも知らないことばかりで、その表情も少し硬くなってきているように見える。
「いや、さっぱりだ。そもそもゴブリンとオーガは種族的にも別種族だぞ」
「ですよね」
「異種族同士を掛け合わせて新しい魔物を作る研究が昔行われたという噂も聞いたことがあるが――」
だとしても最弱種であるゴブリンを素体の一つに使うなんて無駄な事をする訳がないとギルマスは頭を傾げる。
だとするとやはりゴブリンオーガというのはゴブトのユニーククラスなのだろうか。
それとも他のゴブリンでもゴブトと同じように育てればゴブリンオーガにクラスチェンジするのだろうか。
「それでそっちの雌ゴブリンは分裂したってか。スライムじゃあるめぇし……」
「分裂して増える魔物というのはスライム以外にもいますけど、ゴブリンが分裂するというのは聞いたことは無いわね」
「ですよね。ほっといてもテイマーバッグの中で勝手に増えたりしますけど、分裂じゃなく普通に交尾して増えてましたし」
ゴブリンたちは油断をするとすぐに子供を作って増えてしまうのだ。
それが例えテイマーバッグの中だとしてもである。
いったいあのテイマーバッグの中はどうなっているのか気になって仕方が無くて一度ゴブトに尋ねたことがある。
だが、ゴブトの片言の言葉では僕にはよく理解できなかった。
わかった事と言えば、ゴブリンたちはあのバッグの中で時を止められているわけでは無いということ。
そして、彼らが生活できる空間が確保されているということだ。
「そのバッグの中でもゴブリンは増えるってのか」
「え? もしかしてゴブリン以外の種族は増えないのですか?」
ゴブリンしかテイムしたことが無い上に、他にテイマーを知らない僕にとっては、テイマーバッグの中の謎空間では普通に魔物同士が暮らしている以上、場合によっては交配し、増える事もあるのが普通だと思っていた。
だけどギルマスの声からは、それが異常なことであると伝わってくる。
「それはそうだろ。そもそもテイマーが使役出来るのはテイマー自身の魔力の範囲内だけだぞ」
「勝手に増えたらテイマーの魔力を超えてしまって制御できない魔物が生まれることになるのよ」
たしかに言われて見ればそうだ。
と言うことはやはりゴブリンがテイマーバッグの中で繁殖するというのは【ゴブリンテイマー】の力のせいなのだろう。
「しかもゴブリンなんていう繁殖力が異常に高い魔物が勝手に増え続けたら、テイマー自身の魔力が食い尽くされて……」
「それで僕、何度も気を失いそうになってたんですね」
軽い調子で答えた僕に信じられないと言った表情を浮かべたギルマスが声を上げる。
「気を失う程度では済まないぞ。完全に魔力を使い尽くされたら人は死ぬと言われてる事くらい知ってるだろ」
「そうなんですか?」
なにせ田舎の村で生まれ育った僕だ。
まともな学校にも通ったことが無いのに、一般的な知識などあろうはずが無い。
村の集会所で行われる子どもたちを集めた勉強会で、せいぜい文字の読み書きと簡単な計算の仕方を教わるくらいである。
テイマースキルの詳しい特性など知るわけがない。
「ふむ。エイルくんには色々とこれから覚えてもらわなければならないことがありそうだな」
ギルマスはそう言うと、隣のルーリさんに目配せをする。
「わかりました。私がエイルくんの教育係になりましょう」
「いいんですか?」
「新人教育もギルドの仕事ですから。それに、あまりエイルくんの秘密を他の人達に知られるのもよく無さそうですしね」
どうやらこの後すぐにルーリさんとの個人授業が行われるという。
ルーリさんは軽くウインクをすると「それでは準備をしてきますね」と応接室を出ていった。
本当ならすぐにでも彼女の後に付いていきたいところだったが、ギルマスはまだ少し僕とゴブリンたちに話があるらしい。
仕方なく僕はソファーに腰掛け、目の前に座るギルマスの言葉を待つことにしたのだった。
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